第18話 超希少種ドラゴンを倒す
「なんですって領主サマ!? あのドラゴンのブレスもコピーしたんですかい! それは歴史的な偉業ですぜ! 国中の魔法研究者がひっくり返りますぜ!」
昔読んだモンスターについての研究所には、確かに『ドラゴンなど一部モンスターのブレス攻撃は、魔法の一種として解釈できる』と言う記述があった。
しかしまさか、【根源魔法】の力でコピーできるとは思わなかった。
『人間風情が、我が誇り高き龍族のブレスの真似事をするなど、万死に値する! 骨も残さんと思え!』
レインボードラゴンが咆哮し、目の前に雷が落ちたように大気が震える。
再度ブレスの体勢に入るレインボードラゴン。僕も龍炎魔法“サファイアブルーフレア”で迎え撃つ構えに入る。
これまで見たどの魔法よりも複雑な魔法陣が、立体的に組み合わさって出現。魔法陣の回路を魔力が行き渡って、魔法を励起させる。
炎は、温度が上がるにつれて色が赤から青へと変化する。
僕の魔法陣から、美しい透き通る蒼色の炎が噴き出す。僕の蒼炎はレインボードラゴンの蒼炎を打ち消し、レインボードラゴンの体を飲み込む。
『グアアアアアアアアアアァ!』
レインボードラゴンの悲鳴が地を震わせる。
「なぁおい、あれ見ろよ……」
タイムロットさんが、震える指でレインボードラゴンの後ろにあった山を指し示す。山の中腹に、今の僕の“サファイアブルーフレア”によって穴が空いていた。
「直撃ですらない魔法攻撃で山の土手っ腹に穴を開けるなんて、信じられない威力だぜ……」
「レインボードラゴンのブレスも打ち消したしな! 領主様の火力は世界一だぜ!!」
「領主様にかかれば、レインボードラゴンさえ敵じゃねぇのか! 領主様は世界最強だぜ!」
「みなさん、油断しないでください! まだレインボードラゴンは生きています!」
僕の予想通り、レインボードラゴンが起き上がる。
『我の鱗は炎耐性もドラゴン族最強だ! 炎は我に効かぬ! よくも人間如きが、我に手傷を負わせたな!』
その時、またドラゴンの体を包む黒いモヤが一瞬晴れる。
『すみませんすみません! 失礼なことを言ってすみません!』
なんとドラゴンが、ペコペコと頭を下げ始めた。
「……へ?」
黒いモヤがまたドラゴンの体を覆うと、凶暴な性格に戻る。
『図に乗るなよ、人間風情が! 粉微塵にすりつぶしてくれる!』
そう言って前足を僕に向かって叩きつけてくる。僕は後ろに飛んで避ける。
『よくもちょこまかと! 人間如きが! 人間如きが!』
レインボードラゴンが、両前脚による猛攻を仕掛けてくる。僕はその全てを、左右に飛びながら回避する。
『さぁ壁際に追い詰めたぞ。もう逃げ場はない、これでとどめだ!』
「おっと、僕だけに気を取られていていいのか?」
僕は余裕の笑顔で返す。ドラゴンの後脚には、鎖が絡み付いていた。
「この村には俺たちもいるってことを忘れてもらっちゃ困るぜ!」
鎖の反対端を、冒険者さんたちが握っている。
『しまった、貴様は囮か!』
今更気づいても、もう遅い。
「「「せーの!!」」」
冒険者さんたちが、渾身の力で一斉に鎖を引く。ドラゴン相手では、人間が100人集まっても勝てはしないだろう。しかしこの村の冒険者は、一人一人が、僕の“刻印魔法”によって筋力が十倍以上に強化されている。
『グヌウウウウウゥ!』
ドラゴンの巨大がバランスを崩して倒れる。衝撃で、口が開く。みんなが作ってくれた隙。これは絶対に見逃せない。
レインボードラゴンの鱗は剣では貫けない。だが、鱗のない口の中から、頭に向かって剣を刺せば倒すことができる。
––だけど、
「状態異常解除魔法“ローキュアー”発動!」
僕はドラゴンを殺すのではなく、かけられている呪いを解く魔法を使った。レインボードラゴンの体を覆う黒いモヤが完全に消え去る。
レインボードラゴンの体から力が抜け、完全に戦闘体勢を解く。
……決着だ。
「領主様、これは一体?」
「レインボードラゴンに掛けられていた、呪いを解きました。レインボードラゴンはなんらかの呪いで操られていただけです。レインボードラゴンの抵抗で呪いが一瞬解けた時には、元の戦闘を好まないおとなしい性格が見えました。なので、殺さない方法をとりました」
僕が解説すると、村の冒険者さんたちは感心する。
「呪いまで解けるなんて、俺たちの領主様は凄すぎる」
「慈悲深い」
「勇気があるぜ」
「いえいえ、伯爵家の教えに従ったまでですよ」
――ロードベルグ伯爵家の教え其の21。『無用な殺生を行うことなかれ』。
例え相手がドラゴンでも、話が通じるのであれば殺したくはない。
“シュウウウウウウウゥ……“
突如、レインボードラゴンの体が小さくなっていく。形も変わり、ドラゴンから人間へと変化していく。
あっという間にレインボードラゴンは、虹色の髪をもつ美少女へと変身した。
――そして、猛烈な勢いで土下座をした。
「人間の皆様、この度は大変なご迷惑をおかけしましたあああああああああああああ!!」









