第107話 勇者との最終決戦が幕を開ける
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「やっとたどり着いたぞ、勇者ラインバート」
魔族の拠点の最奥地。ついに僕は、勇者ラインバートと対峙していた。
階段を上った先にあったラインバートの部屋は、悪趣味というほか無かった。金に物を言わせた過剰な装飾品。壁には剣が何本も飾られているが、しっかりと手入れされているようには見えない。【勇者】のギフトの力を誇示する、自分を強く見せたい性格が表れた部屋だった。
「来やがったか。お前が王都で魔王を一体倒したっていうメルキスだな?」
「その通りだ。あの時逃げた魔族を追ってここまでたどり着いた。魔族も、【勇者】の力を持ちながら魔族についたお前もここで倒す」
僕は剣を構える。
「俺を倒す、か。普通にここで相手をしてやっても良いんだが……こうさせてもらうぜ!」
勇者ラインバートは、部屋の奥に駆け込む。そして、棚を横にずらした。
「隠し通路だって!?」
「その通り。ここに来るまで、長い階段を登ったろ? 実はここ、結構地上に近いんだぜ」
勇者ラインバートは、そのまま隠し通路の階段を駆け上っていった。
「待て! 逃がさないぞ!」
僕も勇者ラインバートを追って階段を上がっていく。
地上に出ると、見覚えのある景色が広がっていた。
「ここは――街の中心部、領主邸の前か」
ルスカン伯爵の屋敷の前にある大きな広場だ。
地下通路の出口の横には、大きな石像が横たわっている。昔父上に連れられてこの街に来たときに見た、この広場の中央に建てられていた石像だ。どうやら、地下通路の出口を石像で隠していたらしい。
「なんだ!? 石像が倒れて勇者様が出てきたぞ!?」
「なんでこんなところに勇者様が?」
石像が倒れた音を聞きつけて、何事かと人が集まっている。
しかしいったい、勇者ラインバートはこんな所へ来て何をするつもりだ?
「よし、ちゃんと集まってるな愚民共。行くぜ、竜頭召喚――レッドドラゴン!」
勇者ラインバートが【勇者】のギフトの力を発動。レッドドラゴンの頭が召喚される。
竜の頭は、僕ではなく街の人々の方を向いていた。
「勇者様? 一体何を?」
「どうして俺たちに向かってドラゴンの頭を向けてるんです?」
街の人達は、理解できないという顔をしていた。
「メルキス。お前は、一般市民を見殺しに出来るか?」
勇者ラインバートが何をしようとしているのは、最低なことだった。
”ゴウッ!”
レッドドラゴンの頭が、街の人々の方へ向けて火を噴く。
「土属性魔法”ソイルウォール”!」
僕は反射的に魔法を発動。街の人達の前に土の壁を生成し、ドラゴンのブレスから街の人々を守った。
「あ、ありがとうございます!」
「何が起きたのかよく分かっていませんけれど、とにかく助かりました!」
街の人々がお礼を言う。
「早く逃げてください! 勇者ラインバートは、あなた達を殺すつもりです!」
僕が呼びかけると、街の人達は慌てて逃げ出す。
「逃がすかよ! 竜頭召喚――ブラックドラゴン!」
今度は黒いドラゴンの頭が出現。走る街の人々に追いつき、食らいつこうとする。
「くそ、遠すぎる!」
僕の手持ちの普通の魔法では、この距離からだとあのドラゴンの頭を仕留める前に街の人が食べられてしまう。
「だったらこれだ! 魔法融合発動! 下級雷属性魔法“ライトニングスパーク”と上級闇属性魔法”ダークケルベロス”を融合! ”迅雷と黒狗の顎”!」
僕が呼び出したのは、雷の性質を纏った魔犬。稲光の様に素早く街を駆け抜け、ブラックドラゴンの喉笛に食らいつく。犬はそのまま喉を食いちぎり、ドラゴンの頭を消滅させる。
「勇者ラインバート! お前、街の人を人質にして、僕の魔力を削るつもりか!
「その通り。もちろん普通にやっても俺様は99%負けない自信があるが。1%でも勝率を上げるために、俺様はどんなことでもやるぜ。俺様は慎重な性格だからな」
「卑怯者の間違いだろ!」
「なんとでも言いやがれ。ほら、もう一丁! 竜頭召喚――ブルードラゴン!」
勇者ラインバートが次々とドラゴンの頭を召喚して、街の人々を攻撃していく。僕は、防御魔法を駆使して街の人々を守る。竜の攻撃を、ひたすら魔法で防いでいく。
「くそ、1対1で戦えさえすれば……!」
僕は歯噛みする。勇者ラインバートのドラゴンの頭を呼び出す力はギフトによるもの。流石に無限に呼び出せるわけではないだろうが、消耗は小さいはずだ。
対して僕は、街の人々を守るために魔力を消費して魔法を使っている。このまま続けば、間違いなく先に僕の魔力がつきる。
魔力が尽きれば、常に発動している身体能力強化魔法”フォースブースト”も維持できなくなる。その状態ではとても勇者ラインバートに太刀打ちできない。
「誰か、誰か助けて! まだ娘が中に居るの!」
燃える家の前で、母親らしき女性が必死に訴えている。最初のドラゴンの攻撃の一部が当たり、家が火事になってしまったらしい。
助けに行きたいが、勇者ラインバートが次々呼び出すドラゴンの頭の相手で手一杯だ。
「一体どうすれば――!!」
その時。
”バシャアアアアアアアァ……!”
突如燃えていた家の上空から、大量の水が降り注ぐ。上を見上げると、ドラゴン形態のナスターシャが空を飛んでいた。
「助けに来たよ、メルキス!」
ナスターシャの背中に乗ったマリエル叫ぶ。今火事を消したのは、マリエルが異次元倉庫から取り出した水のようだ。
「追いついたぞ、我が弟子よ」
エンピナ様も地下の通路から出てくる。魔法を放ち、勇者ラインバートが召喚したドラゴンの頭を倒す。
「俺たちもいるぜぇ! 地下の魔族共は全員ぶちのめしたぜぇ! あとは、お前をぶっ飛ばすだけだぜ勇者野郎!」
冒険者さん達を率いてタイムロットさんも地下から現れた。
今ここに、村の全戦力がここに集結した。
「なんだか知らねぇけど、わらわら雑魚共が湧いてきやがったな。仕方ねぇ、俺もとっておきを見せてやる」
勇者ラインバートの前に、眩い光の粒子が集まっていく。その量と輝きは、さっきまでの比ではない。
「竜頭召喚――オロチ!」
現れたのは巨大な竜の上半身。1つの身体に対して、8つの頭が生えている。気配で分かる。あのドラゴンは、さっきまでのドラゴンとは比べ物にならないほど強い。
「一個ずつ切り落としてやるぜぇ!」
タイムロットさんが大斧の一撃を首の1つに叩き付ける。しかし、ウロコを切り裂くのがやっとだった。
「他のモンスター共とは比べものにならないほど硬てぇ! こいつは、やばいぜぇ……!」
オロチの8つの頭がタイムロットさんをにらみつけた、その時。
「みーつーけーたー!!」
上から声がする。見上げると、家の屋根を飛び移りながらカノンがこちらへやってくるところだった。
「見つけたぞ勇者! 今日こそアタシの方が強いってことを証明してやる! とりゃー!」
カノンがオロチの頭に強烈な跳び蹴りを叩き込む。
”グルアアアアアァ!”
蹴りを受けたオロチの頭が、上半身ごと吹き飛ぶ。アレは強烈だ。
「という訳で、大英雄カノン様の到着だ!」
「カノンちゃん! なんでこんな大事な時に迷子になってるんですかぁ~! 一緒に戦おうって約束したのに、ワタシ一人で戦うことになっちゃったじゃないですかぁ~!」
両腕を腰に当てて高らかに宣言するカノン。その肩を、ナスターシャが何度も揺さぶる。
「ごめんってナスターシャ姉ちゃん! 謝るから放して! 肩がミシミシ言ってるから!」
カノンがジタバタ暴れてナスターシャを振りほどこうとしている。
「とりあえず、アタシが迷子になった件については、あのデカいのを倒してから話さない?」
カノンがオロチを指さす。
”””””””グルルルルルゥ……!””””””””
低いうなり声を上げてオロチが起き上がる。8つの頭が、カノン達をにらみつけている。
「殺すつもりで蹴ったけど、まだまだ元気か。いいよ。跡形も残らないくらいすり潰してやる」
ナスターシャから解放されたカノンが両拳を打ち合わせる。
「我も手を貸そう。8つの頭は、汝の手には余るだろう」
エンピナ様の背後で、水晶が蒼く輝いている。超上級魔法発動の体勢に入っている。
「野郎共! 俺たちもやるぞ! あのデカブツに領主様の邪魔をさせるな!」
「「「応!!」」」
タイムロットさんが村の冒険者さん達を率いて武器を構える。
「皆さん、頼みました!」
これで、勇者ラインバートと1対1で戦える。僕は勇者ラインバートと向き合う。
「クソが! 竜頭召喚、ヒュド――」
「させるか!」
僕は最速で間合いを詰め、勇者ラインバートと切り結ぶ。
ドラゴンの頭を召喚する時、隙が発生する。至近距離での斬り合いなら、ドラゴンの頭を召喚させる暇を与えず戦える。
「勇者ラインバート、ここからは純粋な剣術勝負だ!」
「いいぜ! そこまで剣で勝負したいってならやってやるよ! 【勇者】の力がドラゴンの頭を召喚するだけじゃないっ
てこと、見せてやる!」
こうしてついに、勇者ラインバートとの最後の戦いが始まった。
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