第106話 ???VS剣術自慢の魔族(後編)
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魔族の地下拠点の中、カストルとレンデルが激しく切り結ぶ。
「どうしたどうした! その程度か、人間!」
魔族レンデルの猛攻に押されて、カストルが膝を着く。短い攻防の中で、既にカストルはボロボロになっていた。
「力の差は歴然。良い剣を使っても、埋まる力の差ではないぞ」
「クソッ!」
カストルが歯ぎしりする。
「こうなったら、奥の手を使うか……!」
カストルが、腰からもう一本の剣を引き抜いて構える。
「二刀流か? そんな付け焼き刃で、この俺に勝てると思うのか?」
「ああ! 思うぜ!」
カストルが二本の剣で斬りかかる。再び魔族とカストルの攻防が始まる。
「なに……!? さっきよりも、力の差が埋まっている。なぜだ!?」
「へへへ。教えてやるよ。俺は元々、二刀流の才能があったんだ」
カストルが、訓練を投げ出す様になる前。幼き日のメルキスとカストルは、一緒に剣の修行をしていた。
その中で発見した事実。
『カストルは、二刀流の天才だな』
扱いの難しい二刀流だが、カストルは二本の剣を操る輝かしい才能を持っていた。
メルキスはずば抜けた天才だったが、二刀流だけで言えばカストルも間違いなく天才と呼べる逸材だった。
だが、カストルの才能は生まれた環境とかみ合わなかった。
ロードベルグ流は一本の剣のみで戦う流派。二人の父ザッハークは、二刀流の訓練を許可しなかった。そのため二人は、隠れて二人だけで二刀流の訓練に励んでいた。
来る日も来る日もザッハークの目を盗んで二人だけの訓練をする。
二人で生み出した技は、実戦でも十分に通用する完成度だった。
しかしある日、二人の秘密の修行は終わりを告げる。
『ロードベルグ流は一刀流の剣術だと何度言ったら分かるのだ!』
こっそりと二刀流の修行をしていたことがザッハークにばれて、二人はこっぴどく怒られた。当然、二刀流の稽古は二度とさせてもらえなかった。
カストルが剣の修行を投げ出したのは、それからすぐのことだった。
「懐かしいぜ。久し振りだけど、身体が覚えてやがる」
カストルの腕が二刀流になじんでいく。魔族との力の差が、徐々に埋まっていく。
二人が同時に後ろに下がって、間合いを取る。
「くそ、貴様なぞさっさと片付けて、勇者ラインバートの元へ行かねばならんのに……」
魔族が歯を食いしばる。
「はは。何言ってんだお前。お前程度が追いついたところで、兄貴の敵じゃねえ。お前じゃ、兄貴と勇者の戦いに近づいた瞬間、巻き添えを食らって瞬殺されるぜ」
カストルはそう言って笑う。
「……そう本気で思うなら、貴様は何故俺の足止めをする」
「決まってる。俺は兄貴に借りを返したい」
そう即答するカストルの目は、透き通っていた。
「俺は兄貴にたくさんの借りがある。魔王パラナッシュの生け贄にされたときも助けてくれた。この街で指名手配された俺を、わざわざ二人だけしか分からない合い言葉を使って助けてくれた。こんな俺のことを、信じてくれた」
カストルが剣を強く握りしめる。
「前までの俺は、兄貴に勝ちたいって思ってた。本当は無理だと分かってるのに、気づかないふりをして、汚い手でも使って勝とうとしてた」
胸の内を語り始めるカストル。
「だけど今は違う。兄貴は俺よりずっと、精神的にも剣術でも俺よりずっと先を行ってるって事実を俺は受け入れた。追い越すなんてのは無理な話だ」
カストルが再び剣を構える。
「それでも、俺はあの背中を追いかけていたい。できるだけ近くであの背中を見ていたい。そのためには、兄貴に守られっぱなしのダメな弟な俺をここで終わらせる。兄貴への借りをここで精算するんだ。この戦いから逃げたら、あの背中には二度と追いつけなくなる」
カストルの剣が、光を放ち始める。
「俺はお前を倒して、兄貴の背中を追いかける!」
そう宣言したとき。
『精神的成長により、【剣聖】が【双刃の剣聖】へと進化します』
カストルは、頭の中で響く声を確かに聞いた。
「なんだ、この光は……!」
両手の剣が輝き出す。右の剣は氷の蒼い光。左の剣は炎の赤い光を放っている。
「ここへ来てギフトの進化だと!? おのれ、人間めぇ!」
魔族達セリウムがカストルに襲いかかる。
二人の間で斬撃の応酬が始まる。
「すげぇ、なんだこれ……! 力が湧いてくる! 剣が軽い!」
カストルが、新しい自分の力に驚く。
「「うおおおお!!」」
切り結ぶ魔族とカストル。両者ともに、限界に近い。
そして、より限界に近いのはカストルの方だ。
今の純粋な実力では、カストルは魔族を大きく上回っている。
だが、ギフトが覚醒する前に受けたダメージが大きすぎた。カストルの体力はもはや限界。腕を上げているのがやっと。
「これで、終わらせる!」
トドメを刺すべく、魔族が大技を仕掛けてくる。
「……力を貸してくれ、兄貴」
カストルが最後の力を振り絞って繰り出したのは、かつてメルキスと一緒に生み出した二刀流の技。
それは本来、ロードベルグ流剣術に存在しないはずの型。
「ロードベルグ流剣術”零”式! ”双極氷炎双刃星煌斬”」
一呼吸の間に、17発の斬撃を叩き込む、超高火力の剣技。
斬撃の嵐が、魔族の上半身をズタズタに切り裂いた。
「ぐあああ!」
魔族が大ダメージを受けて吹き飛ぶ。
「だが、まだ俺は終わらん……! 勝つのは俺だ!」
「嘘だろ、しぶとすぎるだろ魔族」
魔族は剣を持って立ち上がり、カストルに迫る。対するカストルはもう、両腕が全く上がらない。
「だったら、これでどうだ!」
”ゴン!”
カストルが、魔族に頭突きを食らわせる。
「おの、れ!」
魔族がよろめき、下り階段へ倒れ込む。
「ぐあああああああ!」
魔族が階段を転げ落ちていく。落下のダメージで魔族は消滅した。
「くっそ。トドメが頭突きとか、締まらねえな。……まぁ、勝ちは勝ちだ! 借りはほんのちょっぴり返したぜ、兄貴」
満足そうに天井を見上げるカストル。
「だけど、追いかける元気までは残ってねぇや……」
カストルは、その場に倒れ込んだ。
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