最ギフ第105話 ???VS剣術自慢の魔族(前編)
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「さぁ、いよいよ勇者ラインバートとの戦いだ……」
地下にある、魔族達の拠点の最深部。僕は勇者ラインバートが待ち構える部屋の扉の前に立っていた。
腰には、村の仲間達が力を合わせて鍛え直してくれた”虹剣ドルマルク”がある。ドワーフさん達のギフトのお陰で、この剣を持っているだけで身体能力は4倍以上に跳ね上がっている。
さらに腰にはもう一本、予備の剣として”宝剣イングマール”を提げている。こちらは王都武闘大会で優勝賞品として国王陛下から賜った剣だ。
魔力はここへ来るまでほとんど消費していない。ベストコンディションだ。それでも、勇者ラインバートに勝てるかはわからない。
僕は緊張しながら、勇者の待ち受ける部屋の扉を開ける
「これは……階段か?」
扉を開けると、だだっ広い空間が広がっていた。
そして横幅数十メートルはあろうかという、幅広い階段が上へと続いている。
「この上に勇者がいるのか……?」
僕はとりあえず、上ってみることにする。
階段の途中には、家がまるごと一軒建ちそうな広さの踊り場があった。中央には人影が立っている。僕を待ち構えていたのは、勇者ではなく魔族だった。
「来たか。侵入者。俺は魔族幹部次期候補、レンデル。実力は他の幹部に一歩劣るが、人間ごときに遅れは取らんぞ」
そう言って魔族レンデルは腰の剣を引き抜く。立ち姿で分かる。相当な腕の使い手だ。
「勇者ラインバートは、この上に居るのか?」
僕は”虹剣ドルマルク”を構えながら問う。
「ああ。わざわざ俺を呼びつけて侵入者と戦えと命令してきた。勇者の真意は分からんが、手を組んでいる以上その程度の頼みは聞いてやるさ」
そう言ってレンデルは剣を構える。
「悪いが、通らせてもらう」
僕も剣を構える。戦いが幕を開ける、その寸前。
「待ってくれよ、兄貴。そいつは俺にやらせてくれ」
後ろから声を掛けられた。僕が振り返ると、予想外の人物がそこに居た。
「カストル! どうしてここにいるんだ!?」
「魔族には色々とやられっぱなしだからな。借りを返しに来たんだよ」
カストルは魔族レンデルをにらみつける。
「よくもこれまで、騙して魔王復活の生け贄にしたりボコボコにした上指名手配かけてくれたりしたよなぁ!」
魔族の怒りを口にしながら剣を引き抜くカストル。しかしいつかのような、むき出しの感情のまま剣を振るっていたカストルの姿はない。どこか大人びたような、落ち着いた雰囲気がある。
「カストル、相手は手強いぞ。お前の手には余る」
僕は手でカストルを制す。
「ああ、分かってる。それでもだ。……頼む兄貴、俺にやらせてくれ」
カストルが、正面から僕を見据えて言う。いつ以来だろうか、こんなに真剣なカストルの表情を見るのは。
「……分かった。そこまで言うなら、任せる」
「おっしゃ! 心配要らないぜ、兄貴。速攻でボコボコにして、兄貴の方に加勢しに行くからよ」
そう不敵に笑うカストルだが、緊張しているのが立ち振る舞いで分かる。
……昔の僕であれば、きっとカストルを止めただろう。カストルの希望など聞き入れず、剣を抜いて魔族に斬りかかっていたはずだ。
だけど僕は、今の村の仲間達に教えられた。
ただ助けられるだけ、守られるだけなのは苦しいのだと。
カストルも同じだ。カストルは僕に守られるだけの弟を辞めて、一人の剣士として歩き出そうとしている。ここでカストルを止めてしまうのは、カストルの成長を止めることに他ならない。
寂しいし不安でもあるが、僕はカストルの成長を見届けようと思う。
「それでも、カストルとあの魔族の力の差は大きい。せめて、これを貸しておく」
僕は、腰に下げていた予備の剣”宝剣イングマール”をカストルに渡す。
「!? いいのかよ兄貴! これ、王都武闘大会で兄貴が国王陛下から賜った剣だろ!? こんな大事なもの……!」
「お前以上に大事なものなんてない。必ず生き延びて上がってこい、カストル」
「……ああ! 当たり前だぜ、兄貴!」
そう笑って宝剣イングマールを構えるカストルの姿は、頼もしく見えた。立ち振る舞いで分かる。王都武闘大会で僕に敗れてから、また一段と修行を積んできたのだろう。
剣術だけで言えば、ロードベルグ伯爵家の跡取りとして申し分ない腕前に成長している。
「じゃあ僕は行く。ここは任せたぞ、カストル」
「ああ! 任されたぜ、兄貴!」
カストルが力強く応えてくれる。
僕は走って、魔族レンデルの横を走り抜ける。
「行かせるか!」
魔族レンデルが剣を抜いて僕へ斬りかかってくる。それを
”ガキン!”
カストルが握る”宝剣イングマール”が阻む。
「お前の相手は、俺だって言ってるだろうが!」
カストルと魔族レンデルが切り結ぶ。
剣同士が何度もぶつかり合う音を聞きながら、僕は階段を駆け上っていく。
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