第100話 魔族を攪乱する
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地下の魔族の拠点の中は、慌ただしくなっていた
「捕まえていた人間に13番出口から逃げられた! なんとしても追いかけて捕まえろ!」
「今度は13番出口から人間どもが乗り込んできたぞ! 迎え撃て!」
魔族達が武器を手に取って出口前に集結する。襲撃の知らせは、拠点中にあっという間に広がっていく。
「オラァ! どきやがれ魔族ども!」
タイムロットが豪快に斧を振り回して魔族を蹴散らして行く
「クソ! 強いぞこの人間ども! 応援を呼んでこい!」
出入り口前の地下通路は、混戦になる。
メルキス達が強いとはいえ、地下通路は狭い。そこに魔族がぎっちり集まっているので、中々押し進めないのだ。
しかし、一つの声で事態が大きく変わる。
「おい、人間どもが6番出口からも入り込んできやがった!」
そう叫びながら、1人の魔族が慌ててやってくる。
「なんだと!?」
メルキス達と戦っていた魔族が焦ったような声を出す。
「ここの人数を減らして早く来い!」
「目の前に敵がいるんだぞ!? ここを離れるわけには――」
戦っていた魔族達は、迷う。
「そんなこと言ってる場合か! あっちは今誰も居ないんだ! 人間共に素通りされるぞ!」
魔族は迷う。そして
「仕方ない! 半分は6番出口に行くぞ!」
魔族達が半分その場を離れて行く。
「くそ! この人間ども本当に強い! このままじゃ本当に押し切られる……!」
魔族がだんだん押されていく。13番出口を守る魔族が全滅するのは、時間の問題だった。
――一方、拠点の奥。6番出口に向かった魔族達は。
「おい! 人間なんて1人もいないじゃないか!」
人間が一人も居ないことに困惑していた。
「扉も最近開け閉めされた形跡がないな……誰だよ、『6番出口から人間が攻め込んできた』なんて言ったヤツは!」
魔族達が、お互いの顔を確認する。しかし、『6番出口から人間が攻め込んできた』と最初に伝えに来た魔族はいつの間にか居なくなっていた。
「どういうことだ……?」
魔族達は首をかしげる。その時。
「大変だ! 18番出口からも人間共が攻め込んできたぞ!」
「こっちもだ! 4番出口に人間が来てる!」
「7番出口にも居るぞ! どうなってるんだ今日は!」
慌てた三人の魔族がやって来て、口々に叫ぶ。
「馬鹿な、最初の襲撃も合わせて4方向からの同時攻撃だと……!?」
魔族達は混乱する。
「こっちに応援に来てくれ! 人間共に出入り口を突破される!」
「いや、こっちが先だ!」
「こっちの方が差し迫ってるんだよ!」
どこを守りに行くかの言い争いが始まった。
「分かった、落ち着け! 3手に別れて向かおう! 今はそうするしかない!」
数十人居た魔族達が、10人前後のグループ3つに別れて人間が攻め込んできたという3つの出入り口へそれぞれ向かう。
そしてまず、最も近い7番出口に向かった魔族達は、またもピンチを迎えていた。
「戦力を分散させたのは迂闊でしたね」
戦闘を走っていた魔族が突然、ナイフを持って他の魔族に襲いかかる。
「ぐわあああああぁ!」
刺された魔族は、黒いもやになって消滅した。
「おいお前、どういうつもりだ! ……まさかお前、変装した人間か! 最初に攻め込んできたとき、乱戦のどさくさに紛れて潜り込んでやがったのか!」
「その通り」
ナイフを手にしていた魔族が、一瞬で変装を解く。中から現れたのは、人間の少女。魔族に変装していたカエデだった。
「人間共があっちから攻め込んできたと情報を流したのもお前の仕業だな?」
「ご明察。数十人をまとめて相手するのは少し面倒ですが、こうして情報で攪乱して人数を分けてしまえば楽に片付けられます」
クナイを構えたカエデが、魔族に対して淡々と告げる。
「人間風情が大口叩きやがる! おまえら貧弱な人間なんぞ、不意打ちさえ食らわなければ全く恐れるに足りん! 一瞬
で片付けてやる!」
魔族が剣を引き抜いてカエデに斬りかかる。
「忍法”煙玉の術”」
カエデが小さな球を地面に叩きつける。すると、もうもうと煙が立ち上る。
「クソ! これでは輪郭程度しか分からん! 魔族と人間の区別が付かないぞ!」
剣を構えて自分の周囲を警戒する魔族達。しかし。
「ぐあああ!」
一人の魔族が刺し殺される。そして、刺し殺した影がまた煙の中へ消えていく。
「クソ! 来るな、誰も俺に近寄るなぁ!」
魔族達は、疑心暗鬼になっていた。どの人影が味方で、どの人影が自分たちの命を狙う人間なのか区別が付かない。そして。
「俺に近寄るなって言っただろうが! お前が人間だな!」
”ズバッ!”
一人の魔族が、近くにいた人影に斬りかかる。しかし、斬られたのは別の魔族だった。斬られた魔族が黒いもやになって消滅する。
そこからは、大混乱だった。
「来るな! 来るなぁ!」
「お前が人間だな! 死ねぇ!」
パニックになった魔族達は、煙の中で近づく影に闇雲に攻撃し始めた。魔族が魔族を攻撃し、どんどん数を減らしていく。
煙が晴れたときには、魔族はたった一人しか残っていなかった。
「嘘だろ……!? 俺以外、みんなやられちまったのか……?」
生き残った魔族は呆然と立ち尽くしていた。そして。
「その通りです。そして、あなたもここで終わりです」
魔族に後ろから冷たい声が掛けられる。魔族が振り返るより早く、
”ドスッ”
背中から、クナイが魔族の胸を貫いた。
「く、そ……!」
魔族が黒いもやになって消滅する。これで、ここにいた魔族は全滅した。
「予定よりも早く片付きましたね。では、勇者の居所を探すとしましょう」
カエデは、魔族の拠点のより深いところ。ザッハークが作成した地図にない領域へと足を踏み入れる。
顔には、魔族を殺した達成感も、敵の懐へ忍び込む恐怖もない。いつも通りの涼しげな顔でカエデは任務を進めていく。
他の出入り口に散った魔族達も、カエデの部下のシノビ達によって同じ方法で全滅させられていた。
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