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Ep.0光と闇の少女

 これは遥か昔、遥か遠くの星で起きたこと。そしてこれから起きる珍事の原因。

――陽光の王国(以下光の国)

 ある日の朝、とあるパン屋には、女主人の死体が力なく横たわっていた。彼女は腹をすかせたパン強盗に殺されたとされた(しかし、本当は近所のパン屋が客を独占するため、そう見せかけて殺したのである)。

とある銀髪の少女「なんで……なんで、お母さんが殺されなければならなかったの……お母さんは何も悪いことしてないのに。町のみんなのために、毎日、味にも健康にも気遣った優しいパンを一生懸命焼いていただけなのに。少しでも多くの人が、おなかいっぱいでいられるように、できるだけ安く売っていたのに。もちろんお金に余裕があったわけでもない。私のことだって女手一つで育てて、苦労だってしてたし――そんな優しくて暖かいお母さんが、なんで……こんなのおかしいよ……私が変えて見せる、もう誰も悲しまなくていい世界に、急に大切なものを奪われずに済む世界に、正しい人が笑っていられる世界に……だから、絶対に、悪を許さない、ただ欲求を満たすために人の優しさや頑張りを踏みにじるそんな悪人は私が一人も漏らさず消してみせる」

 彼女は、近くに置いてあった包丁と、オーブンの中に残っていた焼き立てのパンをもって歩き出す。あの優しかった母親の暖かさを忘れぬように。

 そして彼女が去った後のパン屋の外黒板にはこう記されていた。

「まことに勝手ながら閉店とさせていただきます。皆さん、今まで、お母さんのパンを愛してくださってありがとうございました。皆さんがいつもおなかいっぱいでいられますように。皆さんの頑張りがいつでも尊重されますように。応援しています」

――暗影の王国(以下闇の国)

 ある日の朝、とあるパン屋の近くの広場で公開処刑が行われた。処されたのはみすぼらしい格好をした若い男で、ある貴族の息のかかったパン屋に盗みに入ったのを目撃され殺されたのだ。

とある黒髪の少女「なんで兄さんが殺されなければならない。盗みが悪いことなのはわかるけど、殺されるほどの罪だなんて思えない。だって兄さんは私たちが生きていけるように仕方なく最低限の食べ物を盗んでいただけだ。貧しい人から盗んだことだってない。だいたいあいつら貴族が好きかってやってるから、あたしたちはどんなに努力したってくいっぱぐれることになるんだ。そんなあたしたちに手を差し伸べて助けてくれた。一人分の食べ物だけなら盗みなんてしなくてもよかったかもしれない。それでも何も言わずごはんと笑顔を居場所をくれた。それを何も知らない執行官は無慈悲に殺した。裁判官は無慈悲に死刑を言い渡した。きっとあいつらのいいなりなんだ――秩序が役に立たない傀儡で、弱者を縛る茨でかないなら、もうそんなものはいらない。期待も希望もかなぐり捨てて、私がみんなを解放する。どこまで悪に落ちようが、邪魔な秩序と嘘の正義を私が必ずぶっ壊す!」

 彼女は、近くに落ちていた布きれと石ころを拾うと、ぼろ箱の中の一番黒くて固いパンをもって歩き出す。それはいつも若い男が食べていたもの、彼が果たそうとして果たしきれなかったことを心に刻むために。

 そしてそこに残された仲間たちへの置手紙にはこう記されていた。

「○○、急で悪いけど、明日から兄さんの代わりをお前に任せる。兄としては申し分ない。食料の調達は大変だろうけど何とかたのむ。みんなも○○を支えてやってくれ。そしていままでありがとう。きっともっと住みやすくて、当たり前に笑える世界を作ってくるから、それまで、どうか頑張って」

――

 それ以降、光の国では悪人の刺殺体・惨殺体が、闇の国では保安官や裁判員、貴族の射殺体がよく見かけられるようになる。光の国の死体は徐々に傷口が大きく深くなり、闇の国の死体からはある日を境に石ではなく銃弾が摘出されるようになった。そして悪を裁く白衣の少女の噂と、秩序を壊す黒衣の少女の手配書は町を越え、国を越え広がっていった。

――

 そしてさらに月日が流れ、光の国と闇の国の境界付近で、二人の少女は出会う。

光の国の少女「黒衣に短銃。若い女性。手配書通りですね。人々とその生活を守るために日々翻弄する保安官や裁判員たちを殺す悪人。いえ、それがどういう人かは関係ありません。あなたは多くの人から当たり前の幸せと温かさを奪った。多くの人に悲しみと苦しみを押し付けた。言い訳なんて聞く気はない、ううん、聴きたくない。私が今すぐ断罪する」

闇の国の少女「白衣に細剣。意外と華奢な少女なんだな。いや少女だから、夢から覚めきれてないのか……『人々とその生活を守るために日々翻弄する』?笑わせてくれる。あいつらは、お前の言う”当たり前の幸せと温かさ”を決して与えてはくれなかった。そして殺した相手が『どういう人かは関係ない』から、あたしはあいつらも貴様も放ってはおかない。ここで必ず打ち砕く」

光の国の少女「どちらの正義が正しいか。証明してあげます」光の国の少女は剣を構えると、闇の国の少女に向かって突進する。

闇の国の少女「私は私の感情のために事を為すだけだ!」闇の国の少女は、突っ込んでくる光の国の少女に向けて銃口を向け引き金を引く。

光の国の少女「(そんなものも避けられないのなら、私はとっくに死んでいます!)」闇の国の少女が引き金を引くのを確認した瞬間に側方に飛ぶ。

闇の国の少女「(くっ。でもまだ距離はある)」残弾数を気にしてか引き撃ちこそしないものの、余裕をもって光の国の少女を狙い続ける闇の国の少女。

光の国の少女「(見てから避けるのもそろそろ限界かも)」ある程度の距離まで近づくと今度は左右に不規則にジグザグと軌道を変える。

闇の国の少女「(これじゃあ正確な予測も、落ち着いて狙うことも……でも、まだ残弾も距離もある!)」なおも必死に光の国の少女の動き追い、狙い撃つ。

光の国の少女「(あと少し、これなら届く!)」闇の国の少女をあと少しで間合いというところまで追い詰める光の国の少女。

闇の国の少女「(……)」闇の国の少女の表情は明らかに曇っていた。

光の国の少女「今っ!」闇の国の少女を間合いにとらえた光の国の少女が、最後の踏み込みとともに剣を握った利き腕を勢いよく突き出す。それは確かに闇の国の少女の喉元を正確に指向していた。

 ……しかし!

闇の国の少女「(ふっ)バカめっ!」光の国の少女の一突きを、側方へと躱した闇の国の少女は

明らかな隙を晒してしまった光の国の少女の心臓めがけて正確に狙い撃つ。それは確かに胸骨を粉砕し、彼女の心臓を穿った。

 ……しかし!

光の国の少女「うぐぅっ。で、でも、まだまだぁああああああああああああああ」彼女の心臓は確かに破壊された。しかし頭と四肢はまだ健在であった。そしてその固い意志が最後の力を奮い立たせ、闇の国の少女に切りかかる。その刃もまた、勝利を確信し油断していた闇の国の少女の腹部を内臓ごと切り裂き、致命傷を与えた。

闇の国の少女「な……に。くそっ。やる……じゃない、か……見上げた根性だよ……」

光の国の少女「……あなたを生かしたま……死ぬわけには……行かなかっ……」ついに息を引き取る光の国の少女。

闇の国の少女「……わた、しも……最後にお前を……殺せてよかっt……」少し遅れて闇の国の少女も息を引き取った。

 ――よくわからない世界。暗闇の中に、青や緑で彩られた球体、とても強い光を放つ球体、いくつもの光の点がある。

光の国の少女「……ここ、は?私は確かに死んだ……はず……」死してなお健在な意識と周囲の世界に戸惑う光の国の少女。

闇の国の少女「あぁ、お前は私が殺し、私はお前に殺された。だが、私たちはここにいる……いったいこれは?」ドライに決めつつも、状況を決して呑み込めていない闇の国の少女。

 その時、

謎の声「ここは宇宙。君たちの生きてきた国はあの星の一部に過ぎないんだ。そしてこの宇宙には同じような星が数多ある」急に謎の声が語り始める。

光の国の少女「……では、私たちはどうしてその……宇宙?に?」急な展開に戸惑いつつも、謎の声に質問する。

闇の国の少女「そうだ、私たちは確かに死んだはずだ。そしておまえは誰だ?」闇の国の少女もそれに続く。

謎の声「私は世界の意志……の中のお人好しの暇人さ。ま、窓際と呼んでくれ。さて本題に入ろう」

光の国の少女「はい……」

闇の国の少女「お、おう」やはり戸惑いつつも、自らの置かれた状況を知るために二人はその声を受け入れる。

謎の声「君たちの顛末は見させてもらったよ。先に、見ていることしかできなかったことを詫びよう。本当のことを言えば手を出すことはできた。しかし、私が君たちを見つけたのは、すでに彼の事件が起こった後だった。そして私自身、どうすればいいのか、どちらが正しいのかさえも決め切れなかった。だから、ただ様子を見ようと思ったんだ。そうしていつか答えが見つかるのをただ待っていた……しかし、その答えはいまだ見えず、そしてそこへ至る道は閉ざされてしまった」

光の国の少女「どう考えても、悪人は滅ぶべきです。彼女が私より正しいなんてそんなことありえません!」

闇の国の少女「世の中にはやむを得ない悪もある。優しさからくる悪だってある。お前たちの掲げる正義が本当に”正しかった”のなら――」

謎の声「今の私には答えは出せない。それは今の君たちにも言えることだ。だけど私はその答えを知りたいんだ。そして、あのような悲しい結末を迎えてしまった君たちにも知ってほしい」平行線をたどるであろう二人の言い合いを遮り、話を続ける。

光の国の少女「悲……しい?確かに道半ばではありましたが……」

闇の国の少女「私には確かに多くを成し遂げた自負がある。こいつを殺せたこともそうだ」

光の国の少女「彼女のことはともかく、私もそうです。だから悔しくはあっても、悲しくなんて……」

謎の声「悲しいさ。そしてなぜ悲しいのかに気づけないことがとても哀れだ。君たちにはその理由も探してほしい」

光の国の少女「……でも私たちはすでに死んでいるのでは?」声の言葉の意味を呑み込めぬまま、より大きい疑問を提示する。

闇の国の少女「仮に生き返ることができたとして、あたしはやり残したことの続きをするけどな」

光の国の少女「私もです。でもそうなると、また彼女と殺し合いになるだけかと……」

謎の声「そうだね。まず最初の質問の答えだ。君たちは確かに死んでいる。だけど魂は確かに残っている。君たちの場合、意志が強かったから余計に強固にね。私が力を貸せば、君たちは現世に多少の干渉はできるはずだ。そして二つ目。今言ったように君たちにできるのは多少の干渉までだ。同じ結果になるなら、それは私も望まないから、余計にそれ以上の力は与えられない。最後に何をするのか。君たちにはこれから多くの星々を渡ってほしい。そして君たちの代理人を数人ほど立て、彼らに君たちの代理を務められるほどの力を与える。次に君たちは他にも目を付けた人たちに、彼らが願いを遂行できるような力を与える。その上で代理人含め彼らがどう動くか。その観察を続ければいつか答えも見つかるかもしれない。善と悪、どちらが正しいのか。君たちの人生がなぜ悲しのか」

光の国の少女「でもそれって、その星の人々を利用することになりますよね。本当ならしなくてもよかったことをさせることになる……」

闇の国の少女「何か問題があるか?お前が力を与えるのはお前が正しいと思ったことを為させるためだろ?それとも、自分のしてきたことについて疑問でもあるのか?絶対に正しいことなら、誰がしたって構わない、むしろ奨んでやることだ」

光の国の少女「あなたが誰に力を与え、何をさせるかを気にしているんですけど?」

闇の国の少女「なら、迷う余地はないな。私はこの話を受ける。私の為しきれなかったことを、誰かに遂行してもらう。多くの星?を私の作りたかった世界に変えて見せる」

光の国の少女「……それを止められるのが私だけなら、私も受けます!窓際さん、お願いします!」

謎の声「了解した。ならば、まずはあの星にいこう。そして、君たちの代理人候補を探して、このジュエルを渡してほしい」謎の声からそう聞こえた次の瞬間、光の国の少女のもとに白いジュエルが、闇の国の少女のもとに黒いジュエルが数個ずつ現れる。

謎の声「その後ある程度したら、今度は力を貸したい人を見つけ、このミニジュエルを渡してほしい」またそれぞれのもとにそれぞれ白・黒のミニジュエルが多数現れる。

謎の声「あとは観察だ。同じ星で観察を続けても、似たような結果ばかりになって答えが得られないかもしれない、またあまり続けるとやはりその星の人々が疲弊してしまうかもしれない。それぞれのミニジュエルがなくなったら次の星に行くとしよう」

光の国の少女「(人々が疲弊……?)……あまり気が進みませんが」

闇の国の少女「それでも、お前はやるしかない。いままでお前がしてきたように。私たちを止めるために」

光の国の少女「……それはもちろん……」

闇の国の少女「今更怖気づいたのか?お前の言う悪人は他の星にも腐るほどいるだろうよ。それを止めたくはないのか?それとも、間違いと過ちを認めるのか?」

光の国の少女「くっ。私は間違っていない。いつでも正しいことをしてきた。人々の笑顔を守るため」

闇の国の少女「(あたしだって、みんなを笑顔にするためにやってきた。正しいのはあたしだ!)なら、戸惑う必要はないだろ?他の星でもどこでも、人々の笑顔を守ればいい」

光の国の少女「わかりました。私やります!」

謎の声「うむ。ではよろしく頼む。私も観察をするためともに行くから、何かあったら言ってくれ。どちらかに加担するようなことはできないがな」

光の国の少女「はい」

闇の国の少女「おう」

――

 こうして光の国の少女と闇の国の少女の長い旅は始まった。そして、いくつもの星を巡り地球へとたどり着く。

 この話は人死にの出る重めの話になっていますが、次回以降は緩いギャグも交えた感じの作品になり、もう人死にも出ない予定です。いわゆるPV詐欺的な第1話。


次回予告「一人の女子高生がジュエルを託されます」

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