妹が伝説の「ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」をしてきた
「お兄ちゃん、お帰りなさい。ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」
「風呂」
「なんでよ!?」
放課後家に帰ると、妹が突然そんなことを聞いてきた。
身内贔屓で見ても整った顔立ち、ツインテールの滑らかな黒髪、胸は小さいが均整の取れたスタイルのいい身体。
普通の男なら間髪入れずに妹と言うだろうが、俺はあくまで兄なので冷静に返す。
......嘘である。
冷静なんてものじゃない。
好きな女の子にこんなこと言われて、内心めちゃくちゃドキドキしている。
そう、俺は妹のことが好きなのだ。
好きと自覚したのは中学3年の時だったか。
小さい頃から病気がちだった妹を世話しているうちにだんだんと可愛いと感じるようになって、いつの間にか好きになっていた。
そして妹も、俺に世話されているうちに好きになったと言っている。
つまり両想いなわけだが、妹は一方的な片思いだと思っているようだ。
なので毎日俺のことを振り向かせようと躍起になっている。
でも俺たちは兄妹だから恋愛関係になるわけにはいかない。
この想いは誰にも話さず、墓場まで持っていくつもりだ。
「大体、何でお兄ちゃんは私の想いに答えてくれないのよ!」
「なんでって言われてもお前は俺の妹だし」
「愛さえあれば関係ないもん!」
なんという暴論。
しかし、愛さえあれば関係ない、か。
もし本当にそうだとしたらどれだけ良かっただろう。
考えても仕方がないので適当に話を逸らしておく。
「そういや、風呂は沸いてるのか?」
「うん、お兄ちゃんが帰ってくる時間帯はいつも一緒だから事前に沸かしておいたのよ」
「さすがは我が妹だな」
「えへへ///撫でてくれてもいいのよ?」
そう言うので撫でてやると、もっと撫でてと言わんばかりに俺に擦り寄ってくる。
「お兄ちゃん、大好き❤」
「はいはい」
俺氏、いつか尊死するのではないかと不安になる玄関での一幕だった。
「ふぅ、いい湯だった」
風呂から上がった俺は、その足でリビングへ向かう。
すると、鼻腔をくすぐるいい香りが部屋中に広がっていた。
「お兄ちゃん、ご飯できてるわ」
「おー、今日も美味そうだな」
「でしょ?」
匂いのする方を見ると、色とりどりの夕飯が並べられていた。
この妹、体が弱いせいで学校に行けないのだが、その間家事の勉強をしている。
将来俺のお嫁さんになりたい一心で頑張ったんだとか。
不覚にもドキッとしてしまったのはここだけの話。
「それじゃあ食べましょうか」
「そうだな」
兄妹揃って「いただきます」と食材に感謝し、肉じゃがを口に入れる。
ジャガイモにもちゃんと味が染みて、優しい味が口の中を広がる。
疲れた体が癒されるようだ。
「どお?」
「美味いな」
「ほんと!?やったァァァ!」
実際、妹が作る料理は日を増すごとに旨くなっていく。
体が弱いなりに自分ができることを頑張っているのだと思うと、妹も一生懸命に生きてるんだなと感慨深いものがあった。
それにしても毎日褒めているのにこの喜びよう。
よほど嬉しいのだろうな。
「いつも家事してくれてありがとな」
「お兄ちゃんが褒めてくれるんだもの。嫁として、夫に喜んでもらうために頑張るのは当然よ」
「いつお前と俺が夫婦になった」
「私が生まれた日よ」
「愛が重すぎて草」
そんな楽しい会話をしていると、妹が唐揚げを挟んだ箸を俺の口元に持ってきてこう言った。
「お兄ちゃん、あーん❤️」
「待て待て、唐突すぎるだろ」
「唐突じゃないわ。私のお兄ちゃんへの想いは年中無休よ」
「そういうことが聞きたいんじゃねーよ」
まさかのあーんをされて戸惑う俺。
マンガやラノベで主人公があーんされてるところを見て焦ったいなと思っていたのだが、実際自分がされる側になると、なんとも言えない羞恥心に襲われる。
確かに嬉しいけど、俺の理性がおかしくなりそうだ。
「お兄ちゃんは私とあーん、したくないの?」
「うっ」
早くも理性を失いかける。
したいに決まってるだろッ!と叫びたくなる気持ちを抑え妹にやめるよう説得するが、まさに馬耳東風。
「そろそろ腕が限界だから早く食べてくれる?まさか病弱な私に無理させる気なの?」
「ぐっ...!だったらそっちが降参すればいいだけだろ!」
「お兄ちゃんが食べてくれるまで絶対に下ろさないから」
断固として下ろしてくれない妹。
恥ずかしいが、流石に病弱な妹に無理をさせるわけにはいかないので俺が折れることにした。
「......分かったよ。食えばいいんだろ食えば」
震える手で持っている箸に口を近づける。
口に唐揚げを含んだ瞬間、「やったー!念願のあーんだ!」と聞こえたが、今はそれどころじゃない。
好きな人との間接キス。
特段唐揚げの味に変化があったわけではないが、なんだか背徳感がすごい。
「間接キスだね、お兄ちゃん?」
その後、お互いにあーんをしあったらしいが、全く記憶に残っていない俺であった。
夕飯を食べた後、俺は自室で悶えていた。
妹とのあーんを思い出して熱くなる体の熱を逃がそうと腹筋したり腕立て伏せをしたりする。
あんなことがあって冷静でいられるほど、俺の心は強くないのだ。
「なんだよ撫でてって!なんだよあーんって!いちいち可愛すぎるんじゃァァァアア!!」
枕で顔を覆いながらそう叫ぶ。
我ながら何をしてるんだと思うが、あいつが可愛いのがいけないんだ。
「お兄ちゃん、入るわよ」
「ふぁいッ!?」
パジャマ姿の妹が俺の部屋に入ってきた。
思わず変な声を出してしまったが、なんとか平然を装う。
「よ、よう。今日は何の用だ?」
「用はないけど、ただお兄ちゃんと一緒に居たかっただけ」
「そ、そうか」
くそっ。
息をするようにそんな恥ずかしいことを言いやがって!
俺もお前とずっと一緒に居たいに決まってるだろという気持ちを抑え返事をする。
妹も自分で言って恥ずかしかったのか、頬を赤らめながら俺の隣に腰を下ろす。
「お兄ちゃん」
「ん、どうした?」
「私ね、お兄ちゃんのことが好きなの。それは知ってるわよね?」
いきなりのことすぎていつものように戯けてみせようと思ったが、いつになく真剣な顔。
そんな相手にふざけて回答をするわけにはいかないので真面目に言葉を返す。
「.....ああ、そりゃあ毎日何十回と好き好き言われたら気付くに決まってる」
「それじゃあなんでお兄ちゃんは私の想いに応えてくれないの?」
「さっきも言ったが、それはお前が妹だから.....」
「嘘よ」
そう言った妹の目は、何かを確信したような、そんな目をしていた。
「だっておかしいもの。普通だったら女として見れないみたいな感じで、根本的に妹を恋愛対象として見ていないのが当たり前。でもお兄ちゃんは妹だから気持ちに応えられないと言っていて、どこか諦めたような、そんな感じがするもの」
「それは.....」
核心をつかれて、思わず口ごもる。
普段はのほほんとしていて鈍い妹が、こういう時にだけ勘が鋭くなる。
昔から知っていたはずなのに、この気持ちがバレるはずがないとたかを括っていた俺が甘かった。
言い訳を考えようにもすぐには思い浮かばない。
そして妹はトドメとばかりにこう言った。
「私が好きと言った時、たまにお兄ちゃんは悲しそうな顔をするの。そのことから私はこう結論づけた」
「お兄ちゃんも私のことが好きなのではないか、と」
ついに、俺の気持ちが妹にバレてしまった。
もうどうにでもなってしまえとおもい、全てをぶちまける。
「ああそうだよ、俺はお前のことが好きだ。自覚したのは2年ほど前だけど、本当はもっと昔から好きだったと思う。病弱なお前の世話をするうちに、どんどんお前の魅力に気づいて好きになっていった。お前の笑顔、お前の声、お前の性格全部が好きなんだッ!!!」
「.....」
「でも仕方ないだろ。俺たちは兄妹で、しかも血が繋がってる。結婚したくても出来ないんだよ......」
そう言って、俺は涙を流す。
今まで溜めてきたものを晴らすかのように。
そんな俺のことを、妹は抱きしめてくれる。
「ごめんねお兄ちゃん。私、お兄ちゃんの気持ちも考えずに毎日アピールして悲しませた。そんなことを考えてると知らずに、無責任にお兄ちゃんを傷つけて....。私、最低な妹だわ」
「それは違う!お前はただ、俺のことを純粋に愛してくれた!そんな相手を恨むはずないだろ!」
「それでも、私がお兄ちゃんを傷つけたことには変わりないわ。ごめんなさい。でも、この気持ちだけは何回でも伝えておく」
「大好きだよ、お兄ちゃん」
今まで何百、何千と聞いた言葉。
だけど、今までで一番心に響いて、そして愛を感じる。
気付けば俺の涙は、止まっていた。
「....俺はお前の兄で、自分の気持ちを隠すような愚か者で、お前の好意を適当に流すクソ野郎だ」
「そんなことない。私にとっては世界一のお兄ちゃんで、世界で一番私のことを考えてくれて、世界で一番私のそばにいてくれた人。たとえお兄ちゃんが自分のことを卑下しても、私はお兄ちゃんの一番の理解者でありたい。たとえお兄ちゃんが自分のことを嫌いでも、私はもっともっとお兄ちゃんを愛する。私はそれだけ、お兄ちゃんのことが好きなの」
「.....はは、悩んでた俺が馬鹿みたいだ」
悲しいことがあった時はいつもそばにいてくれた。
俺の馬鹿みたいな話を楽しそうに聞いてくれた。
世界で一番、俺のそばにいてくれた。
そして、世界で一番、俺のことを愛してくれた。
こんないい女、他の誰かに渡すなんて、もったいないよな。
「ご飯にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」
「もちろん、お前にするよ」
そうして、俺たちは長い長い口づけを交わした。
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