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登校と遭遇

 自分の心が変な感じであった。

 もう二度と誰とも関わらずに過ごすと思ったのに。


「も、もういいか? そろそろ出ないと遅刻するぞ」


「動くなって! あんた元が良いんだから髪を整えるだけでダンチなのよ」


 俺は洗面所で夏美にされるがままになっている。

 どうしても俺の髪を整えたかったらしい。

 髪なんてどうでもいいのに。


 鏡越しの夏美は上機嫌である。

 だけど、時折顔が暗くなる。学校に行くのが怖いんだ。

 夏美曰く、『私はあんたの味方になった事は、クラス全員周知の事実よ。今度は私がおもちゃにされる番。まあ仕方ないわ』――


 夏美は俺の心を心配している。俺の事を守ってくれると言ってくれた。

 なら、俺も夏美を守るんだ。


 夏美はスマホをチェックしていた。


「あっ、クラスのグループメッセージが……なくなってる。多分、新しいのが出来たんだ。私をハブにして……」


 俺はグループメッセージというものがわからなかった。だけど感覚で理解できる。

 これはすでに攻撃が始まっている事を。


「……きっと話せばわかる。夏美はみんなと仲良かっただろ? 俺とは立場が違うんだ」


「ううん、私、可愛いから私の事嫌いな女子って多いし、それにみんなハブられるのが怖いから見てみぬふりするよ。……ははっ、分かっているけど、嫌だね――」


 夏美の身体が震えていた。

 それを無理やり抑えこもうとしていた。


「でもね、私にはあんたがいる。……はぁ、頼りないけど、あんたと二人なら乗り切れる……かも。――はい、出来た! 超いい感じに仕上がったよ! うん、イケメ……。なんでもない。べ、別にかっこよくないからね!」


 鏡の中の俺はばっちり髪型を決めていた。

 今度は一人でできるように、夏美にやり方を教わっておこう。





 俺達は二人で登校をした。

 誰かと登校するなんて久しぶりだった。

 誰かに見られているんじゃかと不安で仕方なかった。


「あんたもっと堂々としてなよ! 別に悪いことしてないでしょ? ったく」


「う、うん。人と歩くのが久しぶりだから」


「……これからも、ずっと一緒だから慣れなさい!」


 歩いていると、夏美と仲が良かった女友達が遠目で見えた。

 彼女達は夏美と俺を見て――顔をそらして気がついてないふりをしていた。


 俺達の横を男子のクラスメイトが通った。

 明るい彼はいつも夏美の横で冗談を言っていたのに……、無言で通り過ぎていった。


 クラスの大人しい系の女子達がコンビニの前で楽しそうに話していた。

 ……夏美を指差して……嫌な笑い声を上げていた。


「……慣れないね。はぁ……、ていうかあんたさ、ずっとこんな気持ちだったんでしょ? ――ほんとうちらってガキでバカだよね」


「そうだな、些細な事が心を沈ませる。孤独感が自分を否定するんだ。……夏美、今ならまだ仲直りできるんじゃないか?」


「何度もうっさい、はぁ、今さらあんたを一人にできるわけ無いでしょ? ていうか、私だって空気を読むとかもううんざりなのよ。……それに、あんたがいれば……十分よ」


 ……昨日とは違う自分がいた。

 胸がぎゅっと締め付けられない。苦しい気持ちにならない。


 俺は深呼吸をして、背筋を伸ばして周りを見た。

 確かにクラスメイトの視線は嫌なものだけど、他の生徒は別に普通だ。


 クラスというグループに属していないだけで、全く違う人種のように見えた。


 チラチラと俺達を見る視線を感じる。


「うん? なんだって俺達を見ているんだ?」


「はっ? そんなのあんたがカッコよくなったからに決ま……、ごほんっ、ま、まあ急にお洒落になったからじゃない? あんた鼻の下伸ばしてるんじゃないよ! 全く……」


「夏美が可愛いからじゃないのか?」


「……はぁ、あんたね……、まあ良いわ。って、あそこにいる女の子が凄い顔であんたの事見てるじゃん!? あんたなんかしたの?」


 ツインテール姿の小さな女の子が俺を見ていた。うちの制服じゃない。他校の生徒だ。

 まるで親の仇を見るような目つきであった。

 俺を指差して『やっぱりあいつだ!! おにちゃっ! おにちゃっ!』とか言っているが、関わらない方がいいだろう。


 ……しかし、なんか見たことあるような気がする。

 あっ、殴られ屋の時の常連さんかも知れない。いつもニャンキーキャップを着けている子だ。


「まあいいわ、もう行くわよ。……このまま二人でどこかに消えたいな」


 二人で消える。夏美となら悪くないと思えてしまった。

 ……そうか、俺にとって夏美は家族みたいなものなんだ。

 別に無理して肩肘はる必要ない。


 俺は夏美に思いついた事を提案をしてみた。


「なあ、夏美、俺と二人でいるのは嫌か?」


「は、はっ? いきなり何言ってんのよ? い、嫌なわけないじゃない。……嫌だったら一緒の布団で寝ないわよ、バカ」


「なら……今から、俺達は二人で一人だ。ずっと一緒だ。クラスメイトなんて無視すればいい」


「……はぁ、あんたね、女子には色々あんのよ。……でも、悪くないわね。……そっか……、あんたと二人で……」


 夏美はブツブツと呟きながら俺の隣を歩いた。










「おい、そこのイケメン野郎、ちょっと止まれ。お前じゃねえよ!? このブサイクが! そっちの正統派美少年イケメンだ!!」


 夏美を俺の袖をちょいちょいと引っ張る。

 ……イケメン野郎って俺の事か? 


 俺と夏美は足を止めた。うちの学校の生徒たちは遠巻きに俺達を見ていた。


 横を向くと、金髪の男子生徒が立っていた。横にはさっきの女の子がいた。

 女の子は小さな身体をそらして、偉そうに喋り始めた。


「あんた……、やっと見つけたよ。おにちゃっ、こいつが例のヤツよ」


 整った顔がそっくりの二人であった。おにちゃって、お兄ちゃんの事か?


「ったく、本当にこいつかよ? 全然弱そうにみえっぞ? ……まあ、顔と手の傷を見たらドンピシャだろうな」


 夏美を俺は顔を見合わせた。

 これは――新手のイジメか? わざわざ他校の生徒にお願いするか? 


「おにちゃっ! 私が一発も当てられなかったんだもん! しかもこいつ手を抜いてたよ! 超ムカつく……、でも、時間も無いし……ねえ、放課後に会う約束取り付けよ!」


「あん、そんなの面倒だろ? こいつが経験者だったら今ここで試せばいいだろ? おい、ちょっと待て――」


 夏美が焦った声を出した。


「ちょちょちょっ、あんた達何よ! 私達は今色々忙しいのよ! 大問題を抱えてんのよ! ……用があるなら放課後にしてよ!」


「……あん? 可愛いねーちゃん、わりいな……、え、マジ超可愛くない? ヤバ……、こいつ彼氏? あ、くそっ!! 俺達も時間無くてな――、本気で当てねえから、なっ、お前ならわかるだろ?」


 金髪の男は周りの目も気にせず、ボクシングのグローブをはめた。

 俺を見据えた。


 周りのざわめきが大きくなる。

「おい、やべえやつじゃね?」

「暴力事件だったら証拠取っておこうぜ!」

「あいつってイジメられてるやつだろ?」

「イメチェンしたのね……、結構好みかも」

「夏美って、今日からハブられるんだろ? 無視して行こうぜ」


 なんだろう、拳を向けられると……トラウマなはずの視線がどうでもよくなっていく。

 俺は夏美にカバンを手渡した。


「よくわからなけど、この人殴られ屋の俺を知ってる。ちょっと相手して学校行こ」


「あ、あんた……やめっ」




 金髪は夏美が俺から離れるまで待ってくれた。

 夏美が離れると、ステップを踏んで、俺に殴りかかってきた。


 ざわめきが悲鳴に変わる。


「おいあいつ頭おかしいよ!!」

「あ、あっ! あいつ隣の高校のボクシングバカだ!」

「個人でIH準優勝したヤツか! 馬鹿だからルール破って負けたんだろ?」

「私も知ってる! イケメンなのにバカだから振られまくってるヤツだ!」

「うん、私告白された事ある! バカだから断った」

「私も私も!」

「私も!」


 拳を前にすると雑音が消えていく。

 世界がひどくゆっくりに見える。

 心が落ち着く。自分だけの世界がそこにある。

 張り詰めた空気が大好きだ。自分が機械になったみたいに筋肉を動かすのが楽しかった。



「えっ、なんで当たらねーの? ていうか、パンチどちゃくそ速えぞ」

「やば、超かっこいい」

「え、ええ、漫画みたいじゃん! あの子だれよ!!」

「連打とまんねーよ! 避ける方も異常だろ!?」

「ああ、これってボクシング部のイベントってやつか? じゃなきゃ……」

「避けてるヤツが一番やべーよ!! 俺格闘技マニアだからわかんぞ! 一発もあたってねえんだぞ!! プロの高等技術使ってやがる!? あ、カウンター……、ははっ、鼻先でパンチ止めやがった」


 殴られるのは嫌いじゃない。でも、今は殴られると心配する人がいるって分かった。

 だから――絶対に俺は当たらない。



 金髪男の動きがピタリと止まった。

 ちょうど三分くらいたった。俺も彼も息一つ切れていない。


 金髪男が大きく息を吸い込んで大声を上げた。


「えー、お騒がせして申し訳ないっす!! うちのボクシング部の出し物に付き合ってくれてあんがとな! てめえ……、いや……名前なんだっけ? まいっか、また後でな! 絶対あとで会いに行くからな! ――おい、マリ、逃げんぞ!!」


「がががっ――ほ、ほんとバカおにちゃっ、なんだから!! そこのあんた!! 今ここで私にスマホの番号教えなさい! じゃないとめんどいよ!!」


 あまりの勢い圧倒されそうであった。


「お、俺スマホない……」


「のうぅ!? だ、だったら、あんたの彼女でいいわよ! ほ、ほら――」


「か、彼女!? ごほん、ま、まあ番号くらいいいわよ――」


 夏美と小さな少女はかしこまって、連絡先を交換していた。

 交換が終わると、二人は走って逃げていった。


 俺と夏美はその場に取り残された……。

 なぜか俺はわけもわからず、生徒達の歓声に包まれていた――

 ただ避けただけなのに?


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