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乙女ゲームで モブ令嬢で ドラゴンスレイヤーで

連載小説の息抜きに。

バトル物が書いてみたかった……後悔はない。


私には前世の記憶があるーー。

おっとそんな危ない人を見るような目で見ないで!

気持ちは分かる!気持ちは分かるから!

とりあえず話を最後まで聞いてよ。


………こほん。


えーと…どこまで話したっけ。・・・あー、そうそう!

前世の記憶があるって言っても小説でよくあるイケメン見て思い出した!とかじゃなくて生まれた時から記憶があるタイプの方。

もちろん神様(私の場合は女神様だね)会った記憶もあるよ。


何でも女神様ったら本来連れてくるはずの人と私を間違っちゃったらしくて、私が女神様のところに辿り着いた時には凄い勢いで謝られたんだよね。

で、申し訳なく思うんだけど本来行くべき魂が行けない以上、私に代わりに行って欲しいと言われた。

それで私なんだけど、望んだ力をくれるという事で思わず二つ返事で了承しちゃった。(てへっ)


そこで転生先についても話を聞いたんだけど、どうやらそこはファンタジー世界の乙女ゲームを元にした世界らしい。それでもって私の役割はゲームではモブの役割である辺境伯の娘という訳だ。

ちなみにこの一連の流れで女神様はその乙女ゲームの話に一番力を入れて話をされていた。



………どうやらこの女神様は最近恋愛ごとで失敗したらしい。

所々でどこの誰か分からない男の人に対する恨み言が入ってきている。

あのー、後ろの従者(天使)さん困ってるよ?ほどほどにしてあげてください。




……とまあ、そんなこんなで私は女神様からチートを貰い、辺境伯の娘へと転生したのである。











♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢












「……さま………お嬢様!」


「……ん。…ああ、ごめんなさい。少し考えに耽っていました」



私が前世の終わり…今世の始まりまでの事を思い出している間にどうやら実家(本邸)へと到着したようだ。


我辺境伯は北に港があり、その港が大国であるハスダリア帝国と唯一の交流地域という事で王都と負けないくらい栄えている。ちなみに本邸があるのもこの領都である港街だ。


それとは別に西には荒野があり、その奥にはこれまた壮大な森が広がっている。そしてそこには数多の魔物が生息しているのである。


……そう!魔物、魔物である!とてもファンタジーらしくてその存在には心躍るものがある。前世の私もゲームは乙女ゲームなどの恋愛ゲームよりもRPG系統のゲームにハマっていた。だから女神様が熱く語っていた乙女ゲームに対しても興味を持たなかったが、魔物の存在、そして魔法の存在に関しては女神様に負けないくらい興奮したものである。

そしてその魔物達に対して我辺境伯家ーーグラスティア家ーーは王国の最初の盾であり最強の剣でもあるのだ。

グランティス家はそれを誇りに思うと共に代々その役割を全うしてきた。そしてその役割を担うにあたってグランティスの男児は歳が10歳になる頃からこの森に近い町の別邸にて訓練と実際に魔物討伐をして己を鍛えていくのである。所謂ウチのみに適用されるローカルルール的なやつなのだが、大人になる為の試練として皆に受け入れられている。


さてさてそんな中、私が一体何者かというと…名前はクリア・グランティス。今年12歳になる辺境伯家の長女である。そして前述の通り、転生者なのだ。えへん。





そんな中、本来令嬢として育った私はこの試練を受ける必要はないのだが、私は嬉々として受けている。

だってファンタジーで魔物といったら討伐しなくちゃでしょ?なのに私だけ戦闘狂扱いされてる現状は非常に納得いかないものとなっている。




閑話休題(ところで)





そんな試練を受けている私が今回本邸に呼び出されたのには理由がある……らしい。

らしいというのは私も詳しく知らないからである。どうやらお客さんが来るらしい、というのは耳にはさんだのだが・・・どういう方なのかは聞いていない。……べ、別に興味がなかったから聞いてないわけじゃないんだからね!?



……こほん。

ちょっとやってみただけです。

だからメイドさんそんな目で私を見ないでください。







さて、そんなこんなでお父様の執務室の前までやってきました。

ここからは貴族の令嬢らしく心掛けていきましょう。

親しき仲にも礼儀あり、です。





コンコン。


「旦那様、クリアお嬢様がご到着致しました」


「入りなさい」


「失礼致します」


先ほど引いた目で私を見ていたメイドさんが私が到着した事を扉越しからお父様に報告すれば、すぐに部屋からダンディな声で入室許可の返事が返ってきた。


メイドさんに扉を開けてもらい私は令嬢としての勉強も疎かにしてないぞ!という気持ちを込めて立派にカーテシーをする。


「お父様、呼び出しに応じ、このクリア馳せ参じました」


「お前は…どうして騎士のような……はぁ、もうよい。よく来てくれたな」


疲れたようにため息をついてどうしたのだろうか?

仕事でお疲れなのかな?体は資本なんだから無理をしないように言っておかないと。


「いえ、敬愛するお父様の呼び出し。馳せ参じるのは当然のこと。

…ところで本日はどういったご用件なのでしょう?」


来客があるとは聞いていたけれど、具体的な話は何も聞いていない。


「本日からこの方がしばらくウチに滞在する事になる。

誰かは言えないが、高貴な身分の方であるからくれぐれも失礼のないようにな」


そう言ってお父様が視線向けた先には私と同い年くらいの少年がいた。


「初めまして。本日から暫く世話になるフォーツという物だ。訳あって姓を明かさないのは許してくれ」


そう言って笑った少年は…控えめに言ってイケメンである。真っ直ぐな髪はまるで常夜のように漆黒で美しく、瞳は翡翠色でその輝きは本物にも負けない力強い輝きを放っている。……控えめに言ってイケメンである。(2回目)


「初めまして。私はグランティス辺境伯が娘、クリア・グランティスと申します。姓に関しては事情がお有りのようですのでお気になさらないでください。どうぞよろしくお願いし致します」


私は先程父にも見せたカーテシーを再度披露し、無難な回答をしておく。

最初自信満々っぽく言いましたが、実際は魔物を狩るか訓練しかしてないからあまりこういう貴族的なのは得意ではないのです。

しかしフォーツさんか。王国の第一王子であらせられるフォール殿下と名前が似てるな。女神様が力説していた容姿の特徴とも一致するし。でもまさか乙女ゲームのメイン攻略対象者がここに来ることはないか。

そう思い、即座にその思考をゴミ箱へとポイした。


「うむ。それでリアを呼んだのは他でもない、彼をマーレードの町へと一緒に連れて行ってもらいたい。……あそこなら魔物が多少騒がしいだけで他の危険は少ないからな」


私の返し(社交辞令)に満足したのか、お父様は笑顔で頷きつつ、今回私を呼んだ理由を語った。…最後は聞き取れなかったけれど。

ちなみにマーレードの町というのは私が今滞在している魔物の暮らす森が近い町の事である。


「分かりました。フォーツ様も宜しいでしょうか?」


「うむ。手数をかけるが宜しく頼む」


一応確認の為、フォーツさんへと声をかければ笑顔で返事が返ってきた。…イケメンの笑顔ヤバい。











そんなこんなで私達は馬車に乗り、早速マーレードの町へと向かった。

ちなみに馬車には私とフォーツさんの他には私の専属侍女が乗っている。こんな私でも一応は貴族令嬢。未婚の男性と2人で密室となる場所にいてはダメなんだよね。

そんな事を考えているとフォーツさんが私に向けて口を開いた。


「グランティス家の令嬢は少々変わり者と聞いていが…そんな風に見え・・あまり見えなかったな。何よりこれほど美しいというのには驚いた」


何故言い直したし。そして言い直してもあまり変わらないのはどういうことか。まあ普通の貴族令嬢とは毛色が違うのは否定しないけど…他人に言われたらそれはそれで納得出来かねるものがある。


「フォーツ様がどういう風にお聞きになったのかは分かりませんが、

それにそうやってう、美しいなどというお世辞程度では一度損ねた私の機嫌は直りませんよ」


「くく…。いや悪い。別に良くない意味で言った訳じゃないんだ。それに美しいというのも世辞ではないさ」


私が膨れながら喋れば、何を面白かったのか肩を震わせながら謝罪をしてきた。


そんな誠意がこもっていない謝罪であっても許してしまいそうになるんだから美形は困る。


「………仕方ないので許してあげます」


「そうか、ありがとな」


・・・そうというか、直ぐに許してしまったが。それが悔しくてまた頬を膨らませていれば、また肩を揺らしながらフォーツさんは私に感謝の言葉を口にしたのだった。





べーっだ!











♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎










それからマーレードの町に到着し、今日は実地で森へと赴いていた兄へとフォーツさんを紹介をして屋敷を案内、みんなで食事をした後、本日は解散となった。


それからの日々は3人で訓練をたり、時に実地で森へと赴いたり、時に町へと遊びに出掛けたりと楽しい日々を過ごした。
















ーーそれから3ヶ月後。

この先の運命を変える出来事が起こる。


その日は晴天で3人で今日はどうしようかと話をしている時、我が家に使える騎士が飛び込んできたのである。


「し、失礼いたします!坊ちゃま、お嬢さま大変でございます!

魔の森に巨大な生物が現れました。情報は錯乱していますが、おそらくドラゴンかと……。早くこの場から…お急ぎ下さい!!」





ーードラゴン。

それはファンタジーの定番にして最強の種のひとつ。物語によっては神と同一視されることもあるまさしく特別な生物である。

そしてこの世界でもそれは同じで、ドラゴンが人里近くで発見されればその周辺地域は捨て置かねばならない、そう言われるほどの天災である。


「ドラゴンだと!?そんなバカな……フォーツ殿滞在中にこんなことになってすまない。急いでここから離れよう」


「気にする必要はない。ドラゴンの出現など誰が予想出来ようか。リアも早くここからーー」


兄が動揺をしながらそれでも次期辺境伯としての教育のお陰か、直ぐに立ち直り次の行動へと、フォーツさんも兄へのフォローをしつつ、兄と変わらない迅速な対応を取る。そして私は……。


「お兄様、私はここで時間を稼ぎます。どうかその間に後退とお父様への報告をお願いします」






ドラゴンと相対する事を選んだ。



「何を言っているんだ!お前を置いていくなど…それならば僕も…」


「お兄様!!貴方はこの辺境伯領を将来背負うお方です!そんな貴方が犠牲になってはそれこそこの領の損失でしょう。

それに比べ私は他の貴族へと嫁ぐ身。今ここで時間を稼ぐ事がここへ(辺境伯領)の貢献となるならば、それは嫁ぐ事と何ら代わりはありません。どうか私情に流されず、英断を!!」


私の強い言葉に兄は躊躇を見せる。…もう一押し。



「お兄様!!!」


「…っ!?………わかった。…どうか・・・死なないでくれよ……」


「ドラゴン相手に無理を言います」


私は兄の言葉に()()()()()()()()()()

この世界でドラゴンと相対出来る人間は選ばれた人間だけ。平均より少し強い程度の貴族の令嬢がドラゴンに立ち向かうなど、結果なんて火を見るより明らかだ。……それでも兄がそう言葉にするのは…家族への愛からなのか、それとも自分だけが逃げ延びる罪悪感からなのか…。

私は前者であって欲しいな、って思う。だって今世の家族は本当に貴族かってぐらい仲良しなんだもん。



ーいつも厳しい顔をしているのに私が側に行くとデレデレ顔をする父。


ー女の子が欲しかったのよ!と嬉しそうに語り、私を街に連れて行っては着せ替え人形にして喜ぶ母。


ーそして重度のシスコンで自分の婚約者探しより私に近寄る異性を全力で跳ね除けるのに忙しそうな兄。


みんなみんな大好きだ。






それにここには私を戦闘狂と言って茶化してくる屋敷に勤めてくれている騎士や、私と共にお菓子をつまみ食いしてくれるメイド。そして貴族として守るべき領民達がいる。


……何よりここ3ヶ月で仲良くなった友人(フォーツさん)だっている。

ならばグランティス辺境伯令嬢として命を賭してやらねばならない。


「リア。お前は……いや、何でもない。絶対に生きて帰ってきてくれ!そして帰ってきたら俺とーー」


フォーツさんも状況を理解して苦しげに私に言葉をかける。私は


「フォーツ様。そこから先は言ってはなりません。死亡フラグが建っちゃいますから」


フォーツさんの唇に人差し指を当てそこから先は言わせないぞ!と笑顔でウインクをした。



「フラ…?何だそれは?」


あらら。この世界にフラグっていう言葉はないのか。フォーツさんが真っ赤になって混乱してらっしゃる。


「何でもありません。さあ!行ってください!」


フォーツさんは私の言葉に無言で頷くと、私の右手を取り、手にキスを落としてから今度こそ兄の後を追って行った。


私は真っ赤になりながらその背中を見送ったのだった。

…このイケメンめ!やる事までイケメンかーーー!!









♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢











『グオォォオォオーー!!!』




領民の非難誘導が騎士によって行われる中、私は領民とは逆の、今回の元凶へと足を向けていた。

お供はつけていない。貴族令嬢としては有り得ないことで、それは今世の私も例外ではなく、初めてのこの自由を少し楽しみながら歩いていた。


ーー先程は悲壮な覚悟を決めた風だったが、決して負けるつもりはない。

いつか語ったと思うけど、私はこちらに来る時、女神様からチートといくつかのこの世界では最上位の力を貰っている。それはもう全て戦闘に全振りするかのような配分で。




私がこちらに来る時、思い描いていた未来は所謂冒険者家業である。

前世では小説や漫画などで冒険者を題材した物語が全盛期であり、私もそれにハマっていた1人だった。

そんな私が剣と魔法の世界に生まれ変わるとなれば戦闘能力に極振りはするのは自明の理なのである。

うん、仕方ないったら仕方ない。



こほん。

一つの能力として私は神界を行き来する次元の能力を貰っている。行ける場所は一ヶ所だけだが、その唯一の行き先に私の望んだものがある。そこは女神様が直々に用意してくれた一軒家へと繋がっている。

その家の地下には訓練場があり、その訓練場内ではこちらの世界の百分の一程の速さの時間が流れるというまさしく神のみが作り出せる空間になっている。

そしてそこには過去のあらゆる世界、あるゆる時代、あらゆる分野の英雄達、生物を呼び出せるシステムが構築されている。そこで私は日夜、自身の能力をその得意分野の英雄達によって永遠とも呼べる時間、鍛えてもらっていたのである。



……いやー、最初の頃は地獄だったな。あの中では死なないのを言い事にひたすらに連日連夜ボコボコにされまくってたもん。時には、ある世界の人類を滅ぼしたと言われるスタンピードの再現の中に放り込まれた事もあったっけ………。




……


………



…………はっ!?

ダメダメ!あの時の事を思い出してまた死んだ魚のような目(師匠達談)になってしまった。

そうした経緯から私はこの世界で英雄と呼べる程の力を持っている自負がある。(師匠達にはまだまだひよっこって言われてるけど…)



……でもでも、言ってる事は支離滅裂かもしれないけど、やっぱり怖いという気持ちも当然、ある。前世は平凡な女子高生だったんだもん。多少怖くなっても仕方ないじゃんか!そこは甘くみてよね!


こほん。

…それでも・・だとしても。守るべきものがあって守る為の力を持っている。

それなら…後悔したくないなら、立ち向かうしかないじゃん!というほぼ逆ギレという状態で何とか足を動かしている。




どんなに怖くても、




逃げ出したくなっても、




師匠達にはひよっこと言われる力しかなくても、




ここには歴史に名を残す英雄はいない。国を代表するような騎士もいなければ魔導士もいない。



『グガァォ!!!』



なら、やってやる!

絶対に負けてやるもんか!!

覚悟を決めた女の子を舐めるなよ!!!


その決意を胸にその巨大な姿を見せたドラゴンへと相対したのである。











♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎











「!!!?」


私と相対したドラゴンは手始めと言わんばかりに漆黒のブレスを放ってきた。


ーーードラゴンブレス。

ドラゴンの技の一つにして最も有名でドラゴンにとって最大の攻撃。そのブレスはドラゴンの属性によって種類は異なるものの、その威力は本気になったドラゴンによって山がひとつ跡形もなく無くなったと言われるほどの威力持つ。




小手調にしては反則級の威力を感じるブレスに対して私は




【アイギス】



私は無詠唱にて、私の持つ最大の防御魔法を展開した。

私の前に巨大な透明な盾が出現し、ドラゴンのブレスを瞬く間に防ぐ。


長いブレスが終わり、そこにはもはや私という存在など跡形もないところを想像していただろうドラゴンは私が変わらぬ姿で立っていたことに少し瞠若していた(ように見えた)。









ここで少し前世の私の話をしよう。

前世の私は特別抜きん出た人間ではなかった。容姿は普通であったし、勉強だってそこまで出来る方ではない。本当に、どこにでもいる高校生だったのだ。


………そんな私がひとつだけ。

ひとつだけ他の人には勝てると思えるほどのめり込んだ趣味があった。それが神話である。日本の神話から北欧の神話、クトゥルフ神話まで。神話と呼ばれるもの全てを網羅していったのだ。そののめり込みはというと偶然会うことが叶った神話研究家の人をドン引きさせるほどだった。


そしてこの趣味に基づいた力が女神様から頂いた力、そのニである。

この神の力と呼ぶべきものはこの世界に存在する一般的な属性から離れた無属性魔法とこの世界で私しか持ち得ない神聖魔法の組み合わせによるものだ。


話は少し変わるが、私にとって《チート》と呼ばれるモノの定義はその世界に存在しない、或いはその世界のものでは決して再現出来ないモノのことだと思っている。

存在しない・再現出来ないからこそその世界のモノには防ぐ事が出来ないし対抗手段がない、決して触れることのできない不可侵な存在という意味だと。

そういう意味で私はこの力は私が女神様から頂いた唯一のチートだと胸を張って言える。






先程ブレスを防いだことによる動揺から立ち直り次はこちらにその大きな腕を振り下ろしてきた。


私がそれ()を喰らえば当然悲惨としか言いようのない未来しか待っていない。


私は自分の中の魔力を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()へと変換させた。


私の周りには体に収まりきらず、漏れでた(いかずち)属性の魔力がバチバチと音を鳴らして弾け出す。


雷迅(クイックライトニング)


私の体に電流が走り脳や筋肉、視神経に絶大な補助を掛けるこの魔法。

一般的な身体強化では相手にならないほどの強化を生み出す私オリジナルの魔法だ。


ドラゴンの一撃必殺の振りを避け、私はドラゴンとの距離を一気に離す。


「悪いけど、遊んであげる余裕はないから!…これで終わり!」


私は上空へと手を伸ばし今の私の最大の魔法を行使するため詠唱を始める。


「『地の恵みは悪魔を嘲笑い 天の心は神々さえも干渉し得ない 聖なる槍は魔を貫き 墜なる槍は神をも屠る 相反する二つ力よ 我の攻になりて 敵を穿て 』」


あんなに晴天だった空は今、私の魔力により曇り空へと変貌している。そして詠唱の最後。私は魔法を発動させるキーを唄いあげる。




【ロンギヌス】




私の言葉とともに私が持つに丁度良さそうな槍が現れる。一見見ただけでは通常の槍よりも小さく、大したことは無さそうに見えるだろう。しかしその槍の先端部分は黒く唸り、有り体に言えば時空を歪めている。

そしてそこに触れたモノがどうなるかなど、それこそ言わずもがなというやつである。


私はそれ(聖闇槍)を指で弾くと人が歩く程度のスピードでドラゴンへと向かって行った。


……え?そんなスピードだったら避けれるだろうって?甘いね!苺大福よりも甘々だね!


ロンギヌスの先端は先程言った通り時空を常に歪ませている。言い方を変えるなら常にそこだけこの世界を破壊し続けていると言うことだ。

そしてその絶大な力はその進行方向にあるあらゆるモノの自由を奪う程の力を持っている。……つまりこの槍を向けられたモノはその瞬間から抵抗する事なく終わりを迎える事が決定付けられているのだ。


『グォォォォーーーー……』


ロンギヌスがその巨躯に当たると最初はその力に抗っていたドラゴンだが徐々に抵抗をしなくなり地面へと堕ちていった。











ーーー束の間の静寂。

そこに残されたモノは勝者である私と身体の6割程を失ったドラゴンの亡骸であった。










♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢










「リア!!!」


私が別宅へと帰っていると兄の声が聞こえた。

まさか、と私が顔を向ければ号泣している兄……だけでなくなんと領主である父や母まで、いや、それどころか騎士やメイド達までいるではないか!………そ、それとフォーツさんも。



………全くもう!この家族は、危険だって言ったのに!

そう心では悪態付いてもきっと私の顔は笑っているだろう。何せ魔法やらプレッシャーやらでふらふらで今にも倒れそうだった体が私の意思を無視して勝手に走っているんですもの。


「お父様!お母様!お兄様!」


私は叫びながら母に飛び込む。父と兄は自分達に抱きついて来なかったのがショックなのか少しあわあわしている。

仕方ない。私は家族大好きだが、やっぱり母が特別大好きなんだから。

この気持ちはきっと前世の影響によるものが大きいだろう。前世は母を小学生の時に亡くしている。だから今世はその反動で自分でもびっくりするくらい甘えているのだ。

母大好きな私を知っている2人(父と兄)はすぐにいつもの調子に戻って温かく見守ってくれている。


「全くもう。全くもう!すごく…すごく心配したのですよ!」


「ごめんなさい、お母様」


母は泣きながらも私を叱る。しかしそこには愛情しか溢れていない。

そんな叱責に私もいつの間にか涙を流していた。

そして兄が私たちを、その兄の上から父が抱きしめてくれる。そして全員が大人気なく大泣きしたのだった。














しばらく泣いた後、父が咳払いをし空気をピリッとさせるとドラゴンの居場所を確認してきた。そしてその現場に案内すると



「これは……」


「…………」


「本当にリアがやったのかい?」



ドラゴンの亡骸を目にすると、兄は途中で言葉を失い、母は愕然とし無言、父は私に真偽を確認してくる。



「はい。なんかやれちゃいました」



ゆくゆくは冒険者になろうとは思っていたが、今の段階ではまだ目立ちたくなかった私は今まで敢えて()()()()()()()()()()()()()()()()に力をセーブしてきた。

そんな事もあってか後めたさが非常にあり、可愛らしく白状してみたり。

父はそんな私を見て溜息をひとつ。……可哀想に。また心労が……とどこか他人事のように考えながらふと大事な事を思い出す。


「お父様!お願いがあります!」


「……なんだね?」


娘からのお願いに心底嫌そうな顔をする父。酷いな〜。まあこういう言い方する時は碌な事言わないからな。自覚はあります。はい。まあそれはそれとして


「むぅ〜…。まあいいです。出来れば今回の事、私がしたとは言わないでいただけませんか?」


少しむくれるくらいは許されるはずだ。


「ふむ。まあ私は構わないが…」


そう珍しく歯切れが悪い父が何故かフォーツさんを見ながら喋る。


「大丈夫ですよ辺境伯殿。この事は()()()()誰にもいいません。………できる事ならば敵を増やしたくないしな」


最後にボソッと何かを呟いたけれど、前半部分は私が望んだ通り、だから気にしないことにした。だから


「フォーツ様ありがとうございます!」


満面の笑みでお礼を言ったんだけど


「……ああ、気にするな」


真っ赤な顔で歯切れが悪い姿が何故か分からなくて首を傾げるのだった。










♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎










それから事後処理などで瞬く間に時は過ぎ、フォーツさんが帰る日がやってきた。


「今までお世話になりました。ここでしか学ぶ事の出来かった多くのものはきっとこれからの私の人生の糧になるでしょう」


フォーツさんが別れの挨拶を私達家族に向ける。

だ、誰だこの爽やか系イケメンは!?いつもの俺様系イケメンはどこにいった!!?

目を丸くして驚いている私にフォーツさんは何故かしてやったりの表現で笑っている。


「いえ。こちらこそ、復興を手伝ってくださり大変感謝しております」


父がいつになく丁寧にお礼を言う。父が気を使う相手…きっとフォーツさんは本当に高位貴族なのだろう。べ、別に疑ってなかったんだからね!・・・あ、ダメお母様、そんな目で私をみないで!!

しかし、まさかまさかの王ぞ……いや、これ以上考えてはダメだ。

私がそんな葛藤をしている前でまたもやびっくりするくらい色気のある表情で私を見つめ


「それこそ構いませんよ。いずれは家族になるんですし…ね?」


私は赤くなった顔を急いでそらし、兄は私の前に立ち、フォーツさんを威嚇し始め出した。父も困った表情で


「フォーツ殿、それは……」


「分かっています。無理強いはしませんよ。……必ず俺の虜にしてみせるさ」


前半は父に後半はたぶん……私に。そう自信満々に宣言して辺境伯領を後にしたのだった。









この後、何故か陛下にこの事件の真相が伝わっており、ドラゴンスレイヤーの称号を受け賜ったり

乙女ゲームの舞台である学園で、ひとりのメイン攻略対象者に熱烈なラブコールを送られる日々を過ごすことになるのはまた別の話である。

お読みいただきありがとうございました。

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