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第7話 『新しい朝』

 ∮



 広いリビングの豪華なテーブルに荷物を置くと、俺は言った。


「鬼か、お前は」


「まさかこんないい家に、タダで住めるとは思いませんでしたよ。

 それもこれも、あたしのおかげですね。くふふふ」


 それはそれは嬉しそうにルビーが笑った。

 なんという邪悪な笑顔!


 一日中連れ回された挙げ句、金にならない客を掴まされたルッソ氏には、同情を禁じ得ない。


「しかし、恐ろしいほどに贅沢な屋敷だな」


「そうですね。思った以上に……オックスさん!」


 大きな扉を開いて、ルビーが驚きの声を上げた。


「ど、どうした?」


「見て下さい! あの魔導冷蔵庫!」


「こりゃ、たまげた……。

 こんなデカい冷蔵庫を見たのは初めてだ」


「しかもこの台所、魔導給湯器が付いてますよ!」


「マジか! もしかして、台所以外にも……」


「探検してみましょう!」


「おう!」



 ~寝室にて~



「オックスさん! なんと魔導エアコンが付いてますよ! 全部の部屋にです!」


「うむ、これで夏も冬も安心だな!」



 ~風呂場にて~



「きゃぁぁぁ! オックスさん! なんと、魔導お湯張り機能付きですよ!」


「うむ、いつでも熱い風呂に入り放題ってわけだな!」



 ~トイレにて~



「オックスさん! 魔導水洗トイレです!

 しかもこれは貴族の間で今はやっているという『魔導洗尻機(れっとうぉっしゅ)』ですよ!」


「うむ、これで多い日も安心だな!」


「………………最低です」


 



 それからも屋敷を探検して様々な高級魔道具を発見した。


 ルビーは子供のように喜んでいる。

 ってか子供なんだがな。

 

 しかしこの設備はすごすぎる。

 家賃月50万ガバチョどころではない。

 80万……いや100万ガバチョはする物件だ。


 こんな家を舌先三寸だけで借りてしまうとはな……。


 だ、大丈夫なのか?



 ∮



 やがて家の探索を終えた俺達は、リビングに戻った。


「じゃあ俺は適当な部屋を使わせて貰うぞ。

 明日は朝から冒険者ギルドで、冒険者登録とチーム申請だからな?

 それじゃ、おやすみ」


 もうとっくに日を跨いでいる。

 さすがに疲れたよ。


「あ……オックスさん、ちょっと待って下さい」


 歩き去ろうとした背中へ声がかかった。

 

 なんだよ、早く眠りたいのに……ん?

 

 見ると、ルビーは、鞄から何かを取り出した。


「はい、これ」


 手渡してくる。

 これは、紙だな。


「なんだよ、これ?」


「お(ふだ)ですよ」


「お札? 何の?」


「言ったじゃないですか。この屋敷には悪霊が棲んでるって」


「へ?」


「部屋には必ずこのお札を貼って下さい。

 貼り忘れたらコロッと死んじゃいますから」


 な、なるほど。



 ∮



 次の日の早朝。



 ガタゴトと不気味な音が鳴り続ける中でぐっすりと眠った俺は爽やかに目覚めた。

 

 ゴージャスな洗面所で顔を洗うと、丈夫な運動用の服に着替える。

 すぐに素振り用の木刀と手拭いを持って、勝手口から庭へ出た。


 壁の中とは思えないほど広大な土地を、全力で走る。

 約20KMを走り終えると脈を測る。

 重り付きの木刀で素振りを1000回終えて、また脈を測る。

 

 新しい街に来ても、いつもの日課は欠かさない。

 

 トレーニングを終えて家に入ると、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐった。


 匂いを辿り、広いリビングの奥にある扉を開けると、エプロン姿のルビーが食堂に立っていた。


「おはようございます、オックスさん。

 お食事になさいますか? お風呂ですか? それとも、あ・た……」


「こいつはすごいな……。食材はどうしたんだ?」


 聞くに堪えない提案を遮って、俺は驚きの声をあげた。

 テーブルの上には色とりどりの家庭料理がきちんと並べてある。

 栄養バランスの良さそうなメニューだ。


「くふふふ、昨夜のうちに買っておいたんです」


「あんな遅くにか?」


「ええ、24時間営業のお店が沢山ありましたよ」


 ダンジョンは、24時間入ることが可能だ。

 夜でも客となる冒険者には、ことかかない。

 前の街では、夜中まで空いている店はなかったのだが、さすが帝国一のダンジョン都市と言われるだけはある。

 まさに眠らない街というわけだ。


 風呂に入るのは後回しだな。

 

 湯気を立てる美味しそうな朝食の誘惑には勝てなかった俺は、豪華なテーブルに腰を下ろした。


「さぁ、どうぞ召し上がって下さい」


 すぐにルビーが温かいスープを持って来てくれた。


「いただこう」


 言うや、俺は食べ始める。


 夢中でがっつく俺を、ルビーは頬杖をついてニコニコと眺めていた。



 

 ∮


 


「うまかった……。いや、マジで」


 朝からこんなに喰って大丈夫かってくらい食べてしまった。

 ここ数年いろいろな飯屋を渡り歩いた俺でも、こんなに美味しい飯は滅多にお目にかかれない。


「くふふふ、お粗末様でした」


「料理はどこで覚えたんだ?」


「お母さんとお姉ちゃんですよ。

 特にお母さん先生からは、スパルタな感じで仕込まれました」


「いい家族、だな」


「ええ、特に不満の無い家族ですね。

 子曰く『胃袋を掴むは、これコロリと男を落とす極意なり。

 最後に男を煮るなり焼くなりするは、料理の仕上げがごとくなりけり』

 らしいのですが、どうでしたか?」


「すごい親だな。確かにこんなうまい飯が毎日食えるなら、

 相手がCカップでも惚れてしまうかもしれん」


「くふふふ、いつかストンとAカップまで落ちてきそうですね」


「それはない。断じてな」


「ところで、オックスさん」


「ん?」


「食事に薬が入っているとは考えなかったのですか?」


 ルビーが意味深な笑顔を向けている。

 だが俺は平然と言ってやる。


「お前はそんなやつじゃないだろう?」


 虚を突かれたような顔でルビーが目を見開いた。


「ごっそさん。風呂に入って支度してくる。

 あと1時間もしたら出かけるぞ?」



 ∮



 食堂に1人残ったルビーは、テーブルに突っ伏している。


「はぁ、なんであんなことを言うんですかねぇ……」


 耳まで真っ赤になったルビーは、顔を上げて大きなため息と吐くと、もう一度呟いた。


「オックス様はずるいです……」


【筆者感謝の後書き】



 おお! 昼間に投稿してから4つもブクマが増えとるが!

 Aっちゃん、Bさん、C君、D夫人、ありがとうございます!


 引き続きブクマでの応援よろしくお願いします!

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