第5話 『新しい街』
「信じられません! 信じられません! 信じられません! 信じられません!」
休憩地点で馬車から降りてから、ルビーはずっと狂ったように手を洗っている。
「おいおい、人のちん○んをバイ菌みたいに扱うのは止めようぜ?
お兄さんのピュアなハートが傷ついちゃうだろ」
「ピュアなお兄さんは、人前でおちん○んを掻いたりしません!」
「おっと、それは失礼。だがもう大丈夫じゃないか?
それだけ洗えば腐ったアンデッドの臭いだって消えてるだろ」
「っていうか、あなたも手を洗ってください!」
「ナハハ、お 断 り だ 」
「こ、こ、股間を!
それもダイレクトにおちん○んをボリボリと掻いた手を!
どうしてですか!
なぜ洗わずに平然としていられるのです!
人間にあるまじき行為です! 神への冒涜です!」
「そうかいそうかい、なら俺はアンデッドかもしれんな」
「お○んちんを触ったらアンデッドだって手を洗います!」
「やれやれ、まったく嘆かわしい。
お嬢ちゃんは何もわかっちゃいないな」
「な、ナニがですか?」
「いいか、男ってのは、暇さえあれば股間を触る生き物なんだよ。
ちんち○のポジショニングも兼ねてな。そして――」
「おちん○んのポジショニング……。そ、そんなのオックスさんだけでしょ!」
動揺する小娘へ、俺は余裕の笑みを浮かべると、構わず続けた。
「そして、その手を洗うことは、まずあり得ない。
よほどのことが無い限りはな。
――そうだよな、トーマスさん?」
俺は御者の中年男に話を振る。
トーマス氏は薄い頭をボーリボリ掻きながら、恥ずかしそうに言った。
「んだな。わたすも気がついたらチ○ポさボーリボリ掻いてるんだども、手は洗わねぇべな」
ルビーは絶句した。
偶然訊いていた無関係な5人の男性が、全員うんうんと頷いた。
たまたまその場に居合わせた4人の女性は、汚物を見るような目で男達を見つめている。
これが後に言う【第三次おちん○ん戦争】勃発の瞬間である。嘘だけど。
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「ったく、くだらねぇ約束しちまったなぁ。
ああ面倒くせぇ……ブツブツ」
「ブツブツ言わないでください。
【おちん○んを触ったら手を洗う】なんて、面倒でもなんでもありません。
ジャンプしたら着地するってくらい当たり前のことです」
「着地は自動だろ。手を洗うのは手動じゃねぇか。
あぁ、面倒くさい、面倒くさい、実に面倒くさい……ブツブツ」
大きな鞄を抱えた俺たちは、整備されたきれいな道を歩いていた。
ちなみに俺とトーマス氏は、手洗いを強要されて、お手々キレイキレイなのだった。
ここは、ロゲンの街。
帝国に属する7つの国の一つ、イージム王国にある大陸最大のダンジョン『ヨクトダンジョン』を有する大きな街だ。
人口は二万人強。
『ヨクトダンジョン』からは、さまざまな鉱石が採取され、魔物の素材や、魔物から採れる魔石の取り引きも盛んな街である。
主にそれらを使った工業、そして一攫千金狙いの冒険者を相手にした客商売で賑わっている。
「まずは宿を探さないとな。それじゃ、待ち合わせはここ、中央広場でいいか? 時間は……」
「なに言ってるんですか? 宿なんか取りませんよ、もったいない。
――ほら、一緒に不動産屋さんへ行きますよ? ほらほらほら」
「は? な、なんでお前が俺の宿を決めるんだよ!
それに2人が家を借りたら高くつくだろうが!」
「えぇ、そうですね。だから2人で家を借りるんですよ」
「おま! と、年頃の娘がなんてハレンチなことを!
お母さんが泣くぞ? お父さんはもっと泣くぞ?」
「うちの両親をなめないでください。
あたしには兄弟姉妹が沢山いるので、そんなことじゃ父も母も動じませんよ。
というか、むしろ喜ぶかもしれません」
「そ、それにしてもだな……」
「あらあら、なんです? あたしの魅力に参ってうっかり襲ってしまうとでも?
イヤですわ、オックスさんったら。オホホホ」
「生意気な口は、第二次成長期が始まってから言いなさい」
「まさにど真ん中ですが?」
「飯はどうすんだよ? 自慢じゃねぇが、俺は肉も焼けんぞ?」
「ご飯はあたしに任せてください。
そこいらのご飯屋さんより美味しい料理を作ってあげますよ。
食費はオックスさんの反応を見てから決めます」
「金を取るのかよ!」
「当たり前でしょ?
あたしはオックスさんの彼女ですか? お母さんですか?
甘えるなら、それなりの覚悟をして下さい。それなりの地位を与えてください」
「くっ、確かに……」
「もちろん、あたしと付き合うなら、三食タダになりますけどね。
もしかしたら『夜のご奉仕』がついてくるかも? くふふふ」
「あ、それは遠慮します」
「なんでですかぁッ!」