第4話 『道中――おかしな2人』
「ルビーちゃんはガッカリなのです」
ガタゴト揺れる馬車の中、青髪の少女ルビーが半目で俺を見つめる。
「そうかそうか。お前に軽蔑されようが、痛くもかゆくもないがな、ナハハハ」
俺は外を眺め、鼻歌を披露する。
「てっきり、スケベキャラを演じているものと……」
「なっ! 俺の真の姿に気づくとは……お前……何者だ?」
「ルビーちゃんですよ。
なにを今さら、シリアスな感じに持って行こうとしてるんですか?」
「ダメか?」
「ダメです。無駄です。とっくの昔に、手遅れのタイムオーバーです。
はぁ……、あの女(※前チームのお色気魔道士ナトリ)の下着を盗んでいた犯人が、
まさか本当にオックスさんだったなんて……」
「おい、それは濡れ衣ってものだぞ。使用済みパンツだけに」
「よく考えると、それってとんでもない下ネタですよね?
あたしは直接見たんですよ。
オックスさんの鞄に入ってる、あの女の下着を」
「ほう? それがあの女の下着だって証拠は?」
「あの女の下着じゃなかったら、それはそれで大問題だってわかってます?」
「ルビーちゃんよ。勝手に人の鞄の中身を見るのはどうかと思うぞ?
そんな子じゃないと思っていたのに、お兄さんは悲しいよ」
「あたしはその何百倍も悲しいですよ。
はぁ……まったくオックス様ったら……」
「オックス【様】? どうした、かしこまって?
苦しゅうないが、良きに計らって控えおろう」
「い、言い間違いです。そんなところを突っ込まないでください。
本当についてきてよかったのか、不安になってきましたよ」
「お前のようなペチャパイについてきて欲しいとは、ひと言もいってないがな」
「これでも少しずつ大きくなっています。
発展途上なんです。今の状態を完成形と思わないでください」
「あと5年経ったら、俺を起こして、もう一度今のセリフを言ってみてくれ。
それじゃあ、おやすみ」
「どれだけ寝る気ですか。
5年後にはポンキュッポンな予定です。
そのときは、あたしの巨乳へ土下座してもらいましょう」
「夢とおっぱいはデカい方がいいよな……ボソ」
「何か言いました?
それに、オックスさんには、あたしが必要なはずですよ?」
「俺に必要なのはDカップ以上の女だ。
Aカップは鼻でも垂らして泣きながら草原を走り回ってろ」
「なんという貧乳差別主義者……。
あなた、今、全国のAカップ女子を敵に回しましたよ?」
「敵に回したがどうした?
Aカップが何匹束になってかかってこようと、まとめてひねり潰した後に、無駄なブラジャーを剥ぎ取ってぞうきんにしてくれるわ」
「む、無駄じゃないです。
いろいろと必要なんですよ。小さいなりに」
「ふぁー……、ムニャムニャ。
まったく興味がわかないな、その話題。
寝てもいい?」
「こ、この男は……。
話を戻します。オックスさんには、あたしが必要なんです。なぜなら――」
「だから俺に必要なのは……」
「シャラップ。――なぜなら、オックスさんはパーティーを組んでいないと、スキルが発動しないからです」
「…………」
「肯定と取ります。
そしてあたしは超優秀な【治療師】です。
しかも超絶美少女」
「そして性悪でAカップ……あ痛ッ!」
「すみません。害虫がいたので踏んづけちゃいました。
コホン、ある程度事情を知っているあたしがいた方が、なにかと便利だと思いますよ。
真面目な話」
「お前は何が目的なんだ?」
「オックスさんの目的は?」
「…………」
「止めましょう。
お互いにメリットがあるなら、それでいいじゃないですか」
「メリット、か」
「そうです、メリットです。
あたしはオックスさんの補助スキルで美味しい思いができて幸せ。
オックスさんは空前絶後の美少女ルビーちゃんを、いつでも見ることができて超幸せ。
それでよしとしませんか?」
「お前の異様に高い自己評価は置いておくとして……そうだな」
「交渉成立ですね。――それでは、改めて、よろしくです」
してやったり顔でルビーが右手を差し出してきた。
俺の半分しか生きてない少女は実に生意気だった。
「しょうがねぇな」
ルビーの差し出した右手の手首を、俺は左手でがっちりと掴んだ。
「え? な、何ですか?」
糞ガキが戸惑いの表情を浮かべた。
ようやく動揺しやがったな。
「ククク、さて、何だろうな?」
俺は何食わぬ顔で、おもむろに自分のズボンへ右手を突っ込むと、そのままダイレクトに股間を掻いた。
ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ
小娘のこまっしゃくれた顔が一気に青ざめていく。
「な、何をしてるんです! な、な、な、何をするつもりですか!
放して! 放してください! いやぁぁぁぁ!」
暴れ狂う少女の右手を強引に開き、匂い立つほっかほかの右手で無理矢理に握手をすると、俺は爽やかに挨拶をした。
「よろしく頼むよ、相棒。
――間違っても俺に惚れるなよ?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
春の草原、のんびり走る一台の馬車から、少女の悲痛な叫びがこだました。
あースッキリ。