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第3話 『追放ボーイ・ミーツ・性悪ガール!?』

 俺の朝は早い。

 

 空が白み始める前には20KM(キリマートル)の距離を、ほぼ全力で走り終えている。


「1、2、3、4、5……」 荒い息を軽く整えながら、脈を測る。


「ふぅ、とりあえず維持はできてるな」


 それから休憩なしに、重り付きの木刀(※20KG(キリグりム))で素振りを開始する。


「ふッ! ふッ! ふッ……」


 ~1時間後~


 素振りを終え、また脈を測る。

 満足な数値にホッと息を吐き、汗で重くなった上着を脱ぐと、手拭いで身体を拭いていく。

 そして誰へともなしに言った。


「俺の裸なんか見てもつまらんだろう」


 すると、


「つまらなくなんてないですよ。眼福です。

 目の保養です。くふふふ」


 小屋の影から青い髪の少女が現れた。


「――いつからあたしに気づいてたんですか?」


「素振りをするちょっと前からだな」


「つまり最初から、ですか……。さすがですね」


「どうした、ルビー。こんな早くに?」


「その質問に答えるには、まずはあたしが質問をしなくてはなりません」


「質問? なんだ?」


「オックスさんは、これからどうするんですか?」


「おそらく……朝飯、だな」


「そういう細かいボケはいらないです」


「む? なんかお前、性格変わってないか?」


「くふふふ、さてどうでしょうね。――それで?」


「そうだな。せっかくだから、別の街に行ってのんびり冒険者をやるか」


「回答ありがとうございます」


「で、何しに来たんだ?」


「あたしも一緒に行っていいでしょうか、と言いに来ました」


「はぁ? お前はチームの回復役だろうが」


「もう違います。昨日チームを抜けましたので」


「お、おい。お前までいなくなったら、あいつらが死んじゃうだろ?

 いいから戻ってやれ。後でお菓子を買ってやるから」


「お菓子なんかいりません。バカにしてるんですか?」


「す、すまん」


「はぁ、オックスさんは優しいですね。

 そして何もわかってないのです」


「へ? わかってない? 何をだ?」


「オックスさんは、補助系のユニークスキルを持っていますね?」


「……ッ!?」


「しかも、あのポンコツ達を勇者候補に育てるほど、強力な補助スキルです。

 それだけ強力ならば、おそらく『制限』もついてるはずです。

 それもかなり厄介な『制限』が。――あくまで予想ですが」


「…………」


「答えられないのですね。つまり『制限』のせいで他人に話せないと」


「お前……」


「オックスさんが能力を言わないせいで、彼らは自分の実力を勘違いしているのですよ」


「俺のせい?」


「はい、100%丸っと全部オックスさんのせいです。

 あのままだと、彼らは無茶な狩りをして死ぬのがオチだったんです。

 遅かれ早かれ、必ずそうなっていました」


「あいつらが、死ぬ?」


 恩知らずな奴らとはいえ、さすがにそれは寝覚めが悪い。

 俺はあいつらのことを嫌っている訳じゃないのだ。


「そんな自殺まがいの行為に巻き込まれるなんて、あたしはごめんなのですよ」


「自殺、か」


 ルビーの言うとおりだ。

 あいつらだけで、昨日までの狩り場に行こうものなら、確実に殺されてしまう。

 俺から見たら自殺行為そのものだ。

 

 確かに俺の責任、だな。

 こうなったら、あいつらにすべて話して……

 

「彼らのことならご心配なく。

 無茶な冒険を続けられないようにしておきました」


 俺の思考を読んだようなルビーの発言だった。


「な、なにをしたんだ?」


「たいしたことじゃありません。

 眠り薬を飲ませて装備を全て回収しました。

 彼らには過ぎた代物です」


「ね、眠り薬って、お前……。

 それに装備を回収って、お前……」


 鬼か、こいつは。


「彼らのためです。これで無茶な狩り場には行けません。

 お金は残しておいたので、生活に困ることはないでしょう」


「そうか……」


 奴らの実力を考えると、ルビーの行動は正しいかもしれん。

 これで命だけは助かるだろう。

 確かに酷い鬼のような仕打ちだが。

 

 さらに青髪の小鬼は、とんでもないことを言った。


「ついでに超強力な媚薬である【発情マタンゴエキス】も飲ませておきました」


「び、媚薬!?」


「はい、なので今頃は……。くふふふふ」


「ゾゾゾ……。お前って、そんな性格だったの?」


「くふふ、そうですよ。

 大人しくて思慮深くて空気の読める、キュートな女の子と思ってましたよね?」


「いや、別に?」


「なんと、びっくり。そこを否定されるとは……。

 想定外の事態にルビーちゃんは戸惑いを隠せません」


「す、すまん。つい……」


「すみませんが、肯定したものとして話を進めてもよいでしょうか?」


「ど、どうぞ」


「ありがとうございます。コホン

 ――残念でした。キュートな部分以外は大ハズレです。

 猫をかぶっても、オックスさんってば、全然靡いてくれないんですもの。

 だから隠すのは止めたんです」


「で、今のここにいるお前が、本来のお前だと?」


 正直まったくわからなかった。

 これだから女は恐ろしい。


「こっちの方がオックスさんも楽でしょう? いろいろと」


 含みのある言い方だ。

 たしかに近くへ置くならば、純情少女より性悪糞娘の方が、俺にとって都合がいい。

 

 俺の、というより、ユニークスキルの『制約』上の都合だがな。

 こいつはまさか、それを知った上で……。


「……どこまで知っている?」


「先日オックスさんが『どうして荷物を持たないのかって』って質問に答えましたよね?

 確か『疲れるから』と」


「あぁ……」


「あれってふざけたわけじゃありませんよね?

 オックスさんは『疲れるから』荷物は持たない。いや、持てないんです」


「…………」


「なぜなら疲れてはいけない理由があるからです。

 しかも、それを他の人に説明できない。――どうです? 当たってますか?」


「……あぁそうだ」


「くふふふふ」


「お前……何者だ?」


「あたしはルビーちゃんですよ?

 ただの【治療師】な超美少女です」


「他に何を知っている?」


「ご安心下さい。何も知りませんよ。知ってること以外は、ですが。くふふふ

 ――さぁ、どこの街に行きますか? あたし、すごく、すっごく愉しみです!

 くふ……くふふふふ」


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