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あやかし氷室探偵所。  作者: 友坂 悠
エピソードワン。
3/10

空気がひんやりと冷たく感じた。

 死期を察した猫は人前からこっそり姿を消す。

 何処かで読んだ都市伝説だ。

 実際にそんなことがあったって話は聞いたことがない。


 うちの事務所の下の喫茶店の奥さんに可愛がられてた野良子は、しばらく姿を消してた後ひょっこり現れた。

 かなり弱っていたからもうダメかな。

 そう思ってたから帰ってきてくれた時は嬉しかった。

 毛艶も良くなってふっくらしていて、きっと何処かで優しい人に助けられてご飯もらってたんだろうね、って、そう奥さんとお話ししてほっこりしていたのもつかの間。

 その野良子はいつも寝床にしてた駐輪場の奥で眠るように亡くなっていた。


 ああ。

 この子は最後のひと時を奥さんの下で過ごしたかったんだな。


 そう。その時はそう思った。




 あのお屋敷は周囲の壁が厳重で、小動物が出入り出来るような穴は無かった。

 飛び越えるのも、難しい。

 もともと野良猫が紛れ込んでくる事も無いという。


 お庭は広く、木々も多く池まである。お屋敷には縁の下やら屋根裏やら動物が侵入できるスペースがあるにもかかわらず今までそういう事がなかったのも、出入りが難しい壁のおかげだろう。


 と、すると。


 ミケコはお屋敷の中で行方不明となり。

 そして、二年後現れた。と、いうことになり……。


 お屋敷からの帰り道、僕はそんなことをつらつら考えながら歩いていた。

 これ、もしかしたら普通の猫探しじゃ、ないのかも?

 まあうちに依頼が来たことを考えてもそういう可能性があるって考えなかった自分が悪い。

 そう反省しながら。


 駅までの道を裏道を選んで歩く。

 表通りは苦手。明るい場所は歩きにくい。


 周囲は駅裏の飲屋街。田舎から出てきたばかりの頃お世話になった事もある。

 そこで耕助さんとも知り合ったっけ。


「あらー。摩耶ちゃん久しぶり。元気してた?」


「ああ、宮子おねえさん。今からお仕事ですか?」


「今夜はちょっとお料理に凝りたいと思ってー。少し早めにね」


「おねえさんの料理は美味しいですからねー。またおじゃましたいです」


「まああんたは未成年だからねー。お酒飲まないなら来てもいいわよ。ああ、先生連れてきなさいな。保護者同伴ね」


 保護者じゃないもん。そうちょっとふくれて。


 スナック灯のママ宮子さん。

 ママって呼ばれるの嫌みたいで、おねえさんって呼ばないと機嫌悪くなる。

 行き倒れそうになってた僕を最初に拾ってくれた恩人だ。


 摩耶っていうのは源氏名。

 流石に本名で夜のお店で働くのは気が引けた。

 美咲真那みさきまな。

 それが僕の名前。

 2月生まれ水瓶座の19歳。誕生日は……、14日。あんまり言いたく無いけど例のチョコの日だ。


 宮子さんと別れて駅入口の階段を降りる。

 空気がひんやりと冷たく感じた。

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