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ストレンジ・レジデンツ ー奇妙な住人達による微妙な日常ー  作者: 川寄海弥
ダイスロール・クッキング
9/15

ダイスロール・クッキング①

この話の登場人物


黒木神也 (くろきしんや)

怪異専門の探偵。好きな料理はオムライスとカレー。あとスイーツ。


狛島萌 (こまじまきざし)

神也の助手兼同居人兼親友。好きな料理は肉料理全般。特に牛肉。


尾田マリア (おだまりあ)

現役女子高生怪盗。好きな料理はシチュー。濃い目が好き。


リーン・L・カーター (りーん・るぐらーす・かーたー)

ボスの手下。食べられればなんでも好き。


謎の男性 (なぞのだんせい)

国籍不明の謎のイケメン。食事は今度してみようと思っている。

 目が覚めると、そこは一面の白だった。

 白と言っても雪景色ではない。製造元不明なタイプの極めて人工的な白だ。

「…何処だここは」

 真っ白な空間の中、赤い眼鏡の探偵、黒木神也くろきしんやは起き上がった。神也は特に驚きもせず、どちらかというとうんざりしたような表情で辺りを見渡した。

 そこは真っ白な壁に囲まれた空間で、扉すらも無かった。例えるなら、豆腐の中身を正方形にくり抜いて部屋を作るとちょうどこんな感じになるのかもしれない。光源のような物は見当たらないにも関わらず、室内全体が明るかった。

 そして床には四人、先程までの神也と同じように倒れている者がいた。

「良かった。今回は俺以外にも被害者がいるようだ」神也は少しも嬉しくなさそうに言うと、一番近くに倒れていた人物の傍にしゃがんだ。

「おい、起きろキザシ」神也は四人のうち一番見知った人物、狛島萌こまじまきざしの肩を軽く揺すった。暫くして狛島が目を覚まし、灰色の瞳に神也を捉えた。

「ウゥ…。どうしたんだ神也…?今日は随分と早起きじゃないか…」狛島は手を伸ばして目覚まし時計を探すような動きをしたが、そんなものはここには無いため右手は空を切るだけだった。

「違う、起きろ」神也は寝ぼけている狛島の頭を軽く叩いた。本人は軽く叩いたつもりだがそこそこ痛そうな音がした。

「いてっ!何だよ!?」

「おはようキザシ。早速だが周りを見るんだ」

「周り?」狛島は辺りを見渡してようやく自分達が置かれている状況に気付くと、「どこだここは!?」勢い良く飛び起きた。

「部屋は!?ベッドは!?ってか何で普段着なんだ僕は!?パジャマは!?」自身の着ている服と室内とを交互に見ながら慌てる狛島。そんな狛島の様子を見ながら神也は、そういえば俺もいつの間にか普段着になっているなと思ったが、面倒なので口には出さなかった。その代わりに自分達の周りに倒れている三人を見て言った。

「さあな、だがこいつらも多分俺らと同じ境遇だろう。起こしてやれ」

「え?…あ!」神也に言われて狛島は初めて自分の周りに倒れている人物に気付くと、「大丈夫ですか!?」近くに倒れていた金髪の少女を揺すり起こした。

 狛島の近くに倒れていた制服姿の少女、尾田おだマリアは目を覚ますと「…狛島先生?」と寝ぼけ眼でつぶやいた。そして目をこすりもう一度狛島の顔を確認して目を大きく見開いた。

「狛島先生!?」そして少し前の狛島と同じように飛び起きると「何でわたしの部屋に!?」慌てて辺りを見渡し、自分の部屋でないことに気付き「いやここどこよ!?」勢いよく狛島ヘと振り返った。

「いや僕にも分からない…って、なんだマリアじゃないか」狛島は倒れていた人物がマリアだと気付くと意外そうな、少しホッとしたような表情で言った。見知らぬ空間でも知り合いがいると心強い。

「なんだとは何よ、失礼ね。それよりここはどこなの?」マリアは少しムッとしたように言った。

「だから僕にも分からないんだってば。神也は何か知っているようだけど…」狛島が神也の方を見ると、ちょうど神也が倒れていた残り二人の片方、黒いスーツ姿の女性と話しているところだった。神也の様子からして知り合いのようだが、狛島には見覚えが無かった。マリアが少し首を傾げて二人の様子を伺っていることから、どうやらマリアも知らない人物のようだ。

 少しすると狛島の視線に気付いたのか、神也が振り返った。

「ん?どうしたキザシ。って、なんだマリアじゃないか」神也は特に驚いた様子もなく言った。

「だから、なんだとは何よ。二人揃って同じ事言うんだからもう…」マリアはため息交じりで言うと、「ところでそちら、どちら様?知り合いみたいだけど。それと、ここはどこ?」神也と話していた女性を見て言った。

 神也は一瞬女性の方を振り返ると、「ああ、彼女はカーター。俺の、なんだ、…知人?的なやつだ、うん」なんとも歯切れの悪い様子で二人に紹介した。

「カーターはリーン・Lルグラース・カーターだよ。カーターって呼んでね、よろしくー」煉瓦色の髪の女性、カーターは明るい笑顔で挨拶した。見たところ二十代前半のようだが、無邪気な表情のせいか幼く見える。

「あ、どうも…」「こちらこそ…?」狛島とマリアは神也とカーターの表情の違いに困惑しながらも返した。

「それで、ここが何処かという質問だったな。だが、それに答える前にこいつを起こさないとだ」そう言うと神也は未だ床に倒れたままの人物を見た。この人物に関してはこの場にいる全員、見覚えが無かった。

 床に倒れて、というか雑魚寝をしているのは二十代前半の、一目では男性とも女性ともつかないが美しい人物だった。色素の薄い長い髪と相まり、まるで西洋絵画に描かれる天使の様な印象を受けるが、顔立ちには若干のオリエンタルさも感じられる。一言で表すなら、『性別と国籍不明の謎の美形』。さらに、赤地に黄色いゴシック体の文字で『エジプト』と書かれたどこで売っているのかも分からない謎Tシャツを着ているため、ますます何者なのか分からない。

 四人は無言で顔を見合わせると、そのまま無言でジャンケンをした。その結果、負け残った狛島が謎の人物を起こす事になった。

「も、もしもし?大丈夫ですか?」狛島が恐る恐る声を掛けながら謎の人物の肩を軽く叩いた。かなり騒いでいたにも関わらず目を覚ます様子がなかったため起こすのに手間取るかと思ったが、以外にもあっさり目を覚ました。謎の人物はうっすらと目を開いて、長い髪と同じ亜麻色の瞳に狛島を映すと「うるさい」とドスの利いた声で一言だけ呟き、再び目を閉じ二度寝の姿勢に入った。声から察するにどうやら男性のようだ。

「いや、起きろって」狛島はツッコミを入れるようにやや強めに頭を叩いた。完全に二度寝する神也を叩き起こす時のノリである。

「あいたっ!何だよ!?」謎の男性は叩かれた箇所を押さえながら起き上がると、狛島の顔を見て「え、誰?」心底不思議そうな顔になった。そのまま立ち上がり素早く辺りを見渡すと、再び狛島の顔を見て「…ここどこ?」少しだけ眉を顰めながら聞いた。

「僕にも分からないんです。それとすみません、ついいつもの調子で叩いてしまって…」

「いつもの調子って何?」

「寝起きの悪い奴がいるんですよ、…な!」狛島は神也の方を睨みながら言ったが、当の本人は気付いているのかいないのか、そっぽを向いてスマホの電波状況を確認している。どうやら圏外のようだ。

「ふーん…。で、あんた誰?ああそれと、敬語じゃなくていいよ。面倒だし」謎の男性は怪しむような目で狛島を見ながら言った。

「…分かった、僕は狛島。狛島きざし。あっちでスマホを振り回しているのは神也、僕の友人だ。その隣にいるのはカーター。で、こっちが…」狛島がマリアを紹介しようとすると、マリアは狛島の紹介を遮る様に一歩前へ出ると胸を張り自己紹介をした。

「わたしはマリア、尾田マリアよ。パッと見はただの高校生だけど、その正体は!なんと!」そこまで言うとマリアは制服の上着をバサァッと脱ぎ捨て、次の瞬間には全く違う服に着替えていた。

 今のマリアは、丈の短いピンクのワンピースに赤いロングブーツ。その上にミントグリーンのマントを羽織り、赤い宝石を遇らったブローチの様な留め具で止めている。頭にはマントと同じ色のミニシルクハットを着けており、その鍔から金色のチェーンが左目に付けられた片眼鏡へ繋がっていた。

「21世紀の世間を騒がせる大怪盗!怪盗マリアなのでした!はい拍手!」マリアはマントを大きくはためかせると、左手を腰に当て右手でピースサインを作りビシッとポーズを決めた。

「あー、そう。よろしく」

 薄い反応が返ってきた。

「なんでよっ!?」マリアは思わず叫ぶと両手で謎の男性の肩をガッと掴み、そのままブンブンと揺さぶった。

「うわわわわ何なんだよおおうぅ!!」謎の男性は激しく揺さぶられながらマリアの手を離そうとしたが、マリアの握力には勝てなかった。マリアはそんなことにはお構いなしに揺さぶりながら続けた。

「なんでそんなに薄い反応なの!?わたし怪盗よ!怪盗なのよ!?世界的に有名で『現代のアルセーヌ・ルパン』なんて言われてるのよ!今日だって一仕事してきたんだから!明日の朝にはネットニュースのトップを飾るわよ!ほらこれ現物!」マリアはそう言いながら肩から手を離すと、マントの奥から金色の金属で出来た飾りのような物を取り出した。

 おそらく金で出来ているであろうその飾りは、首をもたげたコブラのような蛇を模しており、どうやら頭飾りのようだ。

「素敵でしょ?これは歴史の表舞台に出てこなかった謎のファラオの頭飾りらしいんだけど、明らかに胡散臭いのにどう見ても本物の古代エジプトで作られた代物なのよ。面白いでしょ?」マリアはそう言いながら頭飾りを、まるでカブトムシを捕まえた小学生の様に自慢げな表情で謎の男性に見せつけた。

 その飾りを見た瞬間、謎の男性の表情が変わった。

「うわー、懐かしい!まだ残ってたんだコレ」謎の男性は嬉しそうな笑顔でそう言うと、マリアの手からひょいっと頭飾りを取り上げ自分の頭に乗せた。頭飾りはまるで初めから彼のために作られた物であるかのように、良く似合っていた。謎の男性はどこからか手鏡を取り出すと、鏡に映った姿を確認しながら頭飾りの位置を調節した。

「んー、ちょっとアレかなぁ。まあ、あの頃はもっと色黒だったし…」謎の男性はそう言うと「よし」と小さく呟き、パチンッと指を鳴らした。

 その瞬間、男性の姿が変わった。いや、正確に言うと姿形は変わっていない。変わったのは色だった。色素の薄い髪は夜の闇よりも黒く、透けるように白い肌は一瞬で日焼けしたかの様に浅黒く染まったのだ。男性は自分の姿を鏡で確認すると、ズボンのポケットからスマホを取り出して一枚だけ自撮りをし、満足そうに頷くと頭飾りをマリアへ返した。

 マリア他三人はポカンとした顔でその様子を眺めていた。

「…魔法?」少しして、ようやく狛島が一言だけ呟いた。実際はもっと色々と言いたかったのだが、突然の出来事に混乱する思考をなんとか纏めて、纏めて纏めて勢い余って纏め過ぎた結果の一言だった。

「ちょっと違うかな。ただ単に見た目を色々と変えられるだけ」そう言うと謎の男性は右手を顔の前でサッと振った。すると男性の顔がみるみるうちに変化していった。目は鋭く、鼻頭は伸び、口は大きく裂けて鋭い牙が覗いている。顔中が毛で覆われ、長い髪は豊かな鬣へと変化した。

「ほら、こんな感じ」謎の男性は、ライオンの顔で得意そうに目を細めて笑った。

 マリアは突然ライオン頭になった男性を見て、本当は「なんでライオン!?いやそもそも、どうやってライオンの頭になったのよ!?わたしだってさすがにそんな骨格レベルの変装は一瞬じゃ出来ないわよ!?あんた何者!?」と大声で言いたかったのだが、突然目の前で信じられないものを目撃したせいか上手く口が動かず、やっと口から出たのは「…あんた何者?」の一言だけだった。

「何者?んー…、何だろう。何だと思う?」ライオン頭の男性はもう一度右手を顔の前で振り、元の人間の顔に戻すと四人に問い掛けた。

 四人は困惑したような表情で、(カーターだけは話がよく分かっていないような表情で)顔を見合わせた。何者?ライオン?とそれぞれ疑問符を浮かべてヒソヒソと相談していたが、少しして神也が何かに気付いたのか、「あっ」と小さな声を出した。

 そして物凄く嫌そうな表情になった。

「神也?何か分かったのか?」狛島が神也に耳打ちした。

「わかりたくもなかった」神也は心底嫌そうに、一文字一文字ハッキリと口を開きながら言った。

「何?どうしたの?」マリアとカーターが不思議そうな顔で神也に聞いたが、神也は二人を無視して謎の男性の正面に立つと、

「ひみゃっ!?」

 その両頬を摘み、思いっ切り引っ張った。

「いふぁいいふぁいいふぁい!ふぁにふんほ!?(痛い痛い痛い!何すんの!?)」

「やかましい、俺らをこんな所に閉じ込めておいて『何すんの』じゃないだろ。とっとと元の場所へ帰せ」

「ふぁんほふぁなひ!?(何の話!?)」

「とぼけるなこの“ニャルラトホテプ”」神也は男性の頬を一層強く引っ張った。

「ふぇっ!?」男性は強く引っ張られた事よりも、どちらかというと神也の言葉に驚いた様子で、自身の頬を摘む神也の手をはたき落とすと一歩後ろに飛び退いた。

「よく分かったね!?」そして両頬を擦りながら驚きと感心が混ざった声で言った。

 しかし、その声は別の声にかき消された。

 その声は、5人の頭上から降ってきた。


「ニャルラトホテプ!?」

謎の男性の詳しい正体は次話にて。

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