木霊の川流れー終ー
『木霊の川流れ』後日談です。
どこかの川岸に、それは流れ着いていた。
それはごく平凡なよくある流木だった。いつの間にか種が付いていたのか、何かの植物の芽が出ている。小さな芽は陽の光を浴びながら、河原を吹き抜けるそよ風に気持ちよさそうに揺れていた。
ふと、上空を黒い影が横切った。
それは鳥だった。黒くて大きな、しかし烏ではない鳥だ。もしこの場に鳥類学の研究者がいたら新種だの何だのと大騒ぎしていたかもしれない。だがここには人ひとりいないため大騒ぎされる事はなかった。
黒い鳥は流木の傍に降り立った。よく見ると何かを背負っている。
黒い鳥が嘴を開いた。
「やぁっと見つけましたよまったく。彼女も邪神使いが荒いですよねぇ。いや、この場合は鳥使い?まあどっちでもいいですけど」
黒い鳥はとても流暢に、人間の言葉で話した。
「あなたにお届け物ですよ、木霊。ああ、今はもう木霊ではないんでしたっけ?まあ、とにかくお届け物です」
黒い鳥はそう言うと、背負っていた物を嘴を使って器用に外した。それは飛ぶ時に翼の邪魔にならないような形をしている、小さなリュックサックのような鞄だった。黒い鳥は蓋をつついて開けると、中から質量保存の法則を完全に無視したサイズのタブレットを取り出し起動した。
「物というか映像なんですけどね。とりあえずこちらご覧ください」黒い鳥はタブレットを小さな芽から画面が見えるような角度になるように自分の体に立て掛け、嘴で画面をスワイプしてムービーアプリを起動し、映像を再生した。
それはどこかの小学校の体育の授業風景を撮影したものだった。少し離れた場所から撮影したものらしく、屋根か何かの上にいるのか視点がやや高い。少しすると、撮影者がズームしたのだろうか、一人の少年にカメラが寄った。
年齢は10代前半。茶色く柔らかめな髪に黒縁眼鏡の、一見すると少女のようにも見える少年だ。
少年は地面に描かれた白い円の中に立つと、右手に持ったボールを前方へ思いっきり投げた。その瞬間、映像は少年とボールが同時に映るようにズームアウトした。
ボールは真っ直ぐに飛び、少年からかなり離れた場所に落ちた。すかさず近くの生徒が記録を測りに行く。
黒い鳥は音量を少し上げた。
「22m!!」
小さいがはっきりと、少年の投げたボールの飛距離を伝える声が聞こえた。
そして画面の端には、嬉しそうにガッツポーズをする少年が映っていた。その少年の様子を撮ろうとしたのか、少しだけ少年にカメラが寄ったところで、
「あ!ネコちゃんだ!」
近くで少女のものと思われる大きな声がした。
「やべっ」
更に近くで恐らく撮影者のものと思われる、どこかで聞いた事のあるような小さな声がした。
そしてカメラが大きくブレたところで、映像は終わった。
「いかがでしたか?」黒い鳥がタブレットを仕舞いながら言った。
「あなたのよく知る人から、この映像を見せるようにと言われて来たんですけど、その様子だと見ても分からないですよね。絶対意味無いですよこれ。まったく、変なところで真面目というかなんというか…」黒い鳥が鞄を背負いながら言った。最後の方はほとんど独り言の愚痴のようになっている。
「とにかく、僕はちゃんと映像を見せましたからね。それでは」
黒い鳥はそう言うとバサバサと大きく羽ばたき、空へと舞い上がった。そのまま上空をしばらく円を描くように飛ぶと、川上の方へと飛んで行った。
黒い鳥が去ると、河原には流木に生えた小さな芽だけが残された。
風が止んだにも関わらず、その芽はゆらゆらと揺れていた。
まるで何かを喜んでいるかのように、ゆらゆらと揺れていた。
と、いうわけで!ストレジ第1話『木霊の川流れ』完結です!
誰だこの話を1話に持ってきた奴は!私だ!
いい話風にしようとしたけど無理でしたよこれ。綺麗に終わる話は肌に合わない。
ちなみに次話は徹頭徹尾オールギャグの予定です。
やったー!阿呆な話が書けるぞー!!
それでは次回もお楽しみに!