第4話 転生者マサフミ(1)
「もう半里ほど先に人家の煙が見える。おそらく村があるだろう」
上空を偵察していたサンタマリアが殲滅者の傍に降り立ちながら言った。
アキヒロを殺して2、3日が経過した。ミレニアやモルティナからの追跡を警戒し、山道を外れ道なき道を掻き分けながら歩いていたが、ようやく人里まで辿り着けるようだ。
殲滅者は自分のお腹をさする。炎のドラゴンにより製出されたこの肉体には、空腹や渇きは無縁らしく、ここ2、3日飲まず食わずでも体力の低下を感じることはなかった。
しかし、生前の記憶か、人間としての生理衝動なのか、何も食べない飲まないことに魂が飢えを訴えているような気がする。なにか口にしたい、その衝動だけが募る。
「その村に、異世界転生者がいるんだな?」
「おそらくはな。気配もその方角だ」
殲滅者は全身の毛が総毛立つのを感じる。前回の戦い、アキヒロとの死闘が脳裏を過る。
自動的に防御と迎撃を行う右腕、過大な威力を誇る魔術を事も無げに打ち続けることができる異能の力。それらを駆使する敵に勝つために弄した策は、言うなれば騙し討ちだ。相手の油断に付けこみ、一瞬のスキをつく。
自らの肉体の崩壊を撒き餌にしなければ隙など作れず、まさに死に物狂いでようやく倒せた相手だった。
あの敵と同等か、もしくはそれ以上の敵がこの先にいる。そう考えると憂鬱で仕方がない。
殲滅者の心の中にしこりを残しているのは異世界転生者の事だけではなかった。
結局、何も弁明できずに失踪する形でモルティナと別れてしまったことを殲滅者は気にかけていた。
宿屋の廊下での出来事、温和な彼女が見せたあの怒りと悲しみの顔が、殲滅者の心に棘となってひっかかりを作る。
「ん? なんだあれは?」
前方に不可思議なものを発見する。
なにやら珍妙な模様が描かれている鉄の板が、等間隔を空けて周囲の地面に突き立てられていた。
「ほぉ、これは…」
サンタマリアは唸ると、ささっと空へと舞い上がる。
「おい、なんだよこれ。どこへ行く?」
「百聞は一見にしかず。記憶がないのなら色々と経験しておくのもいい事だぞ」
鷹揚に言って、サンタマリアは村の方向へ飛んで行ってしまった。
殲滅者は小さくなっていくクソ鳥の影を睨む。そして、その視線をまた鉄の板に戻した。
等間隔で並べられた鉄の板、そこに描かれる意味不明な紋様。疑いようもなく人工物であり、なにかしらの意図をもって置かれていることは想像できる。
警戒しつつ、鉄の板に近づく殲滅者。
鉄の板と板、その間を通り過ぎようとした時、それらは反応した。
突如、横を通り過ぎようとした鉄の板がこちらを振り向き、炎で創られた玉を吐き出した。
殲滅者は咄嗟に反応し、前に飛ぶことで回避する。さきほどまで殲滅者のいた地面は、火球の直撃により見事に焦げ付いていた。
「どうだ。これが魔方陣による魔術の行使だ」
いつのまにやらサンタマリアが近くの木で羽休めしている。
鉄の板を見やる。あの不可思議な模様、あれが魔方陣なのか。
「魔方陣ってのは人もいないのに勝手に起動するのか?」
「そのように描出することもできる。あらかじめマナを貯めておき、発動条件を魔方陣に描画しておけばこのような芸当もできる。
おそらく近隣に生息するモンスターを村に侵入させないための罠なのだろう」
「けどよ、うっかり人間が近寄ったらどうするんだ? 危ねぇじゃねーか」
その疑問に、サンタマリアは低く笑う。
「その魔方陣は人間を識別するよう描画されておる。人の姿に似せていても、人の体ではない貴様だからこそ反応したのだろうな」
それを分かっていたからこそ俺から離れたわけか、殲滅者の鬱憤はたまるばかりだ。
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「なんだこりゃあ」
ようやく村に着いた殲滅者は、眼前に広がる惨状に言葉を失う。
農作を生業にしていた村なのだろう。小規模の集落ではあったが、いまや田畑は荒れ果て、家屋にも傷みが見れる。無論、人の気配などない。
「廃村か? もしかしてモンスターの襲撃にあったとか?」
「いや」
己が推察を反芻するように、サンタマリアは一拍間を置いた。
「襲撃されたにしては家屋の損傷は大したことはない、畑の荒れようも併せて察するに、手入れがされず放置されたせいだろう。理由は不明だが、住民たちが村を捨てた後のようだ」
「一体何があった?」
ふと、糸を紡ぐように煙を垂らしている民家が村の奥に見えた。
まだ残っている人間がいるようだ。殲滅者たちはその民家を目指す。
近づいてみるとその家も随分痛んでいる様子だったが、人が住んでいる気配のようなものはあった。生活感というか、血が流れ脈打つ体のように、その家はたしかに生気を持っていた。
家屋に隣接する形で耕された畑も、何も育ってはいないが人の手が加えられている様子だ。
ふと、家の周りに気になるものを見つけた。なにかを祀るように木の棒が2本、寄り添うように家屋の前に並べられていた。
ふいに、扉が開く。中からは年端も行かぬ少女が出てきた。
「ふぁ、ひ、人です!?」
少女はこちらを見やり心底驚いたようだ。アーモンドのように大きな瞳をこれでもかと広げ、殲滅者とサンタマリアをその瞳孔に写し込む。
「お、お兄さん、お姉さん、どなたですか!?」
「待った、怪しいものじゃないんだ。この村はどうして人がいな……ん、おねえさん?」
少女の言葉の中に腑に落ちない点を見つけ、殲滅者は訝しむ。お姉さんに該当する人物に心当たりがない。
何かに釣られるように殲滅者は自らの背後を見やる。そこには、たしかに『お姉さん』に相当する人間がいた。
小柄な踊り子風の少女がそこに立っていた。華奢で優雅さすら醸し出す体の曲線美と、小顔の輪郭をなぞる様に伸びた長髪が見目麗しい、可憐な少女だった。
「誰だお前?」
思わず殲滅者の口から言葉が飛び出た。
「釣れないことをいうな我が眷属よ。貴様の主であるサンタマリアではないか」
マリア様、と呼ぶがいいぞ。とその少女の形をした何かは付け加える。
悪い夢でも見ている気分だった。
初めはドラゴンと猛禽類を足して割ったような化け物の姿、そしてその次は鷹のような外見を経て、今度は人間の、あろうことか少女の姿をするとは。
形状の乱脈さが神秘の象徴なのかと哲学したくなる。次は触手がいっぱい生えたゲテモノにでもなるのだろうか。
「なんでそんな姿になってる?」
「鷹の姿では人がいるとき貴様と気軽に会話ができぬだろう。物事を円滑に進行できるようにしたのだ」
納得できるようなそうでないような、殲滅者は反応に窮する。
「さて、話を戻そう童よ。他の村人はどうした? 貴様だけなぜここに残っている?」
少女はいまだ戸惑っているようだ。突如現れた怪しい二人組に事情を話すべきかどうか逡巡している様子でもあった。
「し、知らない人とは気軽に話しちゃいけないってママ言ってた、です」
ややあって少女が口を開く。
母の訓示を守ろうとする姿勢に健気さを覚える、と殲滅者は感心した。が、その健気さがこちらにとっては厄介である。
どのようにして事情を聞き出すべきか、殲滅者は事を温和に進める方策に悩んだ。
しかし、人間の機微など些末だと考えるドラゴンは横柄だった。その頑なな少女の態度が気に入らないのか、マリアは烈火のごとく怒り出す。
「ええい、貴様の親のことなどどうでもいい。我の問いにはすぐに答えよ、さもなくば…む、邪魔をするな殲滅者」
怯え始めた少女から厄介者を遠ざけるように、殲滅者が二人の間に割り込む。
殲滅者は少女と同じ目線になるよう腰を屈め、できるだけ温和に言った。
「俺の名前はせん…ハンスだ。君の名前は?」
「…エイザ、です」
震える唇から絞り出すように自らの名前を吐き出す少女。できるだけ少女を安心させようと、殲滅者は懸命に口の端を綻ばせる。
「そうか。これで俺とエイザは名前を知り合った仲であり、知らない人ではないよな。
だから話してくれないかな。この村の人たちがどこへ行ったのか、なんでエイザ一人だけここに残っているのか」
エイザの表情から緊張が抜けていくのがわかった。どうやら、事情を話してくれそうである。
背後で仏頂面を下げているサンタマリアに視線を投げる。
「炎の神秘を制御するより、小さな子供から話を聞く方が奇跡の所業なのかね」
「貴様はそのような柔軟な態度を我には見せぬな」
可愛らしい少女の膨れっ面には愛嬌があるが、その中身が傲岸な化け物であることを知っている殲滅者はいささかもときめくことはない。
「人間とコミュニケーションを取りたきゃ、まずその態度を改めな」
マリアがそっぽを向く。殲滅者はその強硬な態度に辟易したが、それをわざわざ取り沙汰す気も起きなかった。
視線をエイザに戻し、彼女の話を聞くことを優先する。
エイザはぽつぽつと喋り始めた。
「昔は、ここにもいっぱい人は住んでた、です。畑を耕したり、川で魚を取ったりして生活してた、です。
でも、ある時作物が全く育たなくなった、です。どれだけ畑を耕しても、水をやっても、植えた種が育たず、芽が一切出てこなかった、です」
「どうして?」
「よくわからない、です。大人の人たちは、『かみのひごがなくなった』と言ってた、です」
「土が死んでおるな。ここら一帯の大地にはマナが巡っておらず、こんな土地をいくら耕しても芽など出ん」
急に口を挟んでくるマリア。彼女が会話に乱入したおかげでエイザがまた硬直してしまう。
「異世界転生者のせいか?」
「前に説明したろう。属性のバランスが崩れれば、作物の不作が起きる可能性もあると。
奴らを野放しにすれば、世界各地がこの土地と同じように死んだ土壌となる」
「それで、村の人たちはこの土地を捨てたのか?」
エイザが首肯する。
「それで、数年前にここから少し離れた土地に新しく村を作った、です。アタシもアタシの家族と一緒にその村に移り住んだ、です。けど…」
そう言うと、途端にエイザの表情が曇る。思い出したくないことを思い出してしまったのか、彼女のつぶらな瞳が湿り気を帯びていた。
「その土地は作物が育つ土地だったけど、モンスターも多く生息していた、です」
ふと、彼女の家の前に建てられている二つの木のモニュメントが思い起こされる。まるで墓のように建っているあれは。
「そうか、その土地で君のお父さんとお母さんはモンスターに殺されたのか。それでこっちに君だけ逃げかえってきたってわけだ」
殲滅者はエイザに同情していた。悲しい過去を持つ彼女の頭をせめて撫でてやろう、とその頭に手を伸ばす。しかし、彼女は頭を振った。殲滅者の言葉を肯定ではなく、否定する回答をした。
「モンスターに殺された、です。けど、そうじゃない、です!」
エイザの口調に憎しみが込められているのを察した。それは、行きずりのモンスターに親を殺されたものが持つ憎しみというより、はっきりと対象を認識している、指向性を持った憎しみに感じた。
「モンスターはいっぱいいたけど、ほとんどはモンスター除けの魔方陣罠で撃退できた、です。でもあいつが、あいつが来たばっかりに」
エイザが憎しみを込めて呼ぶあいつ。その正体に殲滅者もサンタマリアも心当たりがあった。
「あいつって?」促すように殲滅者はその名前を尋ねる。
「マサフミって名乗ってた、です。あいつがいると、村の大人の人たちみんなおかしくなる、です。
みんなおかしくなって、そして皆あいつの言うことなんでも聞くようになる、です。
あいつが、モンスター除けの罠より自分の考えた罠の方がいいって言って魔方陣の罠をどけさせて、それでそのせいでモンスターが村に入り込んで、いっぱい、いっぱいの人が犠牲になって、パパもママも…」
最後の方は涙声にかき消され、うまく聞き取れないほどだった。
殲滅者はエイザを抱きしめる。彼女の嗚咽と無念さをその胸に貯め込むように。
エイザも、堰を切ったように感情を解き放つ。小さな体から爆ぜた慟哭は、まるで瀑布のように流されていった。
「異世界転生者で間違いないだろうな」
マリアが明後日の方向を見やりながら言う。おそらく、その視線の先にエイザの仇がいるのだろう。
「それで、エイザはこの村に戻ってきたんだな。でも大丈夫なのか? こっちにだってモンスターは出没するだろうし、何より食べるための作物が育たないんじゃ…」
「あの村に残っていたら、いつかモンスターに殺される、です。こっちの村の魔方陣罠は今でも使える状態だったから、こっちにいる方が安全、です」
「エイザがあの罠を使えるようにしていたのか? どうやって?」
「罠の後ろ側に手のひらサイズの星の模様ある、です。そこに手をかざせばマナが補充できるから、あとは置いておくだけで自動的にモンスターを退治できる、です」
「じゃあ食べ物は?」
「森の中には木の実とか、川ならお魚が釣れる、です。村から離れるときはモンスター除けの罠を担いでいけば、とりあえず大丈夫、でした」
強いんだな、と殲滅者は感心した。まだ親の庇護を頼ってしかるべきこの年齢の子供が、親をなくしてもなお逞しく生きようとしている。
小さく儚げであるこの子に、不釣り合いな過酷な運命をを背負わせた元凶に、殲滅者は沸々と怒りが沸いてきた。
サンタマリア、もといドラゴンたちにとって、異世界転生者はこの世界を守るための敵である。
エイザにとって、異世界転生者は親の仇である。
では殲滅者にとっては? 彼にとっては、本来の肉体と記憶を得るためだけの、いわば障害でしかない。
世界の平定も、一個人の恨みも、彼には関係のないものだった。しかし。
殲滅者は、自らの目的と腕の中で震える少女の悲願が一致していることに今は嬉しく思っていた。
今度の敵に対しては喜んで左腕に埋め込まれた剣を突き立てよう、そう思うのである。
「エイザ」
いまだ嗚咽を漏らす少女に殲滅者は語り掛ける。
「ここで待ってろ。お前の仇、俺が必ず取ってくる」
それは決意でも鼓舞でもなく、使命であった。
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エイザに教えられた道を進んでいくと、見覚えのあるものを発見した。
意味不明な紋様の描かれた鉄の板、それがそこら中に無造作に転がっていた。
「モンスター除けの魔方陣罠だな。あの童の言う通り、もう使用されていないようだ、一切マナを感じぬ」
マリアが、いまだ少女の格好のまま横柄に言う。
「近づいても大丈夫なんだよな?」
機能しているようには見えなかったがさきほどの経験がある。殲滅者は警戒していた。
「安心しろ。マナを貯めていなければあんなものはただの置物だ」
マリアの言葉を証明するように、横を通り抜けても鉄板は一切反応しなかった。
エイザの言う通り、異世界転生者によってこの罠は放棄されたようだ。では、異世界転生者が提案したという罠はどこにあるのか。
急に、後ろを歩いていたマリアが歩を止めているのに気付いた。
その表情がなにかを警戒するように緊張している。
「どうした?」
周囲を確認しながら殲滅者は尋ねる。異世界転生者の仕掛けた罠に気付いたのだろうか。
「今貴様がいる辺りから、村の大部分を含む範囲に何かしらの魔術の影響を感じる。これだけ広範囲かつ常時発動しているというのは驚異的だ」
「おいおい、俺にも魔術の影響があるのかよ? けど、全然変わったところはねぇぞ」
「異世界転生者との距離が離れているせいだろう、今は自覚するほど効果がないのだ」
「で、これは一体どういう魔術なんだ?」
殲滅者が自らの体を擦る。まるで目に見えない穢れを払おうとしているようだが、その行為にどれほどの意味があるのか。
「身体機能を阻害する闇属性の魔術のようだ。
先日、モルティナと呼ばれる魔術師から補助魔術を受けただろう。あれは身体を強化する魔術だが、この魔術はその逆の作用を引き起こす」
言われて、モルティナと共にバンダースナッチと戦った時のことを思い出す。体に不思議な光が宿り、飛躍的に腕力が上昇していたあの時の事を。
そして同時に、あの時モルティナに感謝されたことも同時に記憶から掘り起こしてしまった。
彼女の素敵な笑顔の記憶が、じんわりと殲滅者の心を温める。
「じゃあ、今度は腕力が落ちるってことか?」
力こぶを作り、自らの筋力を測るようにした。しかし、筋力の衰えは実感しない。
「その類の魔術ではないな。しかし、実態がつかめん。もう少し対象に近づけば判明するやもしれぬ」
その時、前方を歩く殲滅者の足になにかが引っかかった感触がした。
なにか細いもの、糸のようなものを足で切断したようだった。そして、咄嗟に気付く。これが異世界転生者が仕掛けた罠のトリガーであることを。
そのトリガーに呼応するように木々の間から、大質量のなにかがこちらに向けて飛来してきた。
それは、大きな丸太だった。それには殲滅者が切った糸と同じものが結わえられ、足元の糸を切断することによって侵入者目掛けて飛んでくるよう仕掛けられた罠のようだ。
重い丸太が十分な速度をつけて飛んでくる。それを真正面から受ければどんな巨大なモンスターでも致命傷を受けるのは必至だ。
殲滅者は戦慄した。が、それは全くの杞憂だった。
ブオンッ!
加速度を付けた丸太は殲滅者に掠りもせず、大きく外れた方向へ飛んで行った。
悲しいかな、対象物に衝突しなかった丸太はそのまま別の木にぶつかり、罠は脆くも壊れた。
「なんだ、これは?」
殲滅者はあっけにとられた。
「糸を使った罠のようだ。糸が切断されれば留め具が外れ、丸太が対象物に当たるという仕組みのようだ」
マリアが淡々と解説する。
「しかし座標計算が甘いようだ。対象物と丸太の軌道を理解していないから、明後日の方向に丸太が飛んで行った。
なんとも前時代的な罠だな。彼奴らの世界では、未だに狩猟生活でもしておるのか?
こんな粗末な物を使うより、魔方陣の罠の方がはるかに便利だ」
「へ、こんな間抜けな罠考える程度のボンクラなら相手として楽だがな」
「異世界転生者の浅知恵など恐るるに足らぬが、魔術の方は警戒が必要であろう」
少し歩くと村があった。
さきほどの村と比べると、なんていうか生きてるって感じがした。
建物もピカピカだし、人もいっぱいいるのが分かるし、畑には野菜とか果物とかいっぱいできてて、すっごいいいところに見える。
「ここは世界の化身が異なる村か」
殲滅者が声に出して言う。しかし、殲滅者は自分が口にした言葉を殲滅者の異変に変わっていると感じた。
殲滅者の口から出た「ここは世界の化身が異なる村か」と言う言葉がなんというか間を抜けていることを痛感して感じていた。
炎のドラゴンの化身であるマリアがすごい面白いギャグを聞いたみたいにクスクス笑顔で笑っている。
「なるほどな、かような魔術の使い方もあろうとは。異世界転生者たちに好感は持たんが、こやつの発想力には感服する」
「どゆこと?」
「この異世界転生者の能力が理解できたと言っている。
貴様には分からぬか? ああ、失敬。理解できぬよう施されているのだな」
何がおかしいのか、しきりにクスクス笑いをする炎のドラゴンの化身であるマリア。
「んあ、よくわかんねぇ」
殲滅者は、自分の頭の中の脳みその考えがとっ散らかってて、殲滅者の頭が整理できずに考えがまとまらないもどかしいさがたまらなくもどかしかった。
いつもとなんか違う。頭痛が痛い感覚だった。
もういいや、って気持ちで殲滅者は考えるのをストップする。
まずは異世界転生者を発見して見るべきだ。そう思い、近くにいる村人に話を聞いている。
呼び止められた村人がこちらを振り返る。呼び止められた村人の表情の凄さに殲滅者は心臓がボーンっと体から飛び出すくらい驚愕するほど驚く。
「んあ? なんだべ?」
村人の顔は、顔の筋肉がゆるっゆるになったみたいに締りがなかった。垂れ下がった目、だらしなく開いた口、やべぇ感じっていう感想だ。
「えっとな、この村には前にエイザがいてだな、そのエイザからこの村の事聞いてやってきたんだけど。
エイザは親がモンスターに殺されたから昔の村に戻ってだな。だから、俺たちは昔の村で一人で生活してるエイザに会って話を聞いたんだ。
この村への行き方はエイザが教えてくれて。で、エイザはまだ一人で生活してて、俺たちはすっごい悲しいなぁって思ったんだど。
で、エイザにこの村に行きたいって言ったら、エイザがこの村に前に住んでたってこと聞いて、だからこの村の行き方を教えてくれたんだけど。
で、エイザの言う通りやってきたらエイザが前に住んでた村にたどり着いて…」
殲滅者の口の中の言葉は要領を得ない言葉ばかりだった。意味ない言葉ばかりが言う。
本当に聞きたいこととか、簡潔に相手に理解してもらおうと考えれば考えるほど単純に理解できない言葉がめちゃくちゃになる。
だらしない顔をした村人もなんかキョドってる感じだった。殲滅者の言いたいことがまるで理解を分からず、はぁ?だとかうん?だとか繰り返すばかりだった。
「マサフミと言うものがこの村にいるはずだ。どこに行けば会える?」
堪りかねて炎のドラゴンの化身であるマリアが代わりに村人に質問した。
だらしない顔をした村人は、うーんとって少し考えた後、村の奥の方を指出した。
「マサフミ様はおら達の村に来て、おら達をモンスターから救ってくれたんだよね。
それで村長がすっごい感謝してね。それで村長がずっとこの村にいてくれって頼んで、マサフミ様は村長にじゃあ住むって言ったから。
それで、マサフミ様は村長の家に住んでる。
マサフミ様は元々旅してて、その旅で色々知識を身に着けたらしくて。で、その知識がすごくて、モンスターを倒せたんだ。
で、みんなすっげぇって驚いて、マサフミ様は旅のお方だから、この村でしばらくいてくれたらいいなぁって思ったらマサフミ様が…」
延々とだらだらと喋るだらしない顔をした村人の歯切れの悪い説明を途中から無視し、炎のドラゴンの化身であるマリアがらしない顔をした村人が指出す方向へさっさと歩を進め、歩く。
その背中にスリップストリームするみたいに殲滅者がついていく。
「俺、なんか変?」たまらず疑問を疑う言葉を言う。
「異世界転生者の魔術の影響だ」
「どゆこと?」
「この闇魔術は人の思考能力を低下させるものだ。今の貴様にも理解できるように端的に言えば、人をアホにする魔術だな。
エイザの言っていた大人がおかしくなるというのはこの事だったのだ。
その術中に嵌ると、あのような不出来な罠を作る阿呆を村の救世主と錯覚するのだろうな」
人をアホにする、という部分だけ分かることを理解した。あとはちんぷんかんぷんだった。
「なんでお前はヘーキなの?」
「人知を超えた超常的存在である我には、かような魔術も効き目が薄いのだろう」
何言ってるのが全然わかんないや。
考えるのがいやんなるから、殲滅者はコバンザメみたいに炎のドラゴンの化身であるマリアの後を追う。
少し歩くと、村長の家らしきものの前にたどり着く。
「で、どうすんの?」
せんめつしゃはまたも尋ねる。
何度も見せつけられる殲滅者のトロさはまるでコメディショーのオンパレード、炎のドラゴンの化身であるマリアはイライラしていた。
「いちいち我に尋ねるな。自分で考え…と、それができぬのだったな。
まずは敵を知るべきだろう。アキヒロと呼ばれた転生者の時と同じように直接会いに行く」
「どゆこと?」
せんめつしゃの問いを、炎のドラゴンの化身であるマリアはガン無視した。それはスルーするようだった。
マリアが村長の家のドアの上の方のベルを鳴らそうとしようとしたタイミングの時、向こう側から村長の家のドアが開いた。
そして、中から男が出てきた。
そして、そいつはせんめつしゃたちを見て、「誰?」と言った。
そして、そいつはアキヒロと同じくらいの年に見えた。他の人と違って、アホっぽい顔もしてなくすっごい頭よさそうな顔に見えた。
そして、こいつが異世界転生者なんだな、ってせんめつしゃは思った。
そして、せんめつしゃはなにか言おうと口を開いた。
そして、そのタイミングでなにかおっきな音がした。
そして、誰かがおおごえで言った。モンスターが来たぞ、って。