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第九回 一枚の写真

 僕の暮らす根源市は、朝から活気に満ちている。


 例えば、近所の商店街。

 シャッターばかりの商店街が増えているとも言われるこの時代でも、活発な経済活動が行われている。


 魚屋、八百屋、肉屋などの新鮮な食品を売る店。文房具屋や古本屋といった、昔ながらの雰囲気を味わうことのできる店。また、手芸の道具を売っている店や刃物を販売している店などもある。


 商店街へ行くと、近くに住む高齢者たちをよく見かける。

 その誰もが生き生きしていて、少なくとも僕よりかは元気そうだ。


 そんな商店街を通り抜け、僕は『悪の怪人お悩み相談室』の事務所へと向かう。週二回の仕事のために。



 事務所へ着く。

 入り口の鍵は開いていた。


「こんにちは!」


 意識して元気な声を作り、挨拶しながら中へ足を進める。


 その途中、ふと、異変に気がついた。

 返事がないのである。


 いつもなら由紀から明るい挨拶が返ってくるのだが、今日はそれがない。


 ただ、まだ来ていないということはないはずだ。入り口の鍵は開いていたのだから。外出中ということも考えられないことはないが、入り口に鍵もかけずに出ていくことはないだろうし。


「由紀さん?」


 彼女がいつも仕事をしている机の方へ歩み寄ってみる。


「いない……」


 仕事机の上には、書類らしき紙とファイルが置かれていた。つい先ほどまで用事をしていた、というような状態だ。


 一応机の下も確認してみる。

 が、そこにも彼女の姿はなかった。


 そんな時だ。


 ふと、机の端に飾られた写真に目がいった。


「……写真?」


 シンプルなデザインの木製の写真立て。その中に入っている一枚の写真に、僕は視線を奪われた。


 由紀と、怪人だと思われる人物の、ツーショット。


 最初は、客の怪人と撮った写真だろうと思った。だが、段々そうではないような気がしてくる。数多の客の中で彼との写真だけを飾るとは、とても思えないからだ。


 いくつか飾ってあるのなら、思い出としてという可能性もあるだろう。だが、一枚だけ。ということは恐らく、大切な一枚なのだろう。


 ——その時。


「岩山手くん?」


 背後から声。僕は咄嗟に振り返る。


 そこには、由紀の姿があった。


 茶色がかったショートヘアは今日もさらさら。爽やかな顔立ちとあいまって、凄まじい清潔感を周囲に振り撒いている。


「あ、その、これはっ……」


 突然の展開に対応しきれずあたふたしてしまう僕に、由紀は笑顔で述べる。


「いいよ、慌てなくて。あたしを探してくれてたんだよね?」

「は、はいっ……」

「探させてごめん。ちょっと、隣の相談室に行ってたんだ」


 良かった。怒られそうにはない。


「相談室に? どうしてですか?」

「掃除と花を生けるためだよ」

「お、お花?」

「そうそう。たまには、と思ってね」


 僕は男だが、それでも花は嫌いでない。

 色鮮やかな花は、心を晴れやかにしてくれるからだ。


 もしかしたら……女々しい、と言われてしまうかもしれないが。


「今日もよろしくね!」

「は、はいっ!」


 こうしてまた、新しい一日が始まる。

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