第八十二回 ヒーローショー(1)
由紀と並んで歩くことしばらく、目的地が見えてきた。
向こう側が見えないくらい広い公園に設営された特設ステージ。青空の下のステージだ。簡易的な舞台ではあるものの、僕が想像していたものよりかは遥かに立派なものである。
「おぉー! あんな立派な舞台があるのですね!」
歩きながら、僕は思わず発してしまった。
すると、隣にいる由紀がくすっと笑う。
「も、もしかして、何かまずいことを言いましたか!?」
「え? ううん。そんなことないよ。ただ、岩山手くんの反応が純粋だったから、少し笑っちゃっただけなの」
少し空けて、彼女は続ける。
「不快な思いさせちゃってたらごめん!」
謝られてしまった。
罪のない由紀に謝らせてしまい、申し訳ない気分になる。
「いえいえ! 気にしないで下さい! 僕はその……何とも思っていないので!」
そんなたわいない話を継続しつつ、僕と由紀は歩く。ひたすら歩く。目的地だけを目指して。
僕たち二人は、入り口で配られていた席の番号札を受け取り、指定の席へと向かう。そして、座る部分が青い簡易的な椅子に腰掛ける。由紀と隣同士で。
「あ、そうだ。おにぎり食べます?」
歩いている間はすっかり忘れてしまっていた。が、席についた途端、おにぎりを買っていたことを思い出した。
なぜ今思い出したのかは分からないが。
「そうだったね!」
由紀は白いビニール袋から、おにぎりを取り出す。
「はい! これね」
「ありがとうございます」
僕は鮭のおにぎり。
由紀は昆布のおにぎり。
「始まるまでに食べてしまった方がいいかな」
「ですね!」
「じゃ、いただきまーす」
「僕もいただきます」
そう言って手を合わせ、僕はおにぎりを口へ含む。
ふっくらした白米。パリッとした海苔。そして、塩辛い鮭の身。
それらが口腔内に広がり、絶妙な味わいを生み出す。
素晴らしい! 美味しい!
鮭のおにぎりにして良かった——心からそう思った。
「美味しい? 岩山手くん」
由紀は昆布のおにぎりを口に含みながら尋ねてくる。
「はい! とても!」
僕は素早くそう答えた。
おにぎりが本当に本当に美味しかったからである。
「そっか。良かったー」
「由紀さんはどうですか?」
「うん。美味しいよ」
意外とあっさりとした答え方をする由紀だった。
もしかしたら、特別美味しいということはなかったのかもしれない。
勝手な解釈をするのは問題だと分かってはいるものの、少しそんなことを考えてしまった。
「そろそろ始まるかな? ヒーローショー」
僕は携帯電話を取り出し時間を確認。
「まだ十分くらいありますね」
「そっかー。結構まだだね」
「ですね。何かお話でもしていましょうか」
「いいね!」
ヒーローショーが始まるまでの時間を潰すべく、僕と由紀は、どうでもいい話をすることに決めた。
「そういえばさ! 岩山手くんはヒーローショーとか行ったことあるの?」
「え、あーいや……小さい頃はあまり行っていませんでした」
「へぇ。そうなんだ」
「由紀さんは行かれたことあるんですか?」
交わす言葉に深い意味はない。
それらはただ、時間を潰すためだけのものだ。




