表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/105

第八回 A115(3)

 提案を連続で却下されるというのは、なかなかのダメージだ。段々、次の案を考えるのが嫌になってきてしまう。どうせ却下されるのだろう、などと考えてしまって。


 だが、こんなところで挫けているようでは何もできない。


 A115は真剣に悩んでいるのだ。そして、勇気を出して相談しに来てくれた。そんな彼の心を壊すようなことはしたくない。


「えぇと……ではもういっそ、嘘でやり過ごすというのはどうですか?」

「ウソ……デスカ」


 彼は嘘なんてつけないタイプだろう。そう思ったから、敢えて直球の断り方を考えてきた。だが、それは無理だと彼は言う。ならばもう、嘘しかないだろう。


 相手を傷つけないための嘘。

 それなら、心優しいA115にでもつけるはず。


「ウソハツクナト、リョウシンニナライマシタ」

「嘘は嘘でも、相手を傷つけないための嘘ですよ?」

「ウソハツクナト……」


 同じことばかりを繰り返すA115に少しばかり苛立って、つい調子を強めてしまう。


「押し付けられるのが嫌なんじゃないんですか!?」


 こんな責めるようなことを言うなんて、問題。


 それは分かっていて。


 でも、どうしても止められなかった。


「嫌なら何か言わないと! いつまでも変わりませんよ!」


 動かなければ、良くて現状維持。それ以上はあり得ない。


「デ、デスガ……」

「変えたいんじゃないんですか!」


 暫し、沈黙。


 僕は内心「言い過ぎた」と焦る。らしくなく、一人熱くなってしまったことを後悔した。


『きちんと聞いてあげる。それが一番だからっ』


 由紀はそう助言してくれていたというのに、僕は。僕は……きちんと聞いていなかったのではないだろうか。


 提案ばかりに夢中になって、A115の心に寄り添うことを忘れていた。


 そんな風に落ち込んでいた時。


「ア、アノ……ドウカナサイマシタカ……?」


 A115が声をかけてきてくれた。

 それによって、僕は正気を取り戻す。


「は、はははい!」

「ダイジョウブデスカ……?」

「はい! もちろん、もちろんです!」


 慌てているがために、明らかに不審な言い方になってしまう。

 だが、A115がそれ以上突っ込んでくることはなかった。ただ、小さく「ソレナラヨカッタデス」と言っていた。


 頭部は電子レンジ。

 しかし、とても善良だ。


「……さっきはすみません。言い方がきつくなってしまって」


 僕は謝る。

 するとA115は、首を左右に動かした。


「イエ、ウレシカッタデス」

「……え」

「イロイロカンガエテイタダケ、アツクナッテイタダケタ。ソレハトテモウレシイコトデス」


 A115には人間のような顔はない。だから表情なんて読み取れないはずだ。なのに、今の彼の顔は、笑っているように見えた。


「ソウデスヨネ! ユウキヲダサナイト、ナニモカワリマセンヨネ。グットキマシタ!」

「あ……はぁ」


 A115は急に立ち上がる。


 その瞳は——実際にあるわけではないが、キラキラと輝いているように感じられた。


「ガンバッテミマス! アリガトウゴザイマシタ!」


 それまでは弱々しかったA115が、妙に前向きになっている。


 一体、何がどうなったのだろう……。


「カンガエテクダサッテ、アリガトウゴザイマシタ! スコシズツデモ、チョウセンシテミマス!」

「は、はぁ」

「ゴジツ、マタ、ヨウスヲレンラクサセテイタダキマスネ」


 こうして、A115の対応は終了した。


 僕は——少しは役に立てたのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 ポイント・ブクマなど、いただければ嬉しく思います。
― 新着の感想 ―
[良い点]  誰かに真剣に考えてもらえている。  それだけで力をもらえますよね。  岩山手くんの気持ち、A115に届いてよかったです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ