第八回 A115(3)
提案を連続で却下されるというのは、なかなかのダメージだ。段々、次の案を考えるのが嫌になってきてしまう。どうせ却下されるのだろう、などと考えてしまって。
だが、こんなところで挫けているようでは何もできない。
A115は真剣に悩んでいるのだ。そして、勇気を出して相談しに来てくれた。そんな彼の心を壊すようなことはしたくない。
「えぇと……ではもういっそ、嘘でやり過ごすというのはどうですか?」
「ウソ……デスカ」
彼は嘘なんてつけないタイプだろう。そう思ったから、敢えて直球の断り方を考えてきた。だが、それは無理だと彼は言う。ならばもう、嘘しかないだろう。
相手を傷つけないための嘘。
それなら、心優しいA115にでもつけるはず。
「ウソハツクナト、リョウシンニナライマシタ」
「嘘は嘘でも、相手を傷つけないための嘘ですよ?」
「ウソハツクナト……」
同じことばかりを繰り返すA115に少しばかり苛立って、つい調子を強めてしまう。
「押し付けられるのが嫌なんじゃないんですか!?」
こんな責めるようなことを言うなんて、問題。
それは分かっていて。
でも、どうしても止められなかった。
「嫌なら何か言わないと! いつまでも変わりませんよ!」
動かなければ、良くて現状維持。それ以上はあり得ない。
「デ、デスガ……」
「変えたいんじゃないんですか!」
暫し、沈黙。
僕は内心「言い過ぎた」と焦る。らしくなく、一人熱くなってしまったことを後悔した。
『きちんと聞いてあげる。それが一番だからっ』
由紀はそう助言してくれていたというのに、僕は。僕は……きちんと聞いていなかったのではないだろうか。
提案ばかりに夢中になって、A115の心に寄り添うことを忘れていた。
そんな風に落ち込んでいた時。
「ア、アノ……ドウカナサイマシタカ……?」
A115が声をかけてきてくれた。
それによって、僕は正気を取り戻す。
「は、はははい!」
「ダイジョウブデスカ……?」
「はい! もちろん、もちろんです!」
慌てているがために、明らかに不審な言い方になってしまう。
だが、A115がそれ以上突っ込んでくることはなかった。ただ、小さく「ソレナラヨカッタデス」と言っていた。
頭部は電子レンジ。
しかし、とても善良だ。
「……さっきはすみません。言い方がきつくなってしまって」
僕は謝る。
するとA115は、首を左右に動かした。
「イエ、ウレシカッタデス」
「……え」
「イロイロカンガエテイタダケ、アツクナッテイタダケタ。ソレハトテモウレシイコトデス」
A115には人間のような顔はない。だから表情なんて読み取れないはずだ。なのに、今の彼の顔は、笑っているように見えた。
「ソウデスヨネ! ユウキヲダサナイト、ナニモカワリマセンヨネ。グットキマシタ!」
「あ……はぁ」
A115は急に立ち上がる。
その瞳は——実際にあるわけではないが、キラキラと輝いているように感じられた。
「ガンバッテミマス! アリガトウゴザイマシタ!」
それまでは弱々しかったA115が、妙に前向きになっている。
一体、何がどうなったのだろう……。
「カンガエテクダサッテ、アリガトウゴザイマシタ! スコシズツデモ、チョウセンシテミマス!」
「は、はぁ」
「ゴジツ、マタ、ヨウスヲレンラクサセテイタダキマスネ」
こうして、A115の対応は終了した。
僕は——少しは役に立てたのだろうか。