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第六回 A115(1)

 研修中という名札をつけてはいるものの、今回からは一人。きちんと対応できるか、不安でいっぱいだ。一応「困ったことがあったら呼んでいいから」と由紀から言われてはいるのだが、彼女にあまり迷惑をかけるわけにもいかないため、極力自分の力だけで終わらせたいところである。



 指定の個室へ行き、一人で待っていると、やがてドアが開いた。


 現れたのは、黒いスーツを着こなしつつも頭部が異形である存在。


「コンニチハ。キョウハヨロシクオネガイシマウス」


 最後が若干冗談気味なところは親しみが持てる。


 しかし、その外見は極めて奇妙。


 体だけを見れば、黒のスーツを着た成人男性という感じでしかない。だが、頭部が視界に入った瞬間、普通の成人男性ではないのだと実感する。というのも、頭部が電子レンジなのだ。


「あ、はいっ。よろしくお願いします!」

「A115トモウシマス。サクジツヨヤクサセテイタダキマシタ」


 彼は案外礼儀正しかった。発音が少々独特であるというところを除けば、人格的には、きちんとした一般人と大差ない。


「はいっ。お聞きしております!」

「ソウダン二ノッテイタダキタクテ、キョウハキマシタ」

「どうぞ、お座りになって下さい」

「ハイ。アリガトウゴザイマス」


 電子レンジにそっくりな頭部を持つA115。

 その外見は奇妙だが、なかなか良さそうな人ではある。



 こうして、僕の初仕事が幕を開けた。



「ジツハ、ショクバデノコトデナヤミガアッテ」


 A115は、電子レンジのような頭部を少し俯けるようにしながら、言いにくそうに口を開く。

 僕は「はい」とだけ返し、次の言葉が出てくるのを待った。


 数秒の沈黙の後、A115は再び口を開く。


「イツモナカマカラシゴトヲオシツケラレテシマッテ、コマッテイルンデス」

「なるほど」

「ナカマカライロイロナシゴトヲオシツケラレテ、ソノセイデ、イツモヨルオソクマデカエルコトガデキマセン」


 恐らく、A115は善い人なのだろう。だからこそ、周囲も彼には頼みやすく、色々と任せてしまう。

 そんなところだろうと、僕は考えた。


 その時、ふと、昔のことを思い出した。


 あれは高校生だった頃。僕のクラスに、静かだが真面目で、勉強もきちんとしている男子生徒がいた。彼は真面目で、何事にもきっちりと取り組む性格をしていて。それゆえ、クラスメイトや担任からの信頼も厚かった。


 しかし、信頼されているがゆえに、彼はよく面倒事を押し付けられていて。


 行事前の準備。ノート返却などの手伝い。

 とにかく様々な場面で、任されていた。


 無論、それ自体は悪いことではない。クラスメイトや担任から信頼されているというのは素晴らしいことだし、頼られているというのも、彼の人柄の良さが評価されているということなのだから。


 ただ、そんな彼を見ていて気の毒に思ったことがあった。


 それは、テスト前に、それまでさぼっている生徒たちから「ノートを写させてくれ」と頼まれていた時のことだ。


 さぼっていた生徒たちは、テストの前であるにもかかわらず、写すからと借りたノートを彼に返さなかった。そのせいで、貸した彼が先生から「ノートを忘れるなんて」と怒られたのだ。


 あの時は、さすがに彼に同情してしまった。


 ……と、まぁ、そんな昔のことを思い出していたが、今重要なのはそこではない。


「困りますよね、そういうのは」

「ハイ。コマッテイマス」

「限界が来る前に断るようにした方が良いですよ」

「コトワリタイノデス。シカシ、タノマレテシマウト、ドウシテモコトワレナクテ」


 今重要なのは、昔のクラスメイトの彼のことではなくて、目の前のA115の悩みを少しでも解決することだ。

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