第五十一回 ガンセッキ(3)
その後、僕は、ヒーローショーについて詳しく説明した。
現時点で予定されている開催日程や時間。また、ショーの大まかな内容。そして、支払われる賃金の目安。
ガンセッキは意外にもきちんと聞いてくれたので、話は順調に進んだ。
「……以上になります」
説明は十五分ほどで終了。
僕にしては上出来な方だろう。
「なるほどな」
「協力して……いただけませんか?」
恐る恐るガンセッキへ視線を向ける。
彼はソファにどっしり座っているけれど、不快感を露わにしているということはなかった。
「少し質問をさせてくれ、岩山手さん」
「は、はい!」
質問をしたい、と言ってくるということは、少しは興味があるということ。つまり、これは良い兆候ではないだろうか。
「練習日なんかはあるのか? 本番だけ、ということはないだろう?」
「あ、はい。えっと……」
僕は持っていた書類の中から、ヒーローショーについて書かれている一枚の紙を取り出した。それを見て、確認する。
「練習日が一日と、リハーサルが一日、あるみたいです」
「うおーい! それを先に言っといてくれよ!」
「すっ、すみませんっ……!」
何回も頭を下げる。
すると、ガンセッキは「落ち着け落ち着け」と言ってきた。
「え」
「べつに謝れなんざ言ってないからよ。そんなぺこぺこしなくていい」
「あ、はい……」
どうやらガンセッキは、怒ってはいないようだ。
取り敢えず良かった。
「で、ヒーローショーだが。協力してもいい」
「えっ……」
やった! キター!
それが僕の心の声。本心。
サンバを踊り出したいくらいの喜びである。
けれど、それを外へ出しはしなかった。そんなことをしたら、それによって「やはり協力しない」と言われてしまいそうな気がするからである。
「ほ、本当ですか」
「もちろん。俺は嘘はつかない」
ガンセッキは腕組みをしながら、僕の方へ顔を向ける。
「どうなんだ? 協力してほしいのか、ほしくないのか、どっちだ?」
「そっ、それはもちろん、協力していただきたいです!」
僕ははっきりと返した。
せっかく協力してもらえそうなのに、その流れを台無しにするわけにはいかないから。
すると、ガンセッキは立ち上がる。
「よし。決まりだな」
「ありがとうございます!」
胸の前で両の手のひらを合わせ、数回頭を下げる。
心からの感謝をこめて。
「ところでそのヒーローショーとやら、怪人は一人でいいのか?」
「え、あ……実は、三人必要で」
「そうか、分かった。なら、うちから三人行かせる」
ガンセッキが発した言葉が信じられなくて、僕は思わず「えぇっ!?」と大きく叫んでしまった。
彼は天使だろうか。
「一つの組織からだと駄目なのか? なら二人にしてもいいぞ」
「い、いえ! ぜひ三人でお願いしますっ!」
「そうか。よし、分かった」
なんて優しい人なんだ……。
彼は、これまで僕が出会ってきた誰よりも優しい。
そんな風に思ってしまったくらい、ガンセッキは親切だった。
「本当に、本当に……ご協力ありがとうございます」
「いや。俺は礼を言われるようなことはしていない」
少し空けて、ガンセッキは続ける。
「……由紀さんには、昔、同僚が世話になったんでな」
彼はまた、遠い過去を見つめるような目をしていた。
それはともかく、これで、三人に協力してもらうことができそうだ。
つまり、今回のこの仕事は終わり。
まさか本当に、一ヶ所目だけで終わるとは、夢にも思っていなかった。
だがこれは現実。
まぎれもない、現実なのである。