第四十九回 ガンセッキ(1)
ヒーローショーへ出演してくれる怪人を探す。
それが僕の、今回の仕事。
コミュニケーション能力が若干不足している僕にそんな仕事が務まるとは思えないが、それでも、引き受けた以上はやるしかない。そう考え、翌日から僕は動き出した。
一番最初に尋ねたのは、僕の最寄り駅である根源駅から西へ一駅分乗るだけで着く、比較的近いところにある基地。資料に書かれていた情報によれば、悪の組織・ボクラワルイーゼの根源支部らしい。もっとも、悪の組織の名前が分かったところであまり意味はないのだが。
そこへ到着した時、僕は驚いた。
立派なビルだったからである。
昨夜電話して「明日伺う」と伝えてあるから、追い出されはしないだろうが、それでも、入る前は少々緊張してしまう。
僕は一度深呼吸をして、一階へと進んでいった。
自動ドアの入り口を通過し、ビルの一階へ入る。街の隅にあるビルだけにあまり広くはないが、きちんと受付があって、女性の姿をしたロボットが立っていた。
「すみません」
「ハイ」
「昨夜お電話させていただいた、『悪の怪人お悩み相談室』の岩山手です」
「ハイ。シバラクオマチクダサイ」
受付の女性型ロボットは、手元のタブレットを数秒操作した後、「イワヤマテサンデスネ。オマチシテオリマシタ」と柔らかさのない声で言った。
絶対お待ちしていなかっただろう……。
内心そう思ってしまったが、ロボット相手に突っ込みを入れるのもどうかと思うので、特に何も言わないでおいた。
「ソレデハ、ミギノエレベーターニノッテ、サンガイマデオアガリクダサイ」
「はい。ありがとうございます」
受付の女性型ロボットが発した言葉に従い、僕はエレベーターで三階まで上がる。
狭いエレベーターには僕一人。
怪人と遭遇しなくて、嬉しいような嬉しくないような。
三階に着くと、紺色のスーツを身にまとった、がっしりした体つきの怪人が僕を迎えてくれた。
身長は僕より遥かに高く、体の大きさも僕より遥かに大きい。怪人なのだから当然といえば当然なのかもしれないが、近くで目にした時の迫力といったら、言葉では形容できないくらいのものだ。
「岩山手さんだな」
「はい」
「俺はガンセッキ。よろしくな」
紺のスーツをきちんと着こなしているがっしりした体つきの彼は、早速自ら名乗ってくれた。聞くより先に名乗ってくれるというのはありがたい。
「よろしくお願いします」
「おし。今案内するからよ」
狭い一室へ案内してもらった。
お茶とお茶菓子にビスケットが出される。
美味しそうだが、今は呑気に食べている場合ではない。ティータイムをしにここまで来たわけではないのだから。
「……それで、話は何だ?」
室内が二人だけになるや否や、ガンセッキは口を開いた。
いきなり本題に入るのはまずいだろうか? などと少し悩む。が、彼に余計な時間を取らせるわけにもいかないので、いきなり本題を出すことに決めた。
「実は、ヒーローショーに出演していただきたいのです」
その言葉に、驚いた顔をするガンセッキ。
「な……? ヒーローショー、だと……?」
「はい。怪人役として、出演してくれる怪人の方を探していまして」