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第四十二回 オーグイヤー(4)

「……けど、それでも、やっぱり打ち明けた方が良いですよ」


 オーグイヤーの過去のことは聞いた。愛する者が命を落としたことを、自身が少食であったことと関連付け、自分を責めてしまっているのだということも分かった。


 だがしかし。

 僕は、打ち明ける方が良いと思った。


「オーグイヤーさんは、少食なことを隠していたいわけではないんですよね?」

「せやな。言えるんやったら言いたいわ」

「なら、言えば良いと思います」


 辛い思い出は消えない。


 だが、いつまでもそれに縛られているというのは、無意味ではないだろうか。


 辛かったこと、苦しかったこと。それらがいつまでも消えてくれないのは分かる。しかし、そればかりに気を取られて自分らしく生きられないのは、勿体ないことだ。


「せやけど、少食やて明かしたら、また嫌われるかもしれへん! ……それは嫌や。彼女とのことを思い出すから、嫌なんや!」


 オーグイヤーの声は震えていた。

 そんな彼の肩に、僕はそっと手を乗せる。


「……大丈夫ですよ。きっと」


 具体的な根拠があるわけではないが、同じような悲劇が何度も繰り返されることなんて、そうたくさんはないだろう。


「何で、何で……そう言えるんや……」

「オーグイヤーさんは根っからの悪人ではないからです」


 僕は彼の肩に手を乗せたまま、しっかりと述べた。


「本当に悪くない人に、そんな悲劇が何度も襲いかかることなんて、ないと思います」

「いや、そんなん分からへん……」

「大丈夫だと信じれば、きっと大丈夫です」


 奇妙なことを言ってしまっていると、自分でも思う。


 だが、悪いことばかり考えていては、悪い方向にしか進まないだろう。悪いことを考えることによって、悪いことを引き寄せてしまう可能性も高まる。


 思考なんかのせいで不幸になるなんて勿体ない。


「負の思考は不幸を呼び寄せます。まずは前向きに考えることが大切だと思います」

「……まぁ、確かに、それもそうやな」


 とはいえ、僕もあまり前向きな方ではないのだが。


「言う決心がつかないのに無理して明かすことはないと思います。ただ、マイナスにマイナスに考えるのは、避けた方が良いかもしれませんね」


 僕は、本当は、こんな偉そうなことを言えるような人間ではない。そんな立派な人間ではないし、人生経験もそれほど豊富ではないからだ。特に、人生経験という面では、オーグイヤーの方が遥かに上だろう。


「……せやな。分かった、もうちょっと自分で考えてみるわ」

「はい。それが良いかもしれません」

「ありがとう。そうするわ」


 オーグイヤーは椅子から立ち上がると、僕の方をじっと見つめてくる。何だろう? と思っていると、急に片手を差し出してきた。


 開かれたその手のひらには、パープルミントと描かれた個包装の小さな飴。


「……え?」

「これは今日のお礼。良かったら食べてや」

「いただいて良いのですか?」

「そうや、あげるで」


 僕は差し出された飴を恐る恐るつまむ。


「ありがとうございます」

「ほなな」


 こうして、僕はオーグイヤーと別れた。

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