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第三十六回 エルモソ(2)

 基地に現れる小さな蜘蛛が嫌だというエルモソに、僕は言う。


「蜘蛛の発生が嫌なら、清潔にしておくことが必要だと思いますよ」


 僕とて、蜘蛛に詳しいわけではない。特別勉強したわけではないし、興味があるわけでもないから。それゆえ、専門的な知識を伝えることはできない。


 ただ、エルモソは何も知らないようだ。

 そんな彼女になら、僕の素人レベルの知識でも、少しはアドバイスできるかもしれない。


「エルモソいてるの、そんな不潔な基地じゃないー」

「小さな虫とかいませんか?」

「何それー?」


 両手の人差し指を立て、くちばしの生え際辺りにそっと当て、可愛らしく首を傾げるエルモソ。


 まさにぶりっこ、という感じの振る舞い。しかし、見た目が見た目だけにぶりっこという感じにもなりきれておらず、何とも言えないシュールな雰囲気が漂ってしまっている。


「失礼ですが……基地はどのようなところに?」

「基地はねー、二つ西の市!」


 根源市内ではないようだ。

 だが、その情報だけではあまり参考にならない。


「そこは、どのようなエリアですか?」

「エリアってー? エルモソ、よーく分かんなーい」


 いちいち説明しなくてはならない面倒臭さに若干苛立ちつつも、丁寧に対応する。


「例えば……基地の周囲にお店や家はありますか?」


 僕は問う。

 それに対し、エルモソは、弾むような口調で返してくる。


「あるあるっ。ご飯を食べるお店とか、あるよっ」

「なら、小さな虫がいる可能性もないとは言えませんね」

「えぇー! 気持ち悪ーい!」


 小さな虫など、どこにでもいる。それゆえ、飲食店があるから、というわけでもないのだが。しかし、食品を扱う店があるのとないので比べれば、ある時の方が発生する可能性は高いだろう。


「そういった虫への対策を優先することが大切かと思われます」

「……そしたら、蜘蛛も減るのー?」

「はい。蜘蛛も、餌のないところに集まってはきませんよ」


 この程度の情報なら、インターネットを使えばすぐに手に入る。だから、本当は、わざわざ相談室まで来ることもない気がする。


 だが、それは人間社会に暮らしている人間の思考であって。


 もしかしたら、怪人の社会には、「インターネットで調べる」という概念がないのかもしれない。だとしたら、彼らが小さな悩みでも相談しに来るのも、分からないではない。


「じゃ、お掃除が大事ってことなのっ?」

「そう言えますね」

「えー。エルモソ、お掃除とか面倒臭ーい」


 いきなり面倒臭いはないだろう。

 心の内で、密かに突っ込みを入れてしまった。


「食べかすを散らかさないようにしたり、置いてある物をきちんと整頓しておくだけでもましだと思いますよ」


 何を当たり前のことを、と笑われたら嫌だ——そんな風に思って言うかどうか悩みつつも、結局言った。

 するとエルモソは、球体のような丸みのある声で返してくる。


「ふーん、そっかー。ありがと!」


 笑われることはなかった。


「エルモソよく分からないけどー、とにかく綺麗にしてたらいいんだよねっ?」

「はい」

「よぉーし! エルモソ頑張るっ!」

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