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第三十三回 食事(3)

「岩山手くんは、誰かとご飯食べたりすることある?」


 由紀が唐突に尋ねてきた。

 僕は彼女の顔から視線を逸らしつつ答える。


「最近は……あまりないです」


 相手は由紀だ。本当のことを言っても、彼女なら、幻滅したりはしないだろう。そう信じられるから、僕は正直に本当のことを答えた。


 すると、彼女は微笑む。


「そっか。あたしもだよ」

「えっ! 由紀さんも!?」


 思わず大きな声を発してしまった。


「ま、相談室の仕事が忙しいっていうのもあるけどね」

「あ。そういうことでしたか」


 僕とは理由が違った。

 もしかして同じなのかと一瞬期待してしまった自分が恥ずかしい。


「後は、まぁ、一緒に行く人がいないっていうのもあるかなー」


 由紀は後からそう付け加えた。


 だが、同類だとはもう思えない。


 由紀は「一緒に行く人がいない」と言いつつも、そのことをまったく気にしていない様子だ。明らかに同類ではない。


「……良いですね」

「え?」

「由紀さんは、ずっと誰かといなくても……自信があるから大丈夫なんですよね」


 何を言っているんだ、僕!

 そう思いつつも、口は勝手に動いてしまう。


「凄いことだと思います。僕も……いつかはそんな風になりたいです」


 少々まずい発言をしてしまったかと焦る。だが由紀は気にしていないようで、怒らないどころか、笑みをこぼした。


「そんなことないよ」


 由紀は笑みを崩さない。

 彼女は強く、しかしながら優しい。彼女のそんな部分に、僕は憧れる。それと同時に、羨ましくも思った。



 その頃になって、ようやく飲み物が運ばれてきた。


 由紀は烏龍茶。僕はアイスストレートティー。


 中華料理店でアイスティーを頼むというのは、少しばかりおかしな感じがする。喫茶店でならともかく、食事の場で紅茶というところに、少し違和感を感じているのかもしれない。


 だが、それを一口飲んだ瞬間、迷いは消え去った。

 とても美味しいアイスストレートティーだったからである。



「お待たせしました」


 それから数分して、今度は料理が運ばれてきた。

 ドリンクに比べ、料理はわりと早く出てきたように思う。ドリンクの方が早く用意できそうだと、漠然と考えていただけに、正直意外だった。


「料理は意外と早かったですね」


 勇気を出して、こちらから話しかける。


「うん! そうだね」

「ドリンクは結構時間がかかったのに、料理は早かったので、驚きました」


 恐ろしくどうでもいい話題を振ってしまったことを、僕は後から悔やむ。

 だが由紀は嫌な顔はしなかった。


「確かにっ」


 直前までとまったく変わらない表情で、さらりと返してきた。


「あ、でもね! もっとおかしな話、知ってるよ!」

「……おかしな話?」

「そう! あたしがたまに行くコーヒー屋さんなんだけど、出てくる順番がすっごいの!」


 意外にも、話が続いていく。僕にはとてもできない芸当だ。


「飲み物とサラダとパスタを頼むことが多いんだけどね、あたしは大体、飲み物を最初に持ってきてもらえるように頼むの。なのに、飲み物が出てくるのが最後だったりするんだよねっ」


 由紀の口からは、言葉がするすると出てくる。

 会話が得意な方ではない僕からすれば、尊敬するところだ。


「しかも、一番にパスタが出てきたりすることも多くって。べつに文句はないけど、不思議だなーって思うんだ」

「パスタは早いんですね」

「かと思いきや、パスタがすっごく遅い日もあるよ!」

「えぇ……波が……」


 僕には立派な返しはできない。ただ、黙っていては聞いていないように思われてしまうかもしれないから、一応言葉を返してはおく。それだけでも、誤解は避けられるだろうから。


 だがしかし、返事をするからこその不安もある。


 とんちんかんな返事をしてしまっていないか、という不安だ。

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