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第三十回 連絡先を交換し

 その日、僕は由紀と連絡先を交換した。携帯電話の電話番号とメールアドレスを、である。


 僕の携帯電話に、初めて女性の連絡先が入った。

 それは僕にとって、赤飯を炊かねばならないほどの、大きな出来事だ。


「ふん、ふん、ふー……」


 僕は自室で、ベッドに仰向きに寝転ぶ。そして、鼻歌を歌いつつ、由紀の連絡先が入った携帯電話を眺める。なんというか、素晴らしい眺めだ。


 正直、母親以外の女性の連絡先を手にする日なんて来ないと思っていた。

 だから、今、高揚している。


 まだ連絡を取ってはいないが、それでも、何だか楽しい気分だ。


 ——そんな風に思っていた時。


 携帯電話が唐突にピロリンと音をたてた。滅多に鳴らない、メールを受信した時の着信音である。


「えっ」


 驚き、思わず声を漏らしてしまった。

 さらに、画面上部に流れる『由紀さん』という文字を見て驚く。まさかあちらから連絡が来るなんて、考えてもみなかったから。


【岩山手くんへ】


 メールを開くと、件名の欄にはそんな文字が。

 さらに、本文の欄には。


【こんばんは! いきなりごめんね。試しに送ってみました! 由紀】


 そんな風に書いてあった。


 メールを受信すること自体久々な気がするが、その相手が女性でしかも由紀だなんて。妙に心が震える。

 返信画面を開き、返信を書く。


 僕はいまだに二つ折れの携帯電話を使っている。特にこだわりがあるわけではない。周囲はスマートフォンを持っている人が多数だが、僕はなんとなく、今でも二つ折れの携帯電話を使い続けているのだ。


 だから、ボタンをぽちぽち押して文字を打たなくてはならない。


 ……もっとも、慣れているから困ってはいないのだが。


 件名の欄には【確認しました】と入力。本文の欄には【こんばんは。ありがとうございます】と打ち込む。

 それを五回六回見直して、ついに送信ボタンを押した。


 送信できたことを確認し、僕はベッドから起き上がる。

 妙にワクワクしてきてしまって、じっとしてはいられない。


「……久々にやろうかな」


 視線の先には、埃の溜まったゲーム機。

 体を動かせるやつだ。


 凄く体力を消耗する。足音が騒がしくなる。そういった問題点があるため、しばらく使っていなかった。


 が、たまには運動するのも悪くないかもしれない。


「よし」


 本来真っ白なゲーム機なのだが、埃が積もり灰色に近い色みになってしまっている。とても、気軽に動かせるような状態ではない。だから、いざ使うとなれば、機械を拭くところからの始まりになる。いつもならそこで挫けてしまうのだ。


 だが、今日の僕はやる気に満ちている。

 それゆえ、機械を拭くところからの始まりであっても、いつものように「面倒臭いし止めとこう」とはならなかった。


 その後、僕はゲームを楽しんだ。


 久々に体を動かすと、汗はかくけれど、嫌な感じはしなかった。むしろ、すっきりしたくらい。いつもの暮らしにはない、澄んだ空を見上げるような爽快感が、そこにはあった。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 ポイント・ブクマなど、いただければ嬉しく思います。
― 新着の感想 ―
[良い点]  また濃い怪人が来ましたね。  マンティーデのテンション、ついていくのは大変そうです。  でもツボがわかれば上手くやっていけるのかも……。  メール、嬉しいですよね。  返信を何度も確認…
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