第二十五回 マンティーデ(1)
その日、僕はいつもより早く個室へ入った。
今日はマンティーデという怪人がやって来ると聞いているが、約束の時間までは、まだ三十分くらいある。
少し早く着くということもあるだろうが、さすがに、約束より二三十分も早く到着することはないだろうから、僕はまだ余裕に満ちている。
狭い個室で、僕は一人考える。
由紀のことを。
彼女は「昔怪人の知り合いがいた」と話していた。恐らくその怪人とは、あの、彼女の机の端にあった写真の人物のことなのだろう。
「まさか恋人? ……それはないか」
あの写真の由紀は、とても幸せそうに見えた。
もちろん現在の彼女が不幸そうというわけではないが、特に楽しそうだった。
写真の中にいた、銀色の怪人。彼は恐らく——いや、考えないでおこう。そんなことを考えていたら、僕の心がダメージを受けてしまう。
「ひゃふぅーっ!」
マンティーデは嵐のようにやって来た。
予定の時間からは十分ほど遅れていたが、自分が遅刻したことなどまったく気づいていないようだ。
「俺様はマンティーデ! よろしくぅーっ!」
「岩山手と申します。よろしくお願いします」
カマキリのような両手を持つマンティーデ。
彼は、妙に落ち着きのない怪人だった。
部屋に入ってきてから彼は、立って話すでも椅子に座るでもなく、ずっとうろつき続けている。狭い部屋であるにもかかわらず、である。
「アンタ、イワヤマテっつーのか? よろしくぅーっ!」
……苦手なタイプだ。
活発なのはいいが、ずっと動いていると落ち着きなく見えてしまう。また、こちらがきちんと接しているにもかかわらず適当な挨拶をされると、複雑な心境になってしまう。
いや、もちろん、僕が真面目にしようとしすぎているだけだと、分かってはいるのだが。
「で、ご相談の内容は?」
するとマンティーデは、右腕を頭の上へ大きく掲げ、左腕を胸の前で斜めにする。
「俺様のかっこいいあだ名を考えてくれーっい!」
珍しく動きが止まった——のはいいが、今彼がとっているポーズも、なかなかシュールなものである。
「あだ名、ですか?」
「そう! ビリビリっとくるようなの頼むぜ! ひゃっふぅー!」
うろつき君、なんてどうだろうか。
……冗談です。
「承知しました。では考えましょうか」
「んんーっ!? イワヤマテ真面目すぎないか!? もっと弾けないと、ナイスなあだ名は思いつかないぜーっ」
少々、イラッとしてしまった。
「で、どんな感じがいいというのはありますか?」
「ビリビリっとして、キラキラピカッてな感じだな!」
マンティーデの発言は意味不明だった。
具体性がなさすぎる。
「では、入れたい言葉などはありますか?」
「ない!」
完全に人任せだ。
自分でももう少し努力できないものなのだろうか。
「分かりました。では考えてみますね」
「待っとくから、よろしくぅーっ!」
一応引き受けたものの。
僕はネーミングセンスがない。皆無、と言っても過言でないくらい、とにかくセンスが欠けている。
そのせいで、小学生時代の班でチーム名を決める時には、何も言わせてもらえなかった。
いや、今思い出すべきことではないのだろうが。
しかし、マンティーデにあだ名を考えるよう頼まれたことで、ほろ苦い過去を色々思い出してしまった。




