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第二十一回 ズガイクォツゥ(1)

 僕が『悪の怪人お悩み相談室』に勤めて、一か月が過ぎた。


 週に二回だけという、かなり自由度の高い状態ではあったが、定期的に出掛けるようになったため、体重が二キロ減った。


 ……と、それはともかく。


 研修期間が終了し、僕はもう研修生ではなくなったのだ。


 正式な名札を由紀から受け取った時には、得体の知れない高揚感に襲われた。それは、一か月やってのけたのだという達成感と、ここからさらに気を引き締めていかなくてはならないという思い——二つが混じり合ったものだ。



「吾輩はズガイクォツゥ! 今日はよろすぃく頼む!」


 今日も僕は、悪の組織の怪人たちの悩みを解決するべく、仕事に臨む。


「岩山手です。よろしくお願いします」

「おぉ! 岩山手! いい名前だぬぁ!」


 今日の客は、名前からも察すことができるように、頭蓋骨が大きい怪人だ。それ以外は人間にそっくりな体。手も足も、人間のそれらによく似ている。


「隣の県から来たのでぬぁ、駅から少し迷ってしむぁった」

「すみません」

「いいや、気にしないでくれ」


 なら、どうして敢えて言ったのか。

 正直そこが知りたい。


「で、本題ぬぁのだぐぁ。最近、吾輩が活動している県にヒーローが登場しとぅえ、困っておるのだ」


 ズガイクォツゥは、着ている桜色のブラウスの袖を捲りあげながら、本題に入っていく。


 それにしても、桜色のブラウスにレインボーカラーのストライプのベストというのは、独特のセンスだ。もっとも、奇抜な見た目のことが多い悪の怪人にとっては、普通の範囲内の組み合わせなのかもしれないが。


「そのヒーローが全部で十五人なのだぐぁ、名乗りが長すぐぃて、吾輩、待つのが面倒臭くてな。会うたび嫌な気分になるのどぅぁ」


 十五人、か。

 確かに結構な人数だ。


 それらがそれぞれ名乗るのを待つとなると、そこそこの時間を奪われそうである。


 一人一秒——いや、それはないだろうから、一人三秒と考えても、四十五秒はかかる。もし一人に配分されている時間がもっと長かったとしたら、それ以上かかるということも考えられる。


「どうにかなるぁんか?」

「そうですね……」


 少し考えて。


「なら、待たないというのはどうですか」

「待たない、どぅぁと?」

「はい。それなら、不要な時間を取られることもありませんし」


 提案に対し、ズガイクォツゥは「だが……」と呟く。


「待たない、というくぉとは、吾輩らには許されないのだ。というぬぉも、悪の怪人には悪の怪人の決まりが定められておってぬぁ」


 悪の怪人の決まり、なんて聞いたことがないが。


「今から八十二年前にぬぁ、国際悪組織連合の会議で、『ヒーローの名乗りを聞き終わるより先に攻撃を仕掛けることを禁ずる』という決まりが定められたのだ。それ以来、世界中に散らばる悪の怪人は、ヒーローの名乗りを待たなくてはなるぁなくなってな。結果、悪の組織に就職したい若者は激減。今では、かつての六割ほどしかいなくなってしまったぬぉだ」


 何だかよく分からない。


 そもそも、国際悪組織連合なんて聞いたことがない。

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