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第二十回 ふと抱く疑問の欠片

「すみません……」


 僕は由紀に、ネーオンが帰ってしまった経緯を正直に話した。

 なぜ彼女が帰ってしまったのかよく分かっていないため、きちんとした説明をすることはできなかったのだが、取り敢えず、僕に分かることは隠さず言った。


 その結果、返ってきた言葉は。


「ま、そういうこともあるある。あまり気にしなくっていいんじゃない!」


 僕の想像とは大きく違っていた。


 良くても説教、悪ければクビ。そんなところだろうと考えていたのだが、由紀が僕を責めることはなかった。


「ネーオンさん、帰り、お金は払っていってくれたよ」

「そうなんですか!?」


 彼女は「お金は払う」と言っていた。しかし、僕はそれを信じてはいなかった。言っているだけだろう、などと思っていたのである。


 しかし、実際はそうではなく。


 ネーオンの発言は、嘘ではなかったようだ。


「どうしたの? そんなにびっくりして」

「い、いえ。ただ、本当に払ってくれていたとは思わなくて……」

「大丈夫! 怪人、そういうところはきっちりしている人が多いよ」


 由紀は屈託のない笑みを浮かべている。


 笑っている彼女は、まるで太陽のよう。世界を、僕を、いつだって照らしてくれる。


 だが、時折それが眩しすぎると感じることもある。

 明るい方ではない僕にとって、彼女の放つ光は強すぎて。


「あ、そうだ。ところで、落し物なかった?」

「え」


 あ、もしかして……。


「犬の写真らしいんだけど。さっきモグリトエハさんから電話があってね、愛犬の写真がなくなったからもしかしたら落としているかもって。見なかった?」


 やはり!


 恐らく、ネーオンが拾ってくれた、あの写真だろう。


 ネーオンが帰ってしまった件の衝撃で、すっかり忘れてしまっていた。が、間違いない。あの写真こそが、モグリトエハがなくしたものだろう。


 確か、机の横にある小さな棚に入れておいたはず。


「持ってきます!」

「……それは、あったってこと?」

「はい! ネーオンさんが拾って下さいました!」


 それだけ言って、僕は駆け出す。

 少しでも役に立とうと思って。


 僕は個室へ飛び込み、机の横の小さな棚を開ける。そこには、毛の長い犬が写っている写真が一枚。それを手に持ち、由紀のところへと走って戻る。


「これですよね!?」


 写真を差し出す。

 すると、由紀の目が大きく開かれた。


「そう! きっとそうだわ!」

「良かった……!」

「ありがとう! モグリトエハさんへすぐに連絡するね」


 内心密かに、安堵の溜め息をつく。


 写真を見つけたのは僕ではない。ネーオンだ。だから、こうしてすぐに渡せたのも、僕の功績とは言えないかもしれない。ただ、それでも、少しでも役に立てたなら。由紀のためになることを何かできたなら、と思うのだ。


 そんなことを考えつつ、電話機を握る由紀の後ろ姿を見つめる。


「はい。あ、はい、そうです。……はい、ありました」


 それにしても——彼女はなぜ、こんな仕事を始めたのだろう。


 聡明で悪人でもない由紀なら、普通の会社に就職することだってできたはずだ。あるいは、誰かの妻となることだって可能だっただろう。


 にもかかわらず、彼女はこの職を選んだ。


 その理由は、一体何なのか。


 電話でモグリトエハと喋る彼女の背中を眺めつつ、僕は、ぼんやりとそんな疑問を抱くのだった。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 ポイント・ブクマなど、いただければ嬉しく思います。
― 新着の感想 ―
[良い点]  相手は様々。うまくいかないことだってありますよね。  ですがこの場合、岩山手くんが思ったようにちゃんと相談に乗れていたとしても、しこりが残ったのではないかな、と思います。
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