第十五回 モグリトエハ(3)
シューティングゲームの攻略。
そんなこと、僕にできるわけがない。
そもそも、これは『悪の怪人お悩み相談室』に来て頼むようなことなのだろうか。
ゲームなら、そこらに溢れている攻略本やら攻略サイトやらを見て、ひたすらやり続ければ良いではないか。それなら、時間はかかったとしても、何とかなるはずだ。
「あのー……岩山手さんー?」
はっ!
まずいまずい。つい上の空になってしまっていた。
「はい、何でしょう」
「お願いしても大丈夫ですかー?」
モグリトエハは僕にやらせるつもりのようだ。
それは困る。
だって、僕がやっていては永遠にクリアできない。
「見本を見せていただけませんか?」
「できませんよー。センスがなくて恥ずかしいですー」
「一度、お願いします」
たった一度断られたくらいでは諦めない。僕は再び頼んでみた。
すると。
「……分かりましたー。少しだけですよー。あと、笑わないで下さいねー」
どうやら彼は、笑われるかも、というところを気にしていたようだ。案外繊細な心の持ち主なのかもしれない。
「はい。もちろんです」
「ありがとうございますー」
……僕は一体何をしているのだろう。
なかなか悩みを相談する場所がない怪人たちの悩みを解決するのが、ここでの仕事のはずで。しかし、今僕がしているのは、ゲームに関する悩み。こんなもの、怪人の悩みなどではない。小学生中学生の悩み、と言った方が近しい。
いいのか、これで。
「では見ていて下さいー」
「あ、はい」
モグリトエハが、詰まっているというそのステージをプレイし始める。
しかし、とても操作しにくそうにしていた。
というのも、彼の手の構造が、人間の手のそれと異なっているからだ。
これは恐らく——ゲームが難しいのではなく、彼の手の構造がゲームに適していないのだろう。
そんなことを考えているうちに、ゲーム機の画面には『ゲームオーバー』の文字。もはや終わってしまったようだ。
「終わりましたー。やはり無理ですー」
四つ並んだ瞳を悲しげに潤ませるモグリトエハ。
そんな彼に、僕は述べる。
「恐らく、モグリトエハさんのセンスの問題ではないと思います」
「え?」
「モグリトエハさんが上手く操作できないのは、手の構造の問題かと」
直球で言ってしまっては、傷つけてしまわないか心配になる。だが、だからといって遠回しに言っていては話が進まない。なので僕は、敢えて、本当のところをはっきりと述べることにした。
「そ、そんなーっ……!」
「僕が代わりにやってみましょうか」
今さらながらそう提案すると、彼はこくこくと首を縦に振った。
「はいー! お願いしますー!」
モグリトエハはゲーム機を差し出してくる。
僕はそれを、丁寧に受け取った。
個人的には、よくプレイしていたRPGの方が得意なのだが、そんなことを言っている暇はない。今はとにかく、目の前のこのステージをクリアしなくては。
「しばらくお待ち下さい」
まさか『悪の怪人お悩み相談室』の仕事の一環でゲームをする日が来るとは思わなかった。