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第十三回 モグリトエハ(1)

 モチルンとの買い物、A115からのお礼の手紙。昨日は嬉しいことがたくさんあった。研修生・岩山手 手間弥の毎日は、それなりに充実している。しかもかなり順調だ。


「おはよ、岩山手くんっ」


 早めの昼食を済ませ事務所に行くと、今日も、由紀が明るく迎えてくれた。


「おはようございます」

「そうそう、今日は二件なんだけど、それでも大丈夫?」


 由紀はいきなり話を振ってくる。


「二件……僕の担当がですか?」

「そうそう!」


 これまではずっと、一日一件だった。だから、こんな僕でも、それなりにこなせていた。が、二件になるということは、やることが二倍になるということ。僕に務まるのだろうか。


「無理そう?」


 不安げな眼差しを向けてくる由紀。


 ……逃げていては駄目だ。


 不安はある。だが、不安だからと逃げていては何も変わらない。挑まなくては、いつまでも今のまま。


「い、いえ! やります!」


 力んでいたからか、甲高い声を出してしまった。


 ……情けない。


「本当? じゃ、これ!」


 そう言って、由紀はA4サイズの紙を二枚手渡してくる。

 僕はそれを受け取ると、そこに印刷されている文字へと視線を向ける。ざっくりと見ただけのため、その内容を把握するには至らない。が、恐らくは、今日僕が担当する者に関することが書かれているのだろう。


「順番は右上に書いてるから」

「は、はいっ!」

「何か質問があったら、気軽に聞いてくれていいからね」



 そして、一人目を迎えるべく個室へ向かう。

 これといった特徴のない部屋。その隅には一輪の小さな花が飾られていた。由紀が飾ったのだろう。


 僕は椅子に腰掛けると、先ほど彼女から受け取った書類を取り出す。予習しておこうと思って。


「モグリトエハ、男性、地球年齢二十歳、趣味はゲーム、飼っている犬はシーズーのメスで名前がアダンソン……」


 まったく統一性のない情報に戸惑ってしまう。が、何も知らないよりかは、知っている方が良いだろう。そう思うから、一応勉強しておく。



 そんな時だ。

 唐突に、ノック音が聞こえてきた。


 恐らく、モグリトエハがやって来たのだろう。


「はい! どうぞ!」


 はきはきとした発声を意識しつつ言う。


 すると、扉がゆっくり開いた。

 控えめな開け方だ。


「あのー……」


 扉の隙間から現れた顔。それは、リンゴにそっくりだった。リンゴに四つの目を貼り付けたような顔面である。ちなみに、横に並んでいる四つの瞳は、微妙に大きさが違っている。内側二つは結構大きいが、外側の二つは小さめだ。


「こんにちは!」

「あ……はいー。こんにちはー」


 リンゴにそっくりな頭部の彼は、細く開いた隙間から室内へと入ってくる。もっと普通に扉を開ければいいのに、と思ってしまわないこともない。


「モグリトエハですー」

「あ、はい! お待ちしていました!」


 モグリトエハの節のある細長い腕は、巾着袋を持っていた。黄色いウサギのキャラクターが描かれたその巾着袋は、若干薄汚れていて、長年使っているのだと察することができる。


「そちらへお座り下さい」

「はいー」


 彼はカタンとさえ音を立てずに、すっと椅子に座った。


「本日担当させていただく岩山手と申します。よろしくお願いします」


 僕は、彼の顔を直視しながら、挨拶をする。

 彼には目が四つもあるので、どこを見つめれば良いのか分かりにくい。が、取り敢えず、広めに正面を見て挨拶しておいた。


「モグリトエハですー。よろしくお願いしますー」


 言いながら、彼は、巾着袋の口を広げていく。


 一体どんな相談なのだろう?

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