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悪の怪人☆お悩み相談室  作者: 四季


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第百五回 心は同じ

 突然現れた綾香とシュダルクは、嵐のように去っていった。僕はただそれをぼんやりと見ていることしかできなくて。けれど、二つ並んだ背中を目にしたら、何だか妙に心が温まった。


 人間と怪人。

 姿形は違っていても、心は同じ。


 だからきっと、仲良くもなれる。


 もちろん、心ないことをする怪人だって存在するだろう。でもそれは人間だって同じで。心ない人間もいれば、心優しい怪人もいる。


 そんなことを考えていた時。


「岩山手くん!」


 いつも怪人の相談に乗る時に使っている個室から、由紀が出てきた。


「あ、由紀さん」

「シュダルクさん元気そうだったね!」


 由紀の口からシュダルクの話が出てきたのは、少し驚きだった。


「聞いていらっしゃったのですか?」

「うん。よく聞こえてたよ」

「よく!?」

「元気そうだったね!」

「確かに。そうでしたね」


 元気でない、ということはなかった。


「幸せそうで何よりです」


 シュダルクは綾香にかなり乱雑に扱われていたが、嫌そうな顔をしてはいなかった。綾香は素直でないが、シュダルクのことを嫌っている雰囲気ではなかった。


 ある意味、ベストカップルと言えよう。


「それにしても、人間と怪人の夫婦なんて珍しいですよね」


 何げなく言うと、由紀は困り顔になる。


「うん。まだなかなかねー……」


 由紀を困り顔にしてしまったことに罪悪感を抱きつつも、「困り顔も悪くない」と少し思ってしまった。


 悪い男だなぁ、僕も。

 ……なんて、心の中で呟いてみる。


「あと十年もすれば、人間と怪人のカップルというのも、普通になりますかねー」

「どうかなぁ……」


 由紀は珍しく頷かなかった。

 不思議に思い、確認する。


「まだまだ無理そうですか?」


 その確認に、由紀は首を左右に動かす。


「いいえ。無理と決まっているわけではないわ。でも、それは皆の心次第」


 彼女はすべてをはっきり述べることはしない。でも僕には、彼女が言おうとしていることが、何となく分かる気がした。


 時が解決してくれることはたくさんある。

 でも、すべてがそうではない。


「ま、けど! いつかはそんな時代が来るといいよね!」

「はい。僕もそう思います」


 人間と怪人が同じように暮らす社会なんて、今はまだ、ちっとも想像できないけれど。


「そんな時代が来たら、楽しいことになりそうですよね」

「えぇ」


 僕の発言に、由紀は頷く。


「……あ。でも、そうなったら、このお悩み相談室の必要性がなくなってしまいますかね……」


 それは困る。

 もしお悩み相談室が潰れたら、僕はまた無職になってしまうから。


 ……それに。


 由紀とこうして一緒に過ごす時間がなくなってしまうのも、嫌だ。また孤独な世界に戻るのは、耐えられない。


「ふふ。そうかもね?」

「……正直、僕は嫌です」


 うっかり口を滑らせてしまった。


「え?」

「ここがなくなるのは……嫌です」


 気づけば僕は、自然と本心を話してしまっていた。

 僕の不自然な行動を不思議に思ったのか、由紀は困惑した顔で尋ねてくる。


「人と怪人が分かり合える時代、来てほしくないってこと?」


 その問いに、慌てて首を横に動かす。


 そうじゃない。

 そういうことじゃないんだ。


「違います。僕はただ……」

「ただ?」

「由紀さんと一緒に働けるこの場所を、失いたくないんです」


 僕が本心を述べた後、しばらく、由紀は言葉を失っていた。


 ——が、三十秒ほど経過してから、彼女は穏やかに微笑んだ。


「ありがと」

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