第百二回 アーロ(3)
「ホクァニハ何カ思イツクーノ?」
新鮮な組み合わせを考える会はまだ終わらないようだ。
「他ですか……」
「ムォウナイカンージ?」
アーロは軽く「他には」などと言う。しかし、そんなに聞かれても困ってしまう。何個もの案をパッと提案するというのは、容易ではない。
「少し考えてみますね……」
「パット思イツクノデイイーヨ?」
いやいや。パッと思いつくものがないから苦労しているのではないか。
——その時。
脳内にぽつんとアイデアが浮かんだ。
まるで気まぐれな神様が贈ってくれたかのように、いきなり、ぽつんと。
「あ」
「思イツイターノ!?」
それは、過去の記憶に関連するアイデアだった。それも、数年前なんかではなく、小学生の頃の記憶から出てきたものである。
「はい」
「言ットェミーテ!」
「あ……けど、少し変かもしれません」
一応思いつきはしたものの、「少し変かもしれない」などと考えてしまって、口から出す勇気が出ない。
「イイーヨ! 取ルィ敢エーズ言ットェミーテ!」
アーロはそう言ってくれるけれど。
でも、言う勇気がない。
「も、もう少し考えて……」
「今思イツイターノ、マズ言ットェミーテ!」
アーロは鋭く言ってくる。
恥ずかしがっていても仕方がない——そう思い、勇気を出して口を開く。
「鮭とイチゴ!」
言い切って、僕は黙る。
これは小学生時代の思い出から生まれた組み合わせだ。
僕が小学生だった頃、給食で、鮭の天ぷらとイチゴジャムが並んでいる日があった。もちろん、イチゴジャムはパンと食べる用だ。僕はそれを、気まぐれで、鮭の天ぷらにつけてみたのである。
それが案外美味しくて。
知り合いに話したら笑われたこともあるが、個人的には結構好みの味だった。
「……ナルホド!」
「え」
「ソレ! 詳スィク聞カスェテホシイーナ!」
アーロは、意外にも食いついてきた。
「えぇっ」
「聞クァセテホスィーノヨ! サケトイティゴノ組ムィ合ワセニツーイテ!」
これまで何度か話したことがあるが、笑われて終わることが大概だった。また、酷い時には「味覚が変わっている」と言われたりもした。
だから、正直あまり言いたくはなかった。
しかしアーロは受け入れてくれた。笑うでもなく、馬鹿にするでもなく、真剣に聞いてくれて。しかも興味を持ってくれた。
……本当に小さなことだが、凄く嬉しい。
「スォノ発想ガドコカラ出トェキタノカ、教エーテムォラエール!?」
「はい」
「アリガトウ! イーロイロ聞カスェテーネ!」
その後、僕は、鮭とイチゴの組み合わせについて詳しく話したのだった。
一時間後。
終了の時間が来た。
「今日ハ、イロイロ聞カセテクルェテ、アリガトウ!」
アーロは椅子からさっと立ち上がる。
弓のような形状の脚は、見た感じ凄く不便そう。しかしながら、彼の動きを見ていると不便そうだとは感じない。
「ア、ソーダ」
「はい?」
「今度ウチノルェストランデ、ダンスパーティーグァアルクァーラ、モシ良カッターラ来テ来テ!」
いきなりダンスパーティー。
少し戸惑ってしまった。
「あ……はい」
「観ルダケデムォ、オーケーヨ!」
「そうなんですか」
「モチロンヨー! 来トェクレタラ、美味スィー料理ヲ振ル舞ウクァラネー!」