おすそ分け
ピンポーン!
家のチャイムが鳴る。
「どちらさまですか?」
「すいません、隣の者なんですけど」
ドアを開けると両手で鍋をしっかり持っている。なんやねん。
「すいません、引っ越して来たのに挨拶にも伺えず」
「隣の田口です。口を二個書いてから、左の口に十字架をねじ込む方の田口です」
「初めて聞いたわ、その伝え方。あと、ほうですって、他の田口さん浮かばへんけど。
今日はどういった要件で」
「あ!すいません、某田口はですね
「某って!明確!実態目の前!」
「見ての通りおすそ分けです。某田口は夕ご飯に鍋食べたいなぁって思いまして、んーでも1人で鍋もなぁーって思って、
「あ、一緒に鍋でもってことでええんかな?」
「それで悩んだんですよ、1人鍋するくらいなら誰か誘おうかと、
「話聞いてる?ねぇ?」
「鍋だったら、調理は割と簡単だけどコンロ用意したり鍋洗うのも大変だし、やっぱ余っちゃいそうだしなぁ、
「こわいんやけど、ずぅーと悩んどるやん!聞いて!」
「余らせても次の日も鍋、また余ったら次の日も鍋、その次の日も、その次の日も鍋、鍋!なべぇー!!」
「どんなでかい鍋で作るつもりやったん!?」
「某田口はいつまで鍋を食べ続ければいいんでしょうかぁぁぁぁ!?」
「知るかぁぁぁぁ!!無くなるまでや!!」
「と、言うわけでお隣さん」
「なに?」
「鍋つくりすぎちゃってませんか?」
「すぎちゃってません?なに?鍋つくりすぎちゃったんでよろしかったらどうぞ。って話しちゃうん?」
「違います」
「いや、待てぇや、ほならさっきの悩みなんやったん?」
「あぁ悩んでるうちにすっきり遅い時間になってしまったんで」
「めっちゃ悩んどるやん!それでよぉあんないつまで食べ続ければいいんでしょうかぁぁぁ!?ってあのテンションで言えたな」
「某田口は思い込みの激しいタイプの子なので」
「いつまでもじぶんのこと、○○な子!言うな。いい歳やんけ」
「はい!寅年です!」
「今干支褒めへんし!へぇー君寅年!いい年やな。なんて言うやつおるか!ってか、おすそ分けって言ってたやろ?できひんやん」
「ですから、されに」
「新しいパターン!されに!?おすそ分けされに!?確かにする方も、さ!おすそ分け!とか言うけどもやな」
「たぶん同じ1人暮らしの男性なら鍋地獄にはまってるんじゃないかと思って」
「考え方は理にかなってるけどもなぁ、残念ながら鍋地獄には落ちてません」
「じゃあ、鍋じゃなくてもいいんで!何かおすそ分け!」
「鍋のこだわりなくなってもうたやんけ」
「めぐんでください、靴とか舐めますんで!なにかめぐんでください!」
「こわいこわいこわい!そんなんさせる気ないわ!今日は外で食べて来たからなんもないんや、すまんの」
「某田口練り歩いてもぉ腹ペコなんです」
「隣の人って言っとったやん?」
「はい、隣町の者です」
「その労力あったら鍋くらいめんどくさがんな!もぉ帰って」
「ちっ。やめさせてもらうわ!あほ!」
「お前が言うな!こっちのせりふや!ボケが!」
ドアを乱暴に閉める。