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第1話 死闘

 このガタデラ王国は、巨大な城壁に囲まれていて、全ての国民が城壁の中で暮らしている。

 遙か古のこと、突如として土龍の群による王国への進撃が行われ、多くの国民の命が奪われ、町は美しさを失った。

 なんとか王国騎士により土龍は追い払われたが、いつまた同じことが起こるかわからない。そのため、国王は2度と攻め込まれることのないよう、国土の1番外側に巨大城壁を作り、外界との交流を全て断った。

 この出来事は、ガタデラ王国にとって史上最悪の厄災として、今も国民に語り継がれており、城壁の外の世界を知る者はいない。



 「バックル、リッキーもう上がっていいぞ、今日もご苦労さん。」

 「村長さんありがとうございます!お疲れさまでしたー!」

 バックルとリッキーの2人は、急いで帰り支度を済ませて速足で森へ向かう。

 「バックル、今日は釣りで勝負っすよ!」


 森に着いてすぐに、昨日バックルに野兎狩りで負けたリッキーは、意気揚々と釣竿と仕掛けを作り、餌であるミミズを捕る。少し遅れて到着したバックルも、汗を袖で拭いながら釣竿を作り始めた。

 「リッキー走るの早すぎだよーー。」

 「おいらは走るのは誰にも負けないっす!今日は一番大きい魚を釣った方の勝ちっすよ!」

 仕事で疲れているはずのバックルとリッキーであったが、そんな素振りは見せない。こんなにこやかなやりとりをしながら、日が暮れるまで釣りを続け、帰路に就いた。

 森から家までは歩いて1時間ほどの距離だが、その間中リッキーの自慢が続いた。

 「いやぁ凄い引きだったっすーー。大物を釣るってのは気持ちイイもんっすねー。バックルも次は大物を釣れるように頑張るっすよ?仕掛けとか釣竿とか色々教えるっすかー?」

 バックルが釣った魚は12cmのサバ1匹、リッキーが釣った魚は13cmのサバ1匹である。雑魚を1匹ずつ釣った2人であったが、1cm大きいサバを釣ったリッキーは確かに今日の戦いの勝者であり、バックルは笑顔でリッキーを称えた。この2匹の魚は、もちろん2人の晩御飯となった。


 ガタデラ王国には無数の村が存在する。村とは居住者千人に満たない区画の呼び名であり、2人はイデオロ村の村人寮に隣同士で住んでいる。村は、王国に登録されている政官が村長として派遣されて治めることとなり、村の名称は村長の名前で呼ばれることとなる。

 そんなイデオロ村でバックルとリッキーは、14歳ながら大人顔負けに働いている。2人が行っている仕事は、近隣の村との物品運搬や、畑仕事、建材運びなどの力仕事がメインであり、まだまだ成長期ながら、なかなかに逞しい体つきをしている。


 「今日は2人にイエンダ村への運搬をお願いしたい。運搬してもらうのは、石のオノ20本だ。よろしく頼むよ。」


 イエンダ村は、イデオロ村長の兄が治める森林に囲まれた少し大きな村であり、北西に3時間ほど歩いたところに位置する。伐採による木材確保のために、石のオノが必要になったとのことだ。

 木と石で作ったソリに20本のオノをくくりつけ、2人はイエンダ村を目指して出発した。


 「羨ましいっすねえー、おいらも石のオノほしいっすよー、木こりとしてライセンスを獲得すれば大儲けできるっすよー。」

 「1個当たり100ガターで取引だもんね、僕たちに買えるものじゃないよね。パブリの僕たちは、食べていくのもやっとだもんねー。」


 民は王族を除いて全てパブリとして生まれる。パブリとは、ライセンスを要しない民のことで、村の労働力となることで、最低限の生活が保障される。具体的には、寮の一間が与えられ、1日1ガターが村を通して王国から支給される。

 ガターとはガタデラ王国の通貨であり、1ガターは質素な食事1食相当の価値である。そのため、少しでも貯蓄をするべく村の労働を終えた後も木の実の採取や釣りを行う村人も多い。


 談笑しながら1時間半ほど歩いたところで、小高い丘の上を見て2人の足がピタっと止まり、流れた汗が冷たく変わる。タウロスだ…2人は心の中で叫ぶ。

 タウロスは山岳帯に生息する凶暴な牛型モンスターであり、ベテラン狩人もなかなか一人で狩るレベルのモンスターではない。そのタウロスが、数百メートル先に存在するのだ。


 「逃げるっすよ。」

 リッキーは後ずさりしながら小声で発し、バックルは無言で頷いた。しかし、極度の緊張からかリッキーは落ちていた小枝につまづいてしまい、尻餅をついた。

 野生のモンスターがこの音に気付かないわけがない。タウロスは真っすぐリッキーの方を向いて体制を低くし、突進の構えをしている。

 リッキーは動けない。尻餅をついた痛みもあるだろうが、今にも跳び掛けるタウロスと目が合い、死を間近に感じているのだから当然だろう。

 タウロスは物凄い勢いでリッキーに突っ込んだ。

 死を覚悟したその時、リッキーの体が宙を舞った。バックルがリッキーに体当たりをし、間一髪タウロスの突進を免れたのだ。リッキーは一度死を角度したことで緊張から解き放たれた。

 タウロスは旋回し、再度2人のもとに突進してきたが、2人はこれを寸前で避けた。

 「あの速さのタウロスから逃げ切るのは不可能だ。僕らでタウロスを討伐するしかない。でも…どうやって倒そうか…。」

 「石のオノがあるっす。あれで弱点である頭部を叩ければ……。」

 確かに石のオノで弱点である頭部を強打できれば勝機はある。しかし問題は、この速さで突進してくるタウロスの攻撃を避けながら攻撃に転じることができるかどうかである。おそらく直撃すれば命はない。


 数回避けたときにバックルはあることに気付いた。タウロスはあまりの速度にすぐに止まりきれず、停止に20メートル程度要していることに。そして、突進は必ず直線で行われることに。すぐにそれをリッキーに伝えた。

 「リッキー、タウロスの突進は直線だ!角度をつけながら走れば逃げ切れるかもしれない!」

 それを聞いたリッキーは笑みを浮かべた。そして、大声でタウロスを挑発し、角度をつけながら森の中に入っていく。

 バックルは石のオノを1つ持ち、タウロスの後ろから走って追いかけた。すると、タウロスの至近距離でリッキーは足を止めているではないか。それもそのはず、リッキーの背後には巨大樹が迫っている。あれでは逃げ道がない。

 タウロスは体制を低くし、今にも突進をしようとしている。バックルは自分に気を引こうと、全身全霊の力で大声を出した。

 しかし、願いは虚しくタウロスは真っすぐリッキーに向かって突進をした。

 その瞬間、リッキーは横っ飛びをし、なんとかタウロスの突進を避け、タウロスは巨大樹に衝突した。あまりの衝撃に付近の地盤は揺れ、巨大樹からは虫や鳥など色々なものが落下してきた。タウロスは意識朦朧としてフラフラ歩いている。

 バックルは、石のオノを両手で握りタウロスに飛びかかり、頭部に渾身の一撃を打ち下ろした。タウロスはうめき声を上げてゆっくりと倒れ、まぶたを閉じ、息を引き取った。

 2人は生きていることと、ベテラン狩人でも倒すのが困難なタウロスを倒したことに大喜びした。そして、もう一つソリをこしらえてタウロスを乗せ、北西のイエンダ村に足を進めた。


 予定より1時間遅れてイエンダ村についた2人は、すぐに石のオノを納品しに交易所に行ったが、石のオノよりもタウロスを引いて歩いている方に注目が集まったのは当然のことだろう。交易官に話を持ち掛けられた。

 「石のオノが一つ汚れているため受け取ることはできない。つまり、完全納品ではないということだ。これでは予定していた2,000ガターを渡すことはできない。あくまで必要なのは20本なのでな。1,500ガターで取引だ。」

 2人は目を合わせて震えた。500ガターの借金を負ってしまったら、一生食事抜きだ…。

 「だが……その仔タウロスを一緒に渡してくれるなら話は別だ。石のオノ19本と仔タウロスで2,000 ガター、いや、2,100ガターで取引しないか?」

 2人は即答で返事をし、何度もお礼を言い、2,100ガターを受け取った。


 帰り道はオノがない分早く歩ける。行く道で時間を要してしまったバックル達は、いつもより速足で歩く。暗くなると、夜行性のモンスターと遭遇する可能性が高くなるからだ。

 イデオロ村が近づくに連れて、2人の口数は多くなる。

 「いや~、あのサイズでタウロスは仔サイズだったんすね?3メートルはあったすよ?商売文句にやられたっすかね?」

 「でも僕たちに500ガターを肩代わりする力はないんだからしかたないよね、感謝しないと!」

 「それもそうっすね!1,500ガターしか払えないって言われた時は、タウロスと目が合った時より死ぬかと思ったっすよ。」

 そんな話をしながら歩いてイデオロ村に到着し、今日の出来事を村長に報告した。

 バックル達の話を聞いた村長は目を丸くして口を開いた。

 「今日は本当にお疲れさん。差額の100ガターは村のために使用させてもらうよ。その石のオノは、初 討伐の記念に君達に差し上げることとしよう。」

 交易で得た資金のため、さすがにバックル達に配当されることはなかったが、石のオノを貰えただけでも凄いことだ。

 「その石のオノはバックルの初討伐武器なんすから、バックルのものっすよ」

 笑顔でリッキーはバックルのものであると言った。そしてバックルは、その笑顔に応えるように石のオノを武器屋に売り、売って得た額の丁度半分の20ガターをリッキーに渡した。

 今日の出来事は、二人の友情を益々深めることとなったであろう。

 2人の活躍は、ここから始まるのであった。


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