howling 1-6
2017/09/28
the redemption2の内容に基づき若干の修正を行いました。
(更新はもうしばらくお待ちください)
「嘘……」
流石のアルトも、これには絶句して立ちすくむしか無かった。
全力を尽くして放った攻撃が、いとも簡単に防がれてしまっては、それも仕方ない。
だが、アルトはすぐに我に返って剣を構え直し、
「貫け、《ライトニングハザード》」
次の瞬間放たれた、直径10センチで黒い稲妻が巻き付いた漆黒の光線に左手が掠め、
_____掠めただけなのに、アルトの左手は根元まで炭化して消し飛んだ。
「ぐうぅぅっ」
全身を痙攣させ、衝撃で壁に叩きつけられて、アルトは床に崩れ落ちる。
だが、まだ彼女は気を失っていない。
必死に立ち上がろうとするアルトの目の前に、突如上から降って来た白い剣が突き刺さった。
(……白い?)
サンダーの持っていた剣は両方とも黄色系統だったはず、こんなに真っ白なんてあり得ない_____
と、そこまで考えて、アルトは気付いた。
武器の見た目が変わるのは、その武器固有の技を使う時。
それ以外もあるが、今はそれしか考えられない。となると_____
アルトのその思考は、(体感時間で)3秒後に証明された。
「消し去れ、《ライトニングバニッシュ》」
次の瞬間視界が白く光り、轟雷の音と共にアルトの思考も白く灼かれ、閃光に呑まれた。
それは、周りから見ればたった数秒の出来事だったのだろう。
しかし、それはとんでもない光景だった。
サンダーの投げた剣が回転しながら飛んでゆき。
不自然な程垂直に突き立った後にサンダーが何事かを呟いて。
次の瞬間、先程の剣戟を超える轟音と閃光が広範囲に落ちてきたのだから。
それは幾千、幾万もの雷。
しかし、全てを焼き尽くすであろう圧倒的な威力は、まさしく神の天罰、消滅の光。
その威力を知る者は皆、驚きを隠せないでいた。
否、恐怖を感じていた。
更に数秒の後、閃光が収まった場所を見た観客は、再び驚愕した。
なんと、倒れたアルトの周り半径1メートルには半透明の薄黄色のバリアが張られていたのだ。
決して相手を過剰に攻撃せず、犠牲が出る前にしっかりと守る。
それは一部の者には賞賛すべき事に見え、
残りの者にとっては非常に不愉快な事と思えた。
バリアを解除し、突き立った剣を引き抜いて鞘に納めながら、
サンダーはアルトに近付いた。
アルトの状態は酷く、左肩と右足の一部が炭化し左腕は消滅、全身に酷い火傷を負っている。ウェーブのかかった黒い髪も一部が焦げ、また短くなっている。
しかし、そんな状態でもサンダーが近付くと意識を取り戻したのは評価されるべきだろう。
サンダーはアルトの容体を確認すると、そのまま回復魔法を唱えた。
「《フェイトアフェクション》」
サンダーがそう唱えると、アルトの体が光の柱に包まれ、傷が欠損も含めてあっという間に治っていく。
余談だが、この世界の魔法にはランクが付けられており、ランク1から10まで存在する。
そして今回使った《フェイトアフェクション》は、聖属性回復魔法のランク9に位置する魔法だ。だが、ランク9とは言え《フェイトアフェクション》は使い手が限られている魔法。それを使えるのは、サンダーが並々ならぬ実力者である事を示していた。
「立てますか」
「うん。……サンダー君、君って凄いね。何をどうやったらそんな強さになるんだい?」
「昔色々とありましたので」
そう答えるサンダーは尚も無表情だったが、それを知らないアルトは更に問いを重ねた。
「そうなんだ。あ、じゃあ、『色々』の部分って聞いても」
「駄目です。お断りします」
しかし、返って来たのは予想外に強い拒否、いや『拒絶』だった。
目の前の少年から発せられる強い感情に、アルトは自分の失策を知った。
彼女の後悔の念を感じ取ったのか、サンダーは悲しそうな顔をする。
「ごめんなさい、今はまだ言えません。今俺の過去に触れたら、多分貴女は同情や憐れみの感情を向けるでしょう。
でも、俺はそれが嫌なんです。……俺はそんな感情なんか要らないですので……」
最後の方は聞き取り辛かったが、アルトはそれを理解した。
「……ごめんね、変な事聞いちゃって。
でも、これだけは教えて貰えるかな」
「何でしょう」
本当はかなり聞き辛かったが、アルトは知りたかった。
「君、レベルは幾つなの?僕の攻撃を防ぐくらいだから、かなり高いはずなんだけど」
サンダーはちょっと驚いたが、アルトには彼が少しだけ空気を和らげたのを感じ取った。
「本当は言いたくありませんが、どうせ公開されるので」
そう前置きを置いたサンダーは、そっとアルトに囁いた。
「俺のレベルは12680です。理由は絶対に聞かないで下さい。
……こんな呪われたような生い立ちなんて言いたく有りませんからね」