howling 1-4
その「先生」というのが誰かは分からないが、かなり信頼されているのだろう、とサンダーは考えた。
「確かにそうじゃ。しかし、現にこうした事が起きているのも事実」
と、ここで水無月は柔らかな笑みを見せた。
「じゃが、今はその話をする時では無い。まずはサンダー君を解放した方が良かろう。HRを出席出来なかった事に関しては、やる事を明日に回せばいいからの」
その意見に暁もレティナも異論は無かったらしく、
サンダーの方へ向き直ると、
「さて、話は聞いていただろう?今日は見学も兼ねているから、この後は好きにして良いと思うぞ」
と言った。
対するサンダーもここにいつまでも留まるのは愚索だと感じ、
「分かりました。それでは、俺はこれで」
と言って、その場を離れた。
「運命とは、どうしてこうも皮肉なものなのかのう」
「…と、いうと?」
サンダーが去っていく姿を見て呟いた水無月に、暁が真意を尋ねる。
「2人共、10年前の事件は知っているかの?」
「ええ、確か……水無月校長も捜査に協力したのに、その時に現れた赤い光の柱が何を意味するか分からず、更に犯人の血痕はあるし、どう考えても致死量を超えているのに死体が見つからないという怪現象が起こった……という事は知っています」
「私も同じく。それで、それがあの生徒と何の関係があるんで
しょうか」
その質問の答えはなかなか返って来なかったが、観念したように水無月が口を開いた。
「そこで亡くなった2人のフルネームを思い出せるかの?」
「はい。ベルドクス•ライトロードと、ハルシア•ライトロードで……まさか!」
「気付いたようじゃの」
何かに気付いたレティナが小さく叫び声を上げると、水無月は重々しく頷いた。
「では、校長はサンダー君があの事件の生き残りだとお考えですか?まさか、そんな事が…」
「これはわしの推測に過ぎん。現に、調査開始から2日目以降は、その空間に入る事すら叶わんかったからのう」
遠い目をしながら、水無月は暁の言葉を「断定は出来ない」と
たしなめる。だが、その仮説はサンダー自体の存在がある故に否定出来ない物となっていた。
「これはやはり経過観察が必要じゃの。……レティナ君」
「はい」
「出来る限り早急に、サンダー君を生徒会に加入させるように。
……頼んだぞ」
「分かりました。部活動勧誘週間の内に決着をつけましょう」
「頼もしいのう」
そう言って、水無月は目を細めた。
「では、私は生徒会室に戻ります」
「私も、この後仕事がありますので、この辺で。……有難うございました、校長」
「こちらこそ。さて、わしも戻るかの」
挨拶を交わして、3人は別々の方向に去っていった。
時間は少し戻るが、3人と別れた後、サンダーは演習場に向かった。
特に理由は無かったのだが、上級生がデモンストレーションを
していると聞いてやって来ただけだ。
そして、そこに着いた時、彼は少しラッキーだった。
サンダーの姿を見つけた、見知った顔の鱗竜人族の男子が、こちらに近付いて話し掛けて来たからだ。
「よ、サンダー。調子はどうだ?」
「左腕が麻痺したままだ、ファイア」
「…ったく、だから少しは考えて行動しろって言ったろ」
そう言いながらファイア_____ファイア•ジークブレイズは、サンダーに赤い液体の入った小瓶を投げてよこした。
彼が投げたのは、サンダーの身体を安定化させるための秘薬だ。
サンダーはその小瓶を右手でキャッチすると、躊躇う様子も無く飲み干した。
「やはり良い感覚じゃないな、これは」
苦い顔になったサンダーが呟くと、
「ま、お前が慣れるか慣れないかの問題だろ、それは」
とファイアが切り返す。
「……そうだな。それはともかく……何故ファイアはここに?」
何時までも引きずっている話題では無いと判断し、サンダーは話題転換を図った。
「俺?いや、ここでデモンストレーションをやってるって聞いてさ、面白そうだから来ただけだけど……」
ファイアがそこまで言った時、周りで歓声が上がった。
ちなみに、サンダー達がいるのは演習場の二階で、下でやっている戦闘が見えるように大きな吹き抜け、外周を囲む様に観戦席が設けられている。
-閑話休題-
下を見ると、ちょうど戦闘が終わった所らしく、片方の上級生が荒い息をして、首に剣を突き付けられている所だった。
対して、その突き付けている方は、呼吸が全く乱れていない、
寧ろ余裕がある表情だった。
少しして相手が負けを認め、離れて互いに礼をすると、勝った方が観戦席の方を向いて話し始めた。
「さあ、今なら新入生の君達にも相手してあげるよ。やりたい人はいないかい?
_____ちなみに、僕のレベルは874だ。遊び半分でやると怪我をするよ」
そう言っても、なかなか名乗り出る新入生はいない。第一、870以上という数値は並大抵のレベルでは無いのだ。
「俺が行きます」
「おいっ、サンダー!?」
だが、サンダーはそれすら無視し、当然のように名乗りを上げた。
「ふう……ん。君、名前は?」
サンダーが下に降りると、目の前の上級生_____外見からして魔族だろう、浅黒い肌に、頭には丸まった角が左右に生えている_____は値踏みするような視線を向けて来た。
「……サンダー•ライトロードです」
「へえ、君があの……」
サンダーが名前を告げると、その上級生は嬉しそうな顔をした。
「僕はアルト•フィーネリンド。さ、早く始めよう」
その言葉に頷いたサンダーは、魔法で服を変えた。
黄色の地に白黒の線が入ったロングコートとロングブーツ、コートの下は無地で色は同じのレザーパンツとレザーチュニック。
尻尾の先にはテイルブレード(尻尾の先端に付けて操る武器アクセサリー)、背中には2振りのロングソードを吊っている。
あれで翼の邪魔にならないんだろうか、とアルトは考えたが、寧ろ2振りのロングソードを操れるのかという事に興味が湧いた。
二刀流。
マスターするのは非常に難しく、とても実戦に使用出来るレベルにするのはほぼ不可能、今まで10人程しか使い手がいなかったという戦闘スタイルの一種。
目の前にいる新入生にそれが使えるのか、それがアルトは気になった。
「では、よろしくお願いします」
「ふふ、こちらこそ。じゃあ、行くよ?」
そうして、サンダー対アルトの戦闘の火蓋は切って落とされた。