guardian 1-4
蝸牛のごとき更新速度でやっと上がったものです。いやあ酷いね(わしが)
すみませぬぅ_(:3 」∠)_
数日後、ファイアは街の中心部にある大図書館に来ていた。
それなりに大きい建物の扉をくぐると、初めて訪れた者は外見からは想像もつかない程高過ぎる天井までぎっしりと納められた本の数に圧倒されるだろう。
そして彼は何度見ても慣れないその光景に暫し佇んだ後、奥の方にある狭い廊下に足を向ける。
『禁書棚の為立入厳禁』と書かれた幻影の結界を見事にスルーし、もうひとつの受付カウンターの方へ足を進め、そこに居る人物に声を掛けた。
「おっさん、居るか?」
その声で顔を上げた人物は、余り耐性の無い一般人であれば恐怖を覚えるような風貌だった。
人間の体に蛸の頭を乗っけたような体付きで、背中には一対の蝙蝠のそれに近い形をした翼、そして長い4本の触手が生えている。
「おやおや、ファイアじゃないか。最近来てくれなかったから少し心配してたが……大丈夫そうだな」
彼は神話に登場する『大いなるクトゥルフ』の末裔だ。__尤も、彼にこの惑星を支配するような意思など無い訳だが。
「顔見せも兼ねて来たんだよ。おっさん心配性だからな」
「それは嬉しいねぇ。……で、今日の用事は何だい?」
だが、皮肉な事に彼にはそれを実行するだけの能力は備わっている。
その有り余る力を如何なく発揮出来る機会が無かった為、彼はそれが出来るようなやり方を思いついた。──即ち、情報屋である。
有り余る力を駆使して貴重な情報を手に入れ、それを売買すれば能力を生かす機会も出来て一石二鳥だ、と彼は考えたのである。
幸いにして彼の人望は厚く、また自身もその分野で非常に優秀だった為それはすぐに成功を収め、彼は有名になった。__『万知』の2つ名を得る位には。
「アルティメア家がここ10年間で採用した守護者のリスト見せてくれ。採用年齢20歳以下で」
「ほう……また面白い注文をするねぇ、ファイア君」
そう言いつつ、メモ帳を一枚破ってそこにその情報の場所を書きつける。
「運が良かったね、丁度数ヶ月前に再調査したばっかりだったんだよ」
手書きのメモを手渡しつつ、彼はファイアにそう告げる。
「へぇ……なぁ、本当に支払い要らないのか?こんな真新しいのまで…」
勿論、彼は遊びで情報屋をやっている訳では無いのだ。今回のように数ヶ月前の物であれば値段は軽く数万ガルド(ガルドは世界共通通貨の単位だ)を超える。更に新しくなったり貴重な物だと神器が一個買える位の法外な値段がつくだろう。
「前も言ったじゃないか、君達は特別だからって」
しかし、彼はファイア達の特別性を見抜き、その上でファイアに交換条件を出したのだ。 ──曰く、『自分達の情報を受け渡す代わりにこちらからも情報を渡す』と。
「あ、そうそう。そのアルティメアの守護者が今日ここに来ているみたいだ。気を付けておくんだよ?」
「大丈夫、ヘマはしないぜ。……ハーシーのおっさん」
それを聞くと、彼__ハーシー•レブレスクは嬉しそうに澄んだ黄色の目を細めた。
「よう」
ファイアが声を掛けると、その人影は驚いたように小さく震え、此方を向いた。
「……何故お前が此処に……!」
そう呟いて腰の刀に手を掛けるが、どれだけ力を入れても鞘から抜ける気配は無い。
「止めとけ。此処じゃ武器は使えないし、魔法も攻撃性のあるものは無効化されるだけだぜ」
飄々とした態度で理由を告げるファイア。
その宣告された側はとても悔しそうな顔をし、すぐに刀から手を放した。
「ちょっと知りたい事があってな。お前の事で」
「……」
その言葉だけで、ファイアに突き刺さる敵意が更に強いものに変わる。
「どうせお前も何か探しに来たんだろ?だったら取引と行こうぜ」
「誰がお前などと……」
途中まで反射的に言い返しかけて、彼はぐっと堪えた。
「……聞くだけ聞いてやる」
「オーケイ、じゃあこうしよう。──お前が知りたい情報を教える代わりに、お前について教えてくれないか?」
「……良いだろう」
予想以上に同意されるのが速くファイアは少し狼狽えたが、その後すぐにとても楽しそうな表情を見せた。
「良いねぇ。んじゃ早速一つ目。名前と年齢」
「ゼロ……ゼロ・アルティメアだ。年齢は16」
「ゼロ、ね……良い名前じゃん。名字は雇い主と一緒なのは何故?」
ここでゼロは少し顔を曇らせた。
「……拾われたんだ。10歳の頃に、リフレの親御さんに」
(ふぅん……まさか、ね)
不意にファイアの脳内に以前調べた6年前の虐殺事件の事が浮かび上がり、彼は嫌な予感がした。──だが今はそれを考えている時間では無い。
「成る程ねー。要するに拾われて、そのままあの家に従属する運びになったと」
「ああ。この刀もその時に頂いた物だ」
自身の腰に差している刀に手を置きながらゼロがそう言う。
「ふむ……今はそんな所で良いぜ」
「わかった。では今度は此方の番だ」
「オーケイ、じゃあちょっとついてきな。離れるんじゃねえぞ」
そう言って、ファイアはゼロを連れて奥の通路の1つに向かった。
「ここだぜ」
真っ暗な廊下を暫く歩くと、急に開けた小部屋にたどり着いた。
その部屋には簡素な机と椅子、そして分厚い本が何冊か入った本棚しか無かった。
彼はその分厚い本の1つを取り出し、ゼロに手渡す。
「予め言っておくけど、ここでは『読む』事しか出来ないぜ。まあ簡単に言うとメモとかは出来ないってこった。電子機器も駄目だぜ」
「……分かった」
ゼロは頷くと、2つあった椅子の片方に座り本を開いた。──しかし目を抑え、すぐに閉じてしまう。
「っつ……」
「あ、やべ……大丈夫か?」
「あ、あぁ……問題無い。すまない」
反射的に謝るが、ファイアはそれに首を振った。
「いや、悪いのはこっちだ。情報量の多い場所は圧縮されて詰め込まれているから、視覚にダメージが入っちまう事を忘れてたからな」
「成る程な……」
「しかもな、これ実は完全じゃない」
それを聞いて、彼は少し驚愕の表情を見せる。
「……何故?あの……『万知』のハーシーでも知らない事が?」
「……ハーシーのおっさんが『全知』じゃないのはそれが理由さ。
おっさんには自分の限界が分かってるんだよ」
──即ち、『この世界に起こった全てを知っている訳では無い』と言う事である。
「それに……あいつは俺達にも言わない何かがあるらしいからな」
「……そうか。いや、すまないな」
そしてこれ以上の詮索をする事なく、ゼロはこの件について素直に引き下がった。
1時間後。
「……」
「……大丈夫かー」
ゼロはハーシーのいる窓口の近くのソファーに、濡らしたタオルを目に掛けた状態で寝かされていた。
「大丈夫じゃない……」
「……だろうなぁ」
ゼロがあの本を読み終わるまで結局ファイアは待っていた訳だが、結果としてはそれが良かったのだろう。
読み終わった直後、ゼロは猛烈な頭痛と両目の痛みで倒れてしまったのだ。
「はっはっは、凄い圧縮率だったろう?」
ハーシーが笑いながら、ゼロに治癒魔法をゆっくりと掛けて行く。この方が疲労からの激痛には効果があるのだ。
「……ああいうのは普通なのか……?」
「勿論、と言ってもサンダー君やファイア君みたいな圧縮量の多い子は中々居ないけどね」
「……まだ16なのに、こんな……情報量が多いなんて」
至極真っ当な質問に、ハーシーはそうだろうと言う様に頷く。
「と思うだろうね、普通なら。
君もそうだけど、元々住んでいた場所が壊滅したり、決まった住居を持たなかったりすると、その分圧縮する量が増えるのさ。それに5、6年で色々やらかしちゃうなんてイレギュラーにも程があるし、そういった子は細かい記録が欠かせないからね」
これまた的を得ている答えに、ゼロは大いに納得した。
「成る程な……」
「分かってくれたようで嬉しいよ。……そうそう、今回は迷惑かけちゃったから、今回と次回の分の情報料は無しで良いからね」
「……感謝する……」
そう言いつつまだ目の痛みに呻くゼロに、ハーシーは苦笑いを浮かべた。
その15分後、ゼロの調子が元に戻ったので、ファイア達二人は図書館を後にした。
「……世話を掛けたな」
「良いってことよ。……あ、そうそう。この後時間ある?」
そう尋ねられ、ゼロは頭に完全にインプットされた予定表を調べた。
「まあ、一応差し迫った予定は無いが」
「よっしゃ、んじゃあちょっとご飯食べに行こうぜー」
「……唐突に何を……」
とは言うものの、ハーシーの好意でゼロが払うはずのお金が大分余ったので、彼はファイアに付き合う事を殆ど決めていた。
「まあ、良いか。付き合うぞ」
「よっしゃよっしゃ。んじゃあちょっと掴まって」
そう言って差し出された手をしっかりと握った──直後、二人は央京の最南部に瞬間移動していた。
「瞬間移動か……」
「驚いたか?」
「いや?まあ妥当だろうなとは思ったが」
そんな話をしながら、ファイアはゼロを人気の少ない公園のほうへ連れて行った。ここにはそれなりに大きな灯台があるので、何時もは央京の港がある最南部での待ち合わせに使う人がまばらに見掛けられる程度だ。勿論今回も例外ではない。
そんな人気の少ない場所に来たファイアは、灯台の裏手に回りこんで、落書きにしか見えない文様に手を当てた。
「ほら、掴まっとけよ。途中で次元の狭間に落とされても知らないぜ」
「あ……あぁ。分かった」
ファイアが言った台詞がどういう事なのかゼロが良く飲み込めないまま、ファイアはゼロの手を掴んでから良く聞き取れない声で聞いた事も無いような言葉を唱えた。
その瞬間、二人は眩い光に包まれ──ゼロが思わず閉じた目を開くと、もうそこは『違う場所』だった。
碧い空を呆気に取られた表情で眺め、しかしすぐにゼロは我に返った。
「どうだ?凄いだろ。──ようこそ、『アズレア』へ」
ファイアの声は、明らかに楽しんでいるようだった。




