interlude α-3 The redemption 1
今回は更新早く出来たぜ。
竜神暦726年、ノーザンニール大陸•リネア地方の街、タンザラ。
そこそこ大きいその街の、役所区画の一角に建設された冒険者ギルドは、今日も賑やかだった。
「……でさ~、ランドアの奴ときたら『子供の世話があるから行けない』なんて言いやがってさ~。ほんっとあいつお人よしだよな~」
「それが良いんだろう」
「へへっ、違いねぇ。……おや?」
騒がしいギルドロビーの中でそんな話をしていた彼_____赤い鱗に赤い髪、橙の目を持つ炎竜人のリオレス•ヘルブレイズは、ギルドの中に入って来たローブの人物に目を留めた。
(小さい……な。ノームか?)
まるで子供のような背丈の体に、濃密で膨大な魔力を気付かれないように制御している。
ゆったりとした足取りでカウンターに近付くと、ギルド証(身分証明書のようなもの)を取り出してカウンターに置き、職員に話し掛けた。
「……Aランク以降の任務は置いていないだろうか」
_____子供の声で。
「えっ、子供……!?」
ギルド職員の叫び声に周りの冒険者から、ざわっ、と動揺の声が聞こえ、周囲が静まり返る。
「無いのか聞いているんだが」
抑揚の無い声で再度問われ、職員が我に返る。
「あっ、はい!……ええっと、済みません、今は置いてないみたいです……」
恐る恐る職員がそう告げると、その子供は溜め息をついた。
「……わかった。ありがとう」
そう言うと、その子供はギルド証を回収し、そこから離れて二階の宿屋の方に歩いていく。
そしてその子供が見えなくなると、瞬間的にロビーに喧騒が戻った。
「……おい、今の奴見たか」
「ああ、ばっちり『記憶』済みだぜ。しっかし、凄い異質な奴だった……って、おい、大丈夫か?」
仲間が声をかけてくるが、リオレスは全く気が付かなかった。
(あの魔力……どこかで見た気がした……まさか……)
『おい、知ってるか?ライトロードっていう名字の一家が殺されたんだってよ』
『ええ、知ってるわ。何でも国家に背いたから処罰されたって噂よ。まあそれなら仕方ないでしょうけど』
『まあ、そうですよね。……そう言えば、2人共何故か体が所々喰われてて、妻の方はお腹が中の子供と一緒に食べられていたって聞きましたね』
1年前、この事を聞いたリオレスは最初どういう事か理解出来なかった。
_____唯一無二の親友が殺されたなどと、理解したくは無かった。
ましてや子供まで惨殺されてしまったとなると、彼でなくとも事実から目を逸らしたくなるだろう。結局その話を聞いて彼は一週間、精神が不安定になってしまった。
そして親友を喪った悲しみも乗り越え、薄れて来た今。
(間違いない……あいつの子供だ)
何の気なしに見た時は上手く偽装されていて分からなかったが、はっきりと見た事で彼は確信した。魔力の波動が似ていたからだ。
(だが、あの異常な気はなんだ?子供の物とは思えない……)
1年の間に何が起こればあのような強さになるのか、彼は想像したくもなかった。
「……リオレス、リオレス?」
その声で彼は我に返り、心配そうに顔を覗き込んでいる仲間達に向き直った。
「さっきの子、凄かったね~。あんなの初めてだ♪」
嬉しそうに話し掛けてくる青年は、狐獣人の波羽 音狐。
名前の通り、音や精神波動を操り敵を惑わして戦う為、彼には魔力の波動が見えるのだ。
「毎回言ってるような気がするんだけど、それ……」
「……駄目?」
「えっあっちょっと悪かったって……」
「むふふ、冗談冗談♪」
「んえぇ……」
最年少であるはずの音狐に涙目をされ、思いっきりいじられているのは狼獣人と竜人のハーフである深月 影狼。陰影や影(陰)そのものを操って戦うが、その能力のせいかちょっと根が暗く、寂しがりやで若干天然。なので皆に愛される弄られキャラとしてのキャラを確立している。(本人は不本意そうにしているが)
「ちょっと可愛い声だったね」
「そっちもそんな感じだけどねー」
「違うもん!」
先程の子供の声をそう評価したのは、ラティナ・ギルフォード。
黄色い目と黒に近い灰の鱗、蒼の髪をした竜人の青年で、音狐とは2歳年上だが身長や性格から音狐よりも幼い印象がある。
ラティナをからかったのはミルス・クルディア。こちらはプラチナブロンドの髪に黒の鱗、金色の目を持つ竜人族の男性だ。見た目は好青年だがかなり腹黒い性格だったりちょっとエロかったりする為、パーティーの面子に女性から遠ざけさせられていたりする。本人は全く動じていないが。
「しかし、あの子供……魔剣使いのようだったな。強い匂いがした」
「へえー。じゃあ影狼とかと同じ感じかなあ」
魔剣の魔力を感知したのはネイクス•ブラックウィング。
髪、鱗が黒く、目も青に近い黒という容姿の竜人である彼は、特殊魔法や武器創造を駆使する為に、魔法武器からの放出魔力(普通は見えない)やスペック等を認知出来る眼を持つ。
その発言に反応したのはラテル•スカイドラコ。鱗と髪は空色、目は黒の、音狐と同い年の空竜人(風竜人の亜種)の青年だ。
風を操る能力のほか、空中戦闘では空の色に紛れる事が出来る為、一日の長がある。また影狼とは非常に仲が良く、「男じゃなかったら彼女にしてる」と自分で豪語する程である。
「……で、リオレス。あの様子だと、何か知ってるんだろう?」
「言ってくれないと分かんないぜ」
そしてリオレスにそう問いかけてきたのは、赤と暗い青の鱗に赤い目、鱗と同じ青い髪を持ち、尻尾の先が刃のようになっている刃竜人(炎竜人の亜種)のナチル•ディルバッド。
かなり大人びた性格で、種族の割に大人しく、知的。それ故にパーティーのまとめ役として一役買っている。
便乗して話し掛けてきたのはギラド•グランドレイク。
ナチルに次ぐ最年長組の1人で、青の鱗に赤の瞳、青の髪を持つ重竜種の水竜人である。飄々としていて若干ひねくれた性格だが、最年長としての威厳を見せる時もある。
「……ああ。知っている」
そしてリオレスを含めた、合計9人。
彼等と共同体として一緒に生活し、死線をくぐり抜けてきた仲だ。
今更隠し事など出来る筈もなかった。
「1年前の例の事件を知っているな?」
「ああ、あれねー。あの時は本当に大変だったよね、リオレスが」
ミルスのツッコミは無視し、リオレスは話を続けた。
「……あの子は、その時に生き延びていた子だ」
「「「「「「「「え?」」」」」」」」
◇ ◇ ◇
その日の夜。
「で、やっぱり本当なんだよね」
夕食を食べている最中、ラテルがそう問い掛けて来た。
「ああ、間違い無い。一度会った事があるからな。その頃は俺の子もあんな思いをせずに済んでいたんだが……」
そう言ってリオレスがうなだれる。
「まあ、そう気を落とすな。忘れろとは言わないが、余り思い詰め過ぎるのも体に毒だ」
ネイクスがたしなめると同時に、ラティナが会話に混ざって来る。
「それにしても、ベルドクスさんの子供かあ。きっと可愛いんだろうなあ……」
「おそらくね。ベルドクスもハルシアも美形と呼ばれる方だったからね」
それを聞いてナチルが思い出すように呟く。
「本当に、どうしてあの2人が殺されなきゃならなかったんだろうね……」
音狐が悲しそうに言うと、皆も同じ事を考えていたらしく押し黙ってしまった。
「邪魔だ、どきやがれ!」
不意にカウンターの方が騒がしくなったのに気付いたリオレスは、何事かと思ってカウンターの方を向いた。同時に仲間達もそちらの方を振り向く。
見ると、そこには腹を押さえて片膝立ちになった例のベルドクスの子と、蔑むような表情で相手を見下ろす3人程の冒険者達が居た。
「ぼーっと突っ立ってんじゃねーよ、只のチビトカゲが。帰って虫でも食ってろ」
ゴミを見るような表情で、わざとその子を蹴った犬獣人が吐き捨てるように言う。
「……お前もS級冒険者だろう、フォルド•アインツベルン。こんな事をして恥ずかしいと思わないのか」
対してそのベルドクスの子は、何事も無かったかのように立ち上がり、フォルドを見据えた。
「ふん、雑種が。謝罪の言葉も無いとは、教育のなってない奴だ」
「あらあら駄目よ、ヴェード。そんな本当の事言ったら。相手はまだ子供なのよ?」
ヴェードと呼ばれた男が傲慢に言うと、たしなめた風を装って女性が毒を吐く。
「……げえ、良く見たらあの3人、例のパーティーじゃん」
「例の、とは?」
横で呟いた冒険者にラギアが問いかける。
「ん?……ああ、もしかしてここは初めてか?」
「……ああ、そうだな。一応今日で3日目だが、一度も遭遇してはいなかった筈だ」
ネイクスがそう答えると、その冒険者は驚いたような表情をし、話を続けた。
「随分運が良かったんだな……。まあ、良いか。
ええっと、まずあそこの犬獣人がフォルド•アインツベルン。ジャーマンシェパードだから顔は割と美形な方なんだが、性格がな……。
で、その後ろの傲慢な聖竜人がヴェード•シュヴァルツァー。良家の長男らしいぜ。だからあんな良い装備をしてる訳だが。
んで、その横の魔族の女がソプラ•ダルセルニア。サキュバスで上級魔導士なんだってさ」
冒険者の説明が終わると同時に、一歩も退かず対峙していた彼らがまた喋り始めた。
「それで?何か言う事は無いのかなぁ、チビトカゲ君?」
下卑じみた笑みを浮かべ、フォルドが嘲りの口調でその子供に『謝罪を求め』る。
「……自分の力と権威に溺れている奴に掛ける言葉など無い」
しかし、その子供はフードの奥からフォルドに辛辣な言葉を放つのみだった。
「…ぁんだとテメ…!」
一瞬硬直したフォルドが鬼の形相で掴みかかるが、腕を掴んだ次の瞬間彼は一回転して床に尻もちをついていた。
「な……」
僅かな間放心状態になり、はっと気がついて彼は慌てて立ち上がった。
「くそ、この餓鬼…!」
「……まだやるのか?」
若干呆れているような雰囲気の子供。
「雑種が……。
良いだろう、ならば決闘で決着をつけようでは無いか」
そこでヴェードがデュエルによる解決を提案する。_____と言っても、一方的に痛めつけて優越感に浸るだけだろうが。
「……良いだろう」
しかし、その子供はそれを知って知らずか、それを了承した。
「……ふん、その余裕もすぐに崩れ去るだろうな、雑種」
「どうだろうな。……それから、俺は雑種という名前では無い」
「ほう?ならば何という名だ、雑種」
それに対する答えは、ヴェードのみならずそこに居る全員を驚愕させた。
「サンダー•ライトロード。……それが俺の名前だ。覚えておくんだな、ヴェード•シュヴァルツァー」
そうして彼_____サンダーは、リオレスの方を向き、儚く微笑んだ。
次は戦闘メインです
よろしくぅ!




