howling 3-2
ルミナスは怒らせてはいけない。
夜。
自分の部屋の椅子に座ったオフィリスは、水晶玉が映し出す人影と話していた。
「……それでね、ウィンドちゃんったらとっても張り切っちゃって、あっと言う間に準備して行っちゃったのよ」
『相変わらずね、そっちも。変わっていなくて安心したわ。
そう言えば、白虎もローグを置いて飛び出して行っちゃったのよ。あの子もすぐに追いかけて行ったけど』
心配そうな口調とは裏腹に、2人の表情は実に嬉しそうだ。
だが、水晶玉に映った女性はすぐにすまなさそうな表情になる。
『……ごめんなさいね、大変な事に付き合わせてしまって』
「良いの、今までの恩返しだと思って頂戴?それに、サンダーを止める事と比べれば、この位なんて事無いから」
それはソニアと呼ばれた女性も同意見らしく、『それもそうね』と呟いてから顔を上げた。
『それはそうと、オフィリス。最近、結界の強度と精度が落ちているみたいなのだけれど』
その発言を聞いて、オフィリスは少し心配そうな顔をした。自分もそう感じていたからだ。
「ソニアもそう感じるのね……。
確かに、ここ数ヶ月で都市内での魔物の出現情報が増えているわ。まだ死者は出ていないけれど、負傷者は多くなっているの」
新聞の記事の一部を水晶の向こう側の空中に投影すると、それを見たソニアは顔を曇らせる。
オフィリスには言っていないが、彼女も一回魔物と遭遇したのだ。
その時は全く襲われず逆に懐いて来たから良かったものの、自分以外の住民が魔物に遭遇し、負傷する事件が増えているのはやはり気掛かりだった。
「それに、ここを見て頂戴。襲った魔物は全てウルフ系統で、その内にSランク以上の個体も居たそうよ」
『ああ、それで、ね……』
それを聞いたソニアは、納得と同時にうんざりしたような顔をした。
「何かあったの?」
『……私の旦那が疑われているのよ。おかげで収入が減っちゃって』
「あらあら、それは大変ね。全く、ギルド協会は本当に何を考えているのかしら」
一瞬不穏な空気が漂う。が、すぐに2人の溜め息で霧散してしまった。
『……私の旦那だけじゃ無いわ。この都市の特に力の強い狼系獣人が謂われの無い誹謗中傷を受けているそうよ』
「成る程……強力な者に対する嫉妬が、今回の件で噴出しちゃった訳ね」
『そうね。私達も同意見だったわ』
私達、と言うのは、ソニアと彼女の夫の2人の事だ。
「ねえ、やっぱり私も一緒に……」
そう言いかけた時、後ろに誰かがいる事に気が付いた。
「誰!?」
「ギャンッ!?」
咄嗟に後ろを向きながら風魔法を放つと、突風に吹き飛ばされたミカゲの姿があった。
そのまま背中から壁にぶつかると、オフィリスのベッドの上で伸びてしまう。
「いきなりひどいっす……」
「言いたいのはこっちよ、ミカゲちゃん。私とってもびっくりしちゃったわ」
そう言いながらオフィリスは、30セル程になったミカゲを抱きかかえ、椅子に戻った。
『あら、新しい子?』
「ええ、そうよ。ファイア君が連れて帰って来たの」
ミカゲが水晶球を覗くと、ソニアが少しびっくりした様子で映っていた。
『あら、その子、この前会った子じゃない』
「その声、もしかしてソニアさんっすか?」
どうやら2人は面識があるようだ。
「貴方、ソニアと遭遇していたのね。知らなかったわ」
先に言ってくれれば良かったのに、という目で見られ、ミカゲとソニアは目を反らした。
その頃、サンダー達は都市で情報収集をしていた。
「まさか、上空にも結界が張られているなんてね……」
その結界に強かに頭を打ち付けたウィンドが、頭をさすりながらぼやく。
結果として、上空からの探索は無意味だった。
都市結界の中では上空に天井があるために十分な高度が確保出来ず、結界の外へ出ると今度は認識阻害結界の為に中の様子が確認出来ない状態だった。
「仕方ないからこっちで情報を集めるって事になったが……こりゃあ無理そうだな」
軽々しい口調で受け答えながら、ファイアは腰の刀を抜いた。
2人は今、10人程度の冒険者達に囲まれていたのだ。
全員でビル街の方に来ると、突然サンダーが神樹の方を向いて、皆に「先に情報を集めておいてくれ」と頼んで行ってしまった。
仕方なく残りの家族で手分けして調べに入ったが、そこに突如邪魔が入った。
最初は2,3人でウィンドに絡んで来たのだが、彼女がすげない態度を取り続けると急にキレ始め、仲間を呼び始めた。
そして今に至る。
至るのだが……
「もう逃げられねえぞ、お前ら……」
「不運だったな、この都市で最大のギルドに目ぇつけられるなんてよぉ!」
彼等はギルド『桜華』のギルドメンバーだった。
彼等の言うとおり、この街最大のギルドでメンバーも多い。
だが、ファイアの記憶通りならそこのギルドマスターは不正を許さない性格だったはずだ。
(流石に人数が増えすぎた、か?)
普段なら目こぼしする筈は無いのだが、とファイアは思った。
(まあ、どちらにしろ不運だったのはあっちだな)
心の中で呟き、ファイアは口を開いた。
「不運なのはあんたらの方だな。誰に喧嘩を売っていると思ってんだ」
不敵な笑みと共に相手を煽ると、いとも容易く相手が挑発に乗ってくれた。
「あア!?なんだとテメェ……」
「ふうん、やっぱり相手の強さを認識出来ないのね」
ウィンド達は、彼等に向けて自己紹介をした。
「私はギルド『竜騎士連合』の四天王が1人、『神風』のウィンド•シルフィーネよ。覚えておきなさい」
「はあ!?し、四天王……!?」
「そして俺が『煉獄』のファイア•ヘルブレイズ。ウィンドと同じく『竜騎士連合』の四天王の1人だ」
「貴方達も不幸ねー。ただの通行人だと思ったら、2つ名持ちのS級冒険者だったんだから」
「まあ、雑魚だとしても本気で殺るだけだけど、な。……覚悟、出来てんだろ?」
「ま、待て……」
制止を無視して、ウィンドは武器を出現させた。
黄緑に光る旋風が拡散、収束し、長刀を形作る。
ファイアの物とは違い最低限の装飾のみの鞘。
しかし、ウィンドが鞘から抜き放つと、彼女の後ろに風で形作られた竜が姿を現した。
「あたしの武器の銘は『タイラントウィング』!さあ、あんた達にあたしの太刀筋、見せてあげる!」
そう言い放ち、ウィンドは長刀を構えた。
一方、ダークとルミナスも冒険者の集団に囲まれていた。
「よお、綺麗な竜人の姉ちゃん。俺達と良い事しない?」
「そうそう、こんな陰気臭い彼氏なんか捨ててさー」
下卑びた笑みを浮かべた、戦士であろう犬獣人が、ルミナスに手を伸ばす。
しかし、その手は触れる前にダークに掴まれてしまう。
「てめえ、何しやがる……」
「ルミナスに触れるな。失せろ」
冷たい刃のような視線を受け、その犬獣人は反射的に手を振りほどいて後ずさった。
「……貴方達、『桜華』の団員ですね。ギルドマスターの事は良く知っているでしょうに、何故こんな事をしているのですか?」
ルミナスが笑顔で質問する。
「へっ。俺達は下っ端だからさ、何をしても気付かれねーんだよ。それこそ女と遊んでもなぁ!」
そこまで言った瞬間、急にルミナスの笑みが消え、彼女は俯いた。
「お?どうしたんだ姉ちゃん……」
豹獣人が近付いて手を伸ばす。
しかし、その手は彼女に触れる前に地面に落ちた。
「え……?」
呆然とする豹獣人。
ルミナスは後ろに跳ぶと、その腕を落としたレイピアを指揮棒のように振って光の短槍を作り出し、レイピアを振り下ろした。
同時に槍が飛び、目の前の自分に触れようとした獣人の腹を貫通し、そのまま地面に縫い付けた。
「が……ああああああっ!!?」
ようやく状況を理解し、途端に悲鳴を上げる豹獣人。
「……愚か者」
ルミナスが低く呟く。
彼女の目は、白く、冷たく光っていた。
「貴様のような輩が、私に触れようなどと思うな。
……我は『竜騎士連合』四天王の1人、『神罰』のルミナス•セラスティリア」
「同じく『竜騎士連合』四天王、『絶影』ダーク•シュヴァルナハト」
2人はそれぞれレイピアとロングソードを相手に向け、言い放った。
「躾のなっていない欲望に忠実な獣など、我らの敵では無い」
「俺達に襲いかかった事……後悔するが良い」
「「行くぞ!!」」
その叫びと共に、2人は地面を蹴った。
※追加説明※
◎ギルドについて
多人数の冒険者の団体で、ギルド協会に申請を出して認可されたものをそう呼ぶ。
基本的にメンバーが5人以上いれば認可される。また、メンバーが4人以下になると認可が取り消される。
活動内容は様々だが、暗殺ギルドや錬金術師のみのギルドも存在している。
◎冒険者について
ダンジョン攻略や遺跡•洞窟等の探索、雑用(家事の手伝い等)から採集、討伐依頼をこなす人々の事をそう呼ぶ。
これでもれっきとした職業である。
冒険者組合(ギルド協会の方とは連携している)で冒険者として登録され、依頼の報酬等は組合から支払われる。
依頼をこなすと冒険者ランクが上がっていき、受けられる依頼の数が増えていく。
最低はEランク、最高はSランク。
Sランクの中でも特に傑出した者は、組合から称号が授与される。
サンダーも勿論持っているが、彼の場合特殊過ぎる経歴があるために、史上最年少の7歳で授与という記録を打ち立てた。




