howling 1-9
今回ちょっと過激かも知れない。
オフィリスがシャドウと話をしていたのと同じ頃、サンダーは自分の部屋で、窓際のベッドに寝転がっていた。
彼の部屋には特筆すべき点が無い。
勉強机と椅子、小さめの本棚に本が数冊と、そしてクローゼット。
クローゼットも、服の入った箪笥と制服に、サンダーが何時も使っている物とは違う剣が置かれているソードラックぐらいしか無い。
同じ年頃の男子と比べると、非常に殺風景な部屋だった。
「…………」
そんな場所で、サンダーは今日の事を考えていた。
(今日はまだ良い方だったか)
(取り敢えず、あれ意外は特に波風立たずに過ごせた)
(いや、あの先生の件もあるか)
(やはり、不特定多数のいる場所は嫌だな。視線が気になり過ぎるし、何より色々知りたがる奴が多過ぎる)
(知って得になる物なんて、俺には無いのにな)
ふとサンダーが起き上がって窓の外を見ると、先刻と殆ど変わらない茜色の空が見えた。
夕日が輝き、サンダーが目を細める。
窓の外には住宅街は映っていない。変わりに、鬱蒼とした極相林が眼前に広がっていた。
勿論、サンダーにはお馴染みの光景で、窓を開けてもそこには普通の住宅街しか無い。
そう、これは魔法によって『繋がっている』だけだ。
更に魔法を行使すれば外も繋げられるが、サンダーは見えるだけで満足だった。
それと同時に、そこに行くのが怖かった。
「…………」
そこは、両親を失った、因縁の地。
永久に時間が動かなくなった、大切な思い出の場所。
それが、彼の両親が眠る墓の近くの、そこそこ大きな家の一角の窓が映し出す場所だった。
「親父、母上……」
深い悲しみを湛えた目で、彼は呟いた。
その時に、サンダーの目から一筋の涙が落ちた事を知る者は、今は居ない。
「……ちゃん。兄ちゃん」
不意にゆさゆさと揺さぶられ、サンダーは目を開けた。
どうやら少し眠っていたようだ。
「スパークか……どうかしたか?」
心配そうに顔を覗き込んできたのは、『スパーク』という名前を持つ、サンダーの遣い魔_____もとい義弟の、水晶雷竜(クリスタル•ライトニングドラゴン)だった。
「どうかしたか、じゃないよっ。帰ってきたのに言ってくれなかったし、いたと思ったらぼんやりしてるし……」
「あはは、ごめんごめん」
「むー。ちゃんと謝って」
全長30セル(1セル=1センチ)程しか無いスパークの可愛い抗議に、サンダーは楽しそうに謝った。
ここにレティナ達が居たら、あまりの豹変っぷりに驚愕して絶句しただろう。
それ程までに、サンダーの空気が変わっていた。
「わかったよ。……ごめんな、構ってあげられなくて」
もう一度謝ると、サンダーは手を伸ばしてスパークの頭を撫でてやった。
スパークは気持ち良さそうに目を閉じ、サンダーも暫く撫で撫でしてあげた。
その後、満足したスパークは、サンダーの膝の上から飛び立って彼の周りを一周し、頭の上に降りた。
「スパーク、ちょっと重いよ」
「ここが良いのっ」
「仕方ないなあ」
可愛い義弟の我が儘に対しては、サンダーは甘かった。_____いわゆる、ブラコンというやつである。
その時、下の階にいたオフィリスから声がかけられ、サンダー達はそのまま部屋を出て行った。
「ふう……」
その日の夜。
サンダーは自室で、日記を書いていた。
これは6年前、「みんなの事を忘れてしまうのが恐ろしい」と当時10才のサンダーがオフィリスに言った時から始めた習慣だった。
それ以来1日も欠かさず付けていて、部屋の掃除をしに来たオフィリスがそれをこっそり見て一喜一憂している。_____ちなみに、サンダーはオフィリスに日記を見られている事に気がついていなかったりする。
閑話休題。
「これでよし、と」
最後の一文を書き終わると、サンダーは立ち上がって軽く伸びをした。
(……もう寝るか)
特にやる事も無くなったサンダーは、明日に備えて寝る事にした。
手早く寝巻きに着替え、ベッドの中に潜り込む。
明かりを消して程なく、彼は眠りに落ちた。
空気が熱い。目の前の森が燃えている。
『お父さん……お母さん……』
『なんだ、このガキ。まだ生きてやがる』
『まあまあ、放っておけよ。どうせもうすぐ死ぬんだから』
_____死ぬ?僕が?
言葉の感覚が酷く曖昧だった。
『それよりさ、俺、腹減ったんだけど、それ喰っていいかな』
『おお、良いなそれ!丁度俺も思ってたんだよ』
『お前ら、それは止した方が……』
『五月蝿え!仕事バカは黙ってろ!』
『そうだ!お前結局こいつらに手出し出来なかったくせに、偉そうな口きくんじゃねえよ!引っ込んでろ!』
『があっ!』
僕と同じ種族の人がこっちに吹っ飛んでくる。仲間割れを起こしたみたいだ。
というか、この人は僕のお母さんとお父さんを傷つけなかった、良い人だったんだ。
『大丈……夫?おじさん……』
『お前、まだ喋れたのか。良かった……』
その人はちょっと安心したみたいだ。
_____と、その時、近くから嫌な音が聞こえてきた。
それはまるで、そう、肉を貪るような_____『_____!!!』
そこで気付いた。気付いてしまった。
今この状況で喰える_____普通の人なら絶対に食わない物といえば、そう。
人肉しか無い。
『嫌……』
『……!くそっ、あいつら!!』
横で僕を支えてくれた人が、武器を持って慌てて駆け出す。
でも、張られていた透明な壁にぶつかって、またこっちに戻ってきた。しかも、今度は動いてない。
『……ったく、手間かけさせやがって』
『まったくだな。これ喰い終わったら、あそこのガキと一緒に喰ってやる』
『そうだな』
そう言って笑う人達の前には、既に半分以上が喰われていた両親の死体が_____
『ひぃっ!!』
逃げようと立ち上がるが、そのまま足が動かなくなる。
狂おしいほどの悲嘆と恐怖に呑まれ、体が凍りつく。
『あ……ああ……』
涙が止まらない。激情が膨れ上がっていく。体の震えが止まらない。
それでも、僕は自分の両親が喰われていくのを見ているしかなかった。
『あー、喰った喰った』
一人の目がこちらへ向く。
その目は、信じられない程の欲望が濁った沼のようになっていた。
『んじゃ、お先』
『ちぇ。少しは残しとけよ』
狂気に包まれた、他愛の無い会話。
そして、こっちにに近付いた方の紅い竜人は言った。
『さーて、あのお腹の中の仔も美味かったし、こっちも美味そうだなあ……』
この時、自分の中で何かが音を立てて砕け散った。
感情が爆発して、すぐに何も見えなくなった。
『あ……ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』
「…………あああああっ!!!!」
気がつくと、サンダーは跳ね起きていた。
すぐに自分が夢を見たのだと認識し、叫ぶのを止める。
しかし、体の震えはどうしても止まらなかった。
汗をびっしょりとかき、涙を止めようとしても止まらない。
酷い悪寒に襲われ、サンダーは自身を強く抱きしめた。
息が出来なくなり、次第に意識が_____
「おい、サンダー!しっかりしろ!」
その時、ファイアが急にサンダーの部屋に入って来て、恐慌状態のサンダーの両肩を押さえた。
ファイアに気付いたサンダーは、幼い子供のように抱きついた。
「怖い……怖いよ、ファイア……」
「大丈夫だ、サンダー。今は誰も失っていない。だから安心しろ」
それを聞いて、徐々にサンダーの震えが収まっていく。
そして、完全に落ち着いた後、サンダーは気を失うようにまた眠りに就いた。
(くそっ、最近は安定してたのに……)
サンダーの部屋の椅子に座ってサンダーを観察しながら、ファイアはそう毒づいた。
彼は、サンダーの心を捕まえて静める碇の1人。
他の2人が欠けても、ファイアが欠けても、サンダーの心はあっという間に“浮かんで”消えてしまう。
それでも、ここ1年は非常に安定して生活していたのだ。
こちらが少し浮かれ過ぎたか、とファイアはサンダーを見ながら考えた。
少し自嘲する気分に落ち込み、彼は静かに溜め息をついた。
最後にもう一度サンダーの様子を見て、大丈夫そうだと判断し、ファイアはその部屋を出た。
「……ファイア」
サンダーが不意にファイアの名前を呼んだが、答える者はもうそこにはいなかった。
2017/5/1
ながさのたんいをかえたよ。
ますたーは「総合pvが500超えたから設定集か外伝でも書こうかな……」っていってました。
どっちがさきがいいか、「かんそうをかく」のところでおしえてもらえるとうれしいです。
※追加説明※
◎碇について
正式名称は「心の碇」。
精神干渉魔法「誓いの絆」により、サンダーの心の消滅を防いでいる3人の事。
ファイア以外の2人については本編で。
◎「誓いの絆」について
無属性•精神干渉魔法の1つで、ランク10に属する。
ある特定の行動を、誓いを結ぶ事によって制限する。
サンダーにかかっている効果はそれを応用したもので、3人からの思いによって、サンダーの精神を繋ぎ止めている。




