howling 1-8
結局、その後は特に何も起こらなかったので、サンダー達はお喋りをしながら帰る事にした。
「あ、おーい。こっちこっちー」
「ウィンド、そんな大声出さなくてもサンダー達は気づいているわよ」
「ティリアは冷たいなぁ。氷柱だけに」
「ちょっと、ウィンド……」
「楽しかったですか、ファイア?」
「ああ、結構楽しめたぜ」
「良いわね、アクアは許嫁といちゃいちゃ出来て」
「ちょ、ちょっと、ウィンドさん……」
「さん付けは止めてって言ったよね、アクア?」
「あうぅ……」
「同居してるからって強制しないの、ウィンド」
「むぅ、ティリアのいじわる」
「あらあら、楽しそうね」
「あ、ルミナス!いつからいたの?」
「ついさっきよ。ダークと一緒に戻ってきたの」
「おい、ルミナス……。それは自慢する事か?」
「ええ、そうよ?」
「……」
「……なあ、さっきから会話に入れないんだが」
「諦めろ、サンダー。お前も道連れだ」
「何にだよ……」
「サンダー、ファイアから例の話聞いたわよ」
「うっ」
「全く……次から気をつけなさい、良いわね」
「……はい」
「あらあら、サンダーもスティリアの前だと頭が上がらないのね」
「ルミナス、何か?」
「うふふ、何も?」
_____と、こんな風にである。
最初にサンダーとファイアを呼んだのは、風属性で羽毛竜人族の生徒、ウィンド•シルフィーネ。黄緑色の短く切り揃えた髪と目、そして同色のサラサラとした羽毛をした活発な女の子だ。
そのウィンドに注意した女子がスティリア•グレイシゼル。こちらもウィンドと同じ種族だが、氷属性を持つ。肩まである髪と目、毛皮が透き通るような水色で、属性を反映するかの様に冷静沈着でおしとやか。
ファイアに話し掛け、ウィンドに茶化されたのはアクア•オルヴァリーシス。
目と同じく、海の様に青く長い髪を三つ編みにし、スティーリアよりも濃いめの水色の羽毛を持つ、水属性竜人の大人しい女子生徒だ。ファイアとは許嫁の関係である。
ふわふわとした態度で会話に混ざって来たのはルミナス•セラスティリア。少しウェーブのかかったロングヘアーや目の色、羽が純白に輝いている。
そしてルミナスと一緒にやって来たのがダーク•シュヴァルナハト。漆黒の鱗と翼に、髪も目も黒という容姿を持つ鱗竜人族の男子生徒だ。
さて。
この5人にサンダーとファイアが加わるとどうなるだろうか。
全員の属性がバラバラ(サンダーは雷、ファイアは炎属性)な集団と言うのは、外見の事もあって非常に目立つ。
そこに今年の新入生総代(=首席)が加われば嫌でも人の目が集まるだろう。
_____と言う訳で、サンダー達は周りの生徒や教室から注目を浴びていた。
「……移動しましょう」
余りにも露骨な視線や敵対心を煩わしく思ったスティリアが、この場から移動する事を提案した。
他の面子も、特に異議は無かった。
「やっぱり場所を決めないで集まるのは止めた方が良かったわね……」
「そうね~。じゃあ、明日適当な場所を見繕っておくわね」
「助かるぜ、ウィンド」
「あんたも、変な騒ぎを起こして人の目に晒されるような真似しないでよね、ファイア」
「へいへい、わかりまし……ぎゃっ!?」
大分日が傾いて、茜色に染まった大通り。
サンダー達は話しながら、帰路を辿っていた。_____ちなみに、ファイアの悲鳴はウィンドが足を踏みつけたからである。
「ファイア……ウィンドに適当に返事したら手が飛んで来るのはわかってるだろうに」
「足が来るのは予想外だっ」
ダークの突っ込みに、ファイアは反論する。
「油断してるからでしょ。まったく、これだから戦闘狂は」
だが、ウィンドの追加口撃にあえなく撃退された。
「ウィンドさ……ウィンド、それはあんまりだと思いますよ」
それを見兼ねたアクアがウィンドに注意する。_____さん付けで呼びそうになって慌てて直しているのはご愛嬌である。
「ふふ、駄・目・よ、アクア。こいつは『ちゃんと』言ってやんないとわからないのよ。アクアもたまにはガツンと言ってやんなさい。許嫁なんだから」
しかし、ウィンドの発言にあっけなく反論され、
「それもそうですね……」
「おいっ、アクア!?」
むしろ納得してファイアに悲鳴を上げさせていた。
「程々にな、ウィンド。やり過ぎるとアクアが怒るぞ」
「……それもそうね」
サンダーが助け船を出すと、ウィンドは何かを思い出したらしく、ぷるぷると首を振った。
「こんな所で暴れられたら大変よね……」
サンダー達は同じ一軒家で生活している。
別に血の繋がりがあるとか、誰かに命令されて、とかではない。
とある事情により、一ヶ所に集まって生活している、いわゆる共同体という事だ。
そんな訳で、道中特に何事も無く、サンダー達は家に帰って来た。
「ただいまー」「あら、お帰り。学校はどうだった?」
ウィンドの声で玄関先に来たのは、この共同体で二番目に年齢が高い女性、オフィリス•ドラセナシアだ。樹属性の彼女も羽毛竜人族だが、今は人間形態にしている。
「大丈夫そうだったな」
「そう、ダークが言うなら間違いないわね。さ、みんな中に入って。_____それと、サンダー。ちょっと残って頂戴」
それを聞いた他の面子はすぐに自分の部屋へと向かい、後にはサンダーとオフィリスが残された。
「さてと……。聞いたわ。上級生を相手に派手に立ち回っちゃった、って」
「すみません」
サンダーの謝罪に、何故かオフィリスは目を細めた。
「あらあら、良いのよ、謝らなくても。
でも、流石にあれはやりすぎだったわね。だから、今度からそれだけ気を付ければ、今回は大目に見てあげるわ。
わかったわね?」
相手を責めるような事をせず、優しく注意する、母親のような口調。
だが、サンダーは一瞬苦悶の表情を見せ、次の瞬間には、相手に申し訳ないと言うような顔になった。
「……わかりました。以降は気を付けます」
「はい、それでいいわ。じゃあ、行ってよろしい」
オフィリスはニッコリと微笑むと、サンダーを彼の部屋に行かせた。
「はあ……」
サンダーが行ってしまった後、オフィリスは心配そうな表情で溜め息をついた。
(両親の事もあるし……やっぱり、家族として見てもらえないのかしら、ね……。)
共同体でサンダーが暮らし始めたのが7年前。
それからずっと、よそよそしい雰囲気はサンダーの周りから消えなかった。
こうしてみんなで頑張っているが、いまだにあの2人、いや3人以外に心を開く事は無い。
「まあ、そうだろうな」
突如として後ろから声が聞こえる。が、彼女はその声の主を知っていた。
「シャドウさん……」
振り向くと、半透明の竜人がそこに立っていた。
銀色の鱗を持つ彼_____シャドウ•リヴァレイズは、苦々しい表情でオフィリスに話し掛けた。
「あいつの精神は構造がおかしな事になっている。何せ一回粉々になったのを無理矢理治して、その上2度もねじ曲がってるからな。極度の人間不信はそれが原因の一つだろう」
「やはり、そうですか……」
オフィリスが長い睫を伏せる。
「では、このまま経過を見る事にしましょう」
「俺もそれが一番だと思う。あいつの様子だとそれが精一杯だからな」
「有り難うございました」
「また何かあったら言ってくれ。力になる」
そう言うと、シャドウの姿が揺らいで次の瞬間には何事もなかったかのように存在が消えていた。
それを見届けたオフィリスは、サンダー達の身を案じて、もう一度溜め息をついた。
※追加説明※
◎属性について
基本は、炎•水•樹•岩(大地)•氷•雷•風•光•闇の9種類。
それに虚無属性と無属性を合わせた11種類で成り立っている。
虚無属性は他の属性魔法を一部吸収して軽減できる。ただし、その属性を持っていると無条件で代償が定期的に必要。
また、無属性はどの属性も持っていないため、逆にむしろ属性攻撃には強い。
ただ無属性の魔法や技しか使えないので、世間では「役立たず」と言われて差別される。
逆に考えると、無属性なら普通では絶対使えない魔法や技も扱える、ということでもある。




