ヒーローズ
「世の中、なんて不公平なんだ!」
鍛えすぎた大胸筋が揺れる。
紫色のスパッツを穿いた男が唸り、洒落たフレンチカフェに乱入する。そこでまったりお茶していたカップルは彼の格好の餌食となった。
「天誅!」
マッチョはカップルのテーブルに駆け寄り、空手チョップでテーブルを両断。
「お客様!」
イケメンの店員が慌ててやってくるが、ひと睨みされその場で凍りつく。そうして客たちは一斉に逃げ始めた。
「ははーん。これくらいでびびってるの?」
店員の背後に、眼鏡に紫色のスーツ姿の怪しげな男が突如現れた。
「イケメンとか言われて、調子に乗っているくせに、いざって言うときはへたれ男だね」
男は人差し指で眼鏡の端を押し上げ、鼻で笑う。そして次の瞬間レジのところに移動していた。
「さすが。カップルに絶大人気のカフェ。かなり儲けてる」
眼鏡の男がレジを開け、札束を扇のように広げる。
「何をするんだ!」
背後の厨房からコックが走ってきた。
「うお!」
だが、コックはレジにたどり着く前に、前のめりに倒れ床に転がる。
その傍に立っているのは細身の男で、顔半分を覆う長い前髪を片手で払い、気だるそうに腕を組んだ。
「レイジー。遅いよ。もう少しでコックにやられるところだっただろ?」
ジョイ――札束を嬉しそうに両手で抱える眼鏡野郎は、前だけ長髪男にそう声をかける。
コックの足を引っ掛けたのはこのレイジーで、ジョイに面倒くさそうに視線を返した。
店内ではまだ破壊音が響く。発信源は引き続きテーブルを割っているアンガーだった。
この三人は、巷で話題の悪の結社「アンフェア」である。彼らは邪魔する店員や再起したコックを再びノックアウトし、テーブルを破壊しつくしてから、ゆったりと店を出た。
そんな彼らを迎え撃つのは、我らが正義の味方「ジャスティス」だ。
「ジャスティス」の構成メンバーは三人。
先ずは力自慢のパワー。往年のアクションヒーローを思い出させる黒のサングラス。小さめの赤色のベストを身につけ、その大胸筋、腹筋を恥じることなく晒している。
二人目はスピード。某蜘蛛男を意識しているのか、銀色のラメで波模様が描かれた全身赤タイツ姿。ヒーローでなければ一見変態のように見えるのが玉に傷だ。
最後の一人はソフト。ツバのある帽子を深く被り、赤色のパーカーを着ている軟体自慢のヒーローだ。
三人は颯爽とアンフェアに立ち向かい、いつものように台詞を決める。
「ここで会ったが百年目。今日こそは、このパワフル様が成敗してくれる!」
「私のスピードについて来られますかね。アンフェア!」
「悪いやつはゆるさない!」
チームのはずなのに、今日もそれぞれ言いたいことを三者三様に述べ、戦いの構えを取った。
「キミたちさあ。いつも思うけど、正義の味方っぽくないよね?」
ジョイは人差し指で眼鏡の端を押し上げ、腕を組む。
「どっちかっていうとボクたちと同じチームじゃないの?」
「うるさい! そんなことはどうでもいいんだ! さっさと奪った金を返しやがれ!」
パワーは、力を誇示するように両拳を胸の前でぶつけながら吼える。
「それはできないな。ボクたちも生活が懸かっているのだから。大体キミたち、生活はどうしているの? 正義の味方でご飯食べていけてる?」
「あなたに心配されなくとも大丈夫です。私たちに民衆という大きなスポンサーがいますから」
ジョイの問いかけに、スピードは華麗にステップを踏み、答える。
「民衆? そーなの?」
ジョイは、ぐるりと自分たちの周りを見渡すが、どうみても正義の味方と悪の結社の戦いを見る感じではなく、完全に見世物を取り囲む様子だった。
「おしゃべりはいいから。早く始めてくれよ!」
そのうち、見物客の一人が声をあげ、ほかの人々も同調し始めた。
「ほら。私たちには大衆がついています」
「……キミ。馬鹿だろう?」
胸を張るスピードにジョイは呆れた声を上げる。
「ジョイ。どうでもいいが、もたもたしていると警察に囲まれる。面倒だから早く片付けるぞ!」
それまでパワーの挑発にも黙っていたアンガーが、のそりとジョイの横に並んだ。
「そうだね。さっ、いくよ!」
ジョイの声を合図に、アンガーとレイジーが動いた。
二人そろってパワーを攻撃する。
「ジャスティス」と「アンフェア」の力は拮抗している。しかし、違うのはひとつだけ。チームワークだ。
「アンフェア」はジョイ指揮の下、協力して戦う。それに対して「ジャスティス」は三人がそれぞれ好きなように戦う形だ。
今日もアンガーが力でパワーを抑えているうちに、レイジーが腹部に拳を叩き込み、戦闘不能にした。スピードの動きは、同じ能力を持つジョイが読んでおり、レイジーに指示。予想できないところから足を掬われ、スピードは地面に顔を打ち付けた。
「えっと残りはソフトだね」
戦闘からわずか二分。
「アンフェア」はまったくの無傷。
対して「ジャスティス」は二名気絶、一名のみが戦闘可能という有様だ。
「今日も僕が最後か」
もう数え切れないほどの戦闘を繰り返しているが、いつも勝った試しがないのが、我等が正義の味方「ジャスティス」だ。
「一人でも頑張る。僕は正義の味方だから!」
ソフトはそう言うと走る。
一人で三人相手はきついので、各個撃破を試みる。
まずはアンガーを標的にする。
アンガーの強力なパンチもソフトには効かない。
攻撃の殆どをゆらりとかわし、隙を窺う。
「うほ!」
ソフトに避けられた拳は木の幹に命中。
音を立てて幹が折れ、アンガーに向かって倒れていく。
「ジョイ!」
「わかってるよ」
珍しく口を開いたレイジーに答え、ジョイはアンガーを素早く掴み、下敷きになるところから助け出した。
「ありがとう」
「まあ、チームだから」
アンガーなのにしおらしくお礼を言われ、ジョイは少しだけ照れた様子を見せた。
「くそっ。なんでなんだ?!」
一人だけでもやっつけたつもりのソフトは、悔しそうに地団駄を踏む。
「甘いな。ソフトくん。狙いはよかったけどね。キミたちとボクたちの実力は五分五分だ。でもどうしてキミたちがいつも負けるか、わかる?」
「そんなこと、知らない!」
ソフトは俯き、パーカーのポケットに手を突っ込む。
「それはチームワーク。リーダーに指示を仰ぎ、結束する。キミたちはそれがないんだよ」
「チームワーク……。リーダー……」
反抗しながらも、話は聞いており、ソフトはジョイの言葉を繰り返した。
「そう。大体キミたちにはリーダーはいるの? ボクらアンフェアのリーダーはもちろんボクだけどね」
「リーダー……。そんなものはいない!大体リーダーなんて必要ない!」
「あらあら。キレちゃった? キミ、名前アンガーに変える? ボクらのアンガーのほうが、よっぽどおとなしいけどね」
ジョイは背後で黙って成り行きをうかがっているアンガーとレイジーに顔を向ける。
「うるさい。アンガーなんて。そんな悪役の名前いらない。僕は軟体人間のソフトだ!」
「はいはい」
「ジョイ。時間だ」
「あ、来ちゃった?」
親指で背後を指すレイジー。背後には警察官数人が走ってくる姿が見えた。
「じゃあ。ソフトくん。ボクのアドバイス、考えてみてね。次は勝てるといいね♪ 」
ばいばいと片手を振ると、ジョイは仲間二人の手を掴み、走り出す。
「待て!」
そう言われて待つ敵はいない。
後方には警察官。
正義の味方と言えども、普通に見たら公衆の面前で喧嘩をしていたことになる。逮捕されては面倒なので、ソフトは慌てて二人を起こし、逃げ出した。
「くそっ! 負けた!」
「これで十九敗目ですね」
「ジャスティス」の秘密基地は、大金持ちのスピードの地下室だ。
怪我の手当てをするのはスピードの専属看護婦。
擦り傷や打撲箇所に薬を塗り、今日の反省とテレビをつける。
『今日も負けた「ジャスティス」』
今日の戦いは五時のニュースで取り上げられており、戦いの様子が映し出されていた。見物客の一人が提供したと思われるスマホ画像が流れる。
――「それはチームワーク。リーダーに指示を仰ぎ、結束する。キミたちはそれがないんだよ」
ジョイの言葉がクローズアップされ、司会者の横のコメンテーターが口を開く。
「もっともな意見ですね。どんな集団も指導者がいてこそ、成り立ちますから」
擦り傷すらなかったソフトは、壁に寄りかかりテレビを見ていた。
ジョイの言葉が何度も頭の中で繰り返され、チームワークとリーダーの必要性について考えさせられる。
「ジャスティス」は、不公平を声に街で暴れまくる「アンフェア」から、町の人を守るために結成された団体だ。
結成者はスピード。自身が特殊能力をもっていたことから、親に頼みソフトとパワーという特異な存在を探してもらい、「ジャスティス」を作り上げた。
ソフトは十五歳の少年で、軟体能力のせいでいじめられ引きこもっていたところを組織に引き込んだ。住み込みの仕事という形でソフトの両親には納得してもらっている。
パワーは、その正義感の強さから数々の問題を起こし、留置所にいるところを確保した。正義の味方になることに異存があるわけがなく、本当は加害者であった被害者からの訴えを取り下げさせ、示談。そうしてパワーは釈放された。
「リーダー……」
「なんだ。ソフト? お前はあのジョイの助言をそのまま受け取るのか? 罠かもしれないぞ」
思わずもらした単語に激しく反応したのはパワーだ。基本パワーは人の意見を聞かない。自分が正義だと思い込んでいるからだ。
「罠ではないでしょう。まあ。あったとしても意味がないですから。私もリーダーは必要だと思っています」
「あ?」
自分の意見を否定したスピードを、パワーが睨み付ける。
「パワー、あなたもそう思いませんか? あなたがよく見ている戦隊もの、リーダーがいるでしょう?」
「……ああ」
不服そうだが、パワーは頷いた。
「ソフトも同じ意見でしょうか?」
「うん」
赤色の覆面を外したスピードは、長髪の女性だった。今日は顔をぶつけたため、絆創膏を張られた可哀想な状態だが、元は美人。微笑まれ、ソフトは少し赤面して頷く。
「じゃあ。決まりですね。リーダーを決めます」
「おう」
「はい」
最初反対していたパワーは消極的で、ソフトはしっかり返事をする。
「さて、その方法ですが……」
「僕はスピードがぴったりだと思います!」
「え? 私ですか?」
「僕だったら、はっきり指示ができないと思うし、パワーは特攻型だから」
「特攻型? 俺だって考えてる! 指示だって、きっと俺のほうがうまくできるはず」
こんなところで突然の負けず嫌い。
パワーはソフトの意見に異議を述べた。
「指示……。まあ。私は誰がやってもいいと思ってますから。でもリーダーなので、決断はしっかり。またリーダーの指示に必ず従うことも重要です。そうでないとリーダーの意味がありませんから」
「従う! いいな、それ。俺が絶対にやりたい! 俺がリーダーでいいよな!」
「え? パワーが?」
急にやる気をみなぎらせるパワーに対して、ソフトはかなり嫌な顔をする。しかしスピードは自分以外ならで誰もよかったので、すぐにパワーに賛同した。
「それでは。パワーにやってもらいましょう。次の戦いでパワーがリーダーになり私たちが勝てたら、リーダーはパワーに決定です」
「やったぜ」
「え――?」
喜びいっぱいのパワー、嘆くソフト。淡々としているスピード。
こうして「ジャスティス」の暫定リーダーは決まり、次の戦いを迎えることになった。
二十回目の戦いは、夜のクラブ「アッテンポ」。
警備員は鍛えたものばかりにも関わらず、「アンフェア」はクラブに乱入し、売上金を巻き上げた。
その際に、バーカウンター、踊り用のポール、踊り台を破壊したのは、アンガーだ。
店を出ると待ち構えているのは、正義の味方「ジャスティス」。そして夜半なのに大勢の野次馬。
そんな中、戦いの幕は切って落とされた。
「今日こそがお前たちの命日だ! リーダーである俺様が成敗してくれる!」
パワーの決め台詞の後、いつもなら二人の言葉が続く。しかし、今日はリーダーのみが発言し、二人は構えるのみに留まった。
「おお。なんか、らしいよ。ジャスティスの皆さん。パワーがリーダーっていうのは意外すぎだけどね。さあ、記念すべき二十回目の戦いを始めようか!」
ジョイの言葉で、アンガーとレイジーが動く。
最初の標的はスピードだ。
視線で、アンガーにスピードの予定移動ポイントを伝え、その身柄を確保。その後にレイジーが攻撃を仕掛ける算段だった。
「いつも同じ手は通用しねーよ! 新生パワースマッシュ!」
パワーが地面を叩き付け、アンガーの手からスピードが解放される。宙を舞った彼女を受け止めたのはソフトだ。
「ありがとう」
「当たり前のことです。僕たちチームですから」
小柄なのに意外に力があるソフトは、スピードを立たせ、構えを取る。
「次は俺たちの番だ。俺たちは前と同じ方法を取る。だけど、」
「はい」
「うん」
中途半端なパワーの言葉に二人は頷く。
「何を考えているのかな? まあ、どうでもいいけど。アンガー、レイジー。次はいいね!」
ジョイの言葉にパワーの攻撃から立ち上がった二人が頷く。
「行け!」
それとほぼ同時にパワーが言い、スピードとソフトが動いた。
「うお!」
移動しようとしたアンガーを止めたのはパワー。
「行かせない!」
同時にレイジーもソフトに前に立たれ、動けなくなる。
「って。スピード?」
予定が狂い、焦って動いたジョイの腕を掴んだのはスピードだ。
「はは。いつもより俊敏だね。でも互角なのにまともに戦うつもりなの?」
「互角? そんなわけありません。正義は強い!」
「は?」
スピードは、顔を歪めたジョイの腕を掴んだまま半回転し投げ飛ばす。その体は一メートルほど跳んだ後、地面に叩きつけられた。
レイジーから繰り広げられる攻撃はアンガーより早いが、威力が小さい。当たってとしても受け流すことが可能で、レイジーの蹴りと突きはソフトにダメージを負わせることはなかった。ソフトからのカウンターアタックで、ついにレイジーがバランスを崩した。その瞬間を狙っていたスピードは、見事な跳び蹴りを食らわせ、地面を這っていたジョイの上に、レイジーの体をお見舞いした。
仕上げにパワーがアンガーの体を持ち上げ、ジョイとレイジーの上に落とした。
「すごい。勝てた!」
「はは。俺様天才」
「やりましたね!」
三人はうれしそうにハイタッチをするが、大衆はそうでもなかった。
「……え? もう終わりなの?」
「ちぇ。俺、ジャスティスの二十連敗にかけていたのに」
「あーあ。次からみたくねーな。強いジャスティスなんてつまんねぇ」
「時間を無駄にしちゃった」
全くジャスティス勝利を喜んでいない野次馬の発言に、三人は顔を見合わせる。
「ははは! 皆さん。大丈夫ですよ!」
明るく笑いながらジョイが大衆の前にその姿を現せた。しかし、無傷とはいかずに服がよれていたり、少し破れており、彼が必死にアンガーとレイジーの体の下から抜け出したこと物語っていた。
「皆さんご期待のアンフェアはまだ負けておりません」
「おお。ジョイだ。ジョイ! がんばれ!」
満身創痍のジョイに、大衆はジャスティスではなく、彼に声援を送る。
「えっと。スピード。僕たちが正義の味方だよね?」
「はい。そうです」
「どういうことだ。これは!」
ソフトとスピードは戸惑い、パワーは吼えた。
「やばいぞ。パワーが怒ったぞ。ジョイ。一人で大丈夫か?」
「大丈夫。ボクは一人じゃないから」
その言葉にアンガーが立ち上がり、レイジーが体を起こす。
「おお、がんばれ。アンフェア! 世の中の不公平なことのために戦ってくれ!」
「リア充をぶっとばせ!」
完全に主役はアンフェアになっていた。
そのうち、大衆からアンフェアコールまで飛び出してくる。
「……俺、やめるわ。まじで、やってられない」
「え? パワー?」
パワーはすっかり肩を落とし、スピードとソフトから離れた。その背中は小さく、二人はそれ以上何も言えるはずがない。
「……あれ。仲間割れ?」
そんな様子に気がついたジョイが振り向く。
「あれ? 二人になってる?」
「くそっつ。僕はスピードのためなら命なんていらない。だから誰も味方じゃなくても最後まで戦ってやる!」
「ソフト……」
「え? そこでBL? なんで?」
「違う! スピードは女性なんだ!みんな知らないけど」
「女性? こんなエキセントリックな姿してるのに? 胸もないよ?」
「エキセントリック? ドラゴンをイメージした私の衣装になんてことを言うのですか?胸がない。それはさらしをしているからに決まってるじゃないですか!」
「あ、そうなんだ」
ジャスティス二名とジョイがどうでもいいことを話し始め、周りがしらけ始めた。
「え。これで終わり? 戦わないの?」
「何、友達モード?」
「ああ。みんながハッピーっていう落ちね」
大衆は無責任なもので、そんなことをわいわいと言い始めた。
「ああ、うるさいな。スピードとソフト。人なんてこんなもんだよ。どう、うちのチームに来ない? 正義なんて、馬鹿らしいじゃん。ボクたちだって貧乏な人からお金をとっているわけじゃないよ。儲けているところからお金もちょっとだけいただいているの。だって、不公平じゃん。必死に働いている人もいるのに、働かないでカフェでお茶してたりさ、クラブで遊んでたり」
ジョイは無邪気な笑顔を浮かべながら、二人への勧誘を続ける。
ソフトは心を揺れ動かされ、スピードの様子を窺う。
しかし、彼女は背筋を伸ばし、ジョイに対峙した。
「私は「ジャスティス」を辞めません。例え、他の人の不満を晴らす「よい行動」だとしても、それは悪いことです。お金を盗んだり、物を壊したり、人を傷つけることはよくありません。私は、私の正義を貫くだけです!」
スピードはそう宣言し、構えを取る。
「そうだ! 僕もスピードと同じように正義を貫く!」
ソフトの場合は、正義を貫くというよりもスピードについていく、が正しいような気がしたが、ジョイはそこらへんに突っ込みを入れることはなかった。
笑みを浮かべると、腕を組む。
「面白いね、それ。じゃあ、二回戦といこうか」
ジョイの言葉に、無責任な野次馬が歓声を上げる。
そうして二戦目が始まったわけだが、二対三はかなりの不利であった。しかし去ったはずのパワーが戻ってきて、戦力は再び五分になる。
「あー俺、飽きてきちゃった」
珍しく長引く戦いに、野次馬が一人、また一人と消えていく。
そのうち警察がやってきて、ジャスティスとアンフェアも戦いを辞めざるをえなくなった。
「次回は必ず勝つ! 覚えておけ! アンフェア!」
どうみても悪役側の捨て台詞なのだが、パワーがそう言う。
「はいはい。了解。次回ね!」
ジョイは軽く手を振ると、アンガーとレイジーの腕を掴み、猛スピードでその場を去った。
「あ! お金!」
アンフェアが去った後、ソフトがそのことに気がつくが、時すでに遅しである。
今日の戦いはいつもよりは優勢であり、一回戦は勝てていた。
だが奪われたお金を取り戻せなかったので、敗退には間違いはなかった。
「くそっつ」
パワーが腹いせに叫ぶが、警察が目の前に迫っている。
スピードは、後ろ髪はないが引かれているパワーの腕を無理やり掴み、もう片方の手でソフトの手を握ると、ジャスティスの秘密基地へ急いだ。
その時ソフトの頬が赤く染まったことをスピードは知らない。
――ジャスティス、二十連敗。どこまで負けるか正義の味方!
翌朝、秘密基地でジャスティスの皆がテレビをつけると、ワイドショーで昨日の二十連敗の戦いが取り上げられていた。
しかし、スピードが宣言した「正義を貫く」という言葉は大衆の心に響いたらしく、いつもより応援ムードだった。
「パワーはいいのですか?」
遅い朝食を食べながら、スピードは向かいに座るスキンヘッドの男に聞く。
「ああ。俺も、俺の正義を貫くさ」
「僕も、僕もですよ! スピード!」
こうしてジャスティスの面々はそれぞれの正義を確かめ合い、結束を固めた。
正義の味方「ジャスティス」は、今日も大衆の期待を背負い戦う。
いつか悪の結社「アンフェア」に勝つために!
(おしまい)
読了ありがとうございました!