第7話 襲い来る衝撃
衝撃波能力者。久崎はXenoLordの兵士だと名乗った。つまり、敵。倒さなければならない。僕は辺りに落ちている全てのガラクタを観念動力で持ち上げる。
「あああぁぁぁぁぁ!」
僕は唸り声を上げ、一斉にガラクタを吹っ飛ばす。しかし、久崎は僅かな隙を見つけ、かすりもせずに避ける。そして、衝撃波を次々に飛ばしてくる。こちらも瞬間移動でかわし続ける。しかし、キリが無い。だったら…
僕は久崎の後ろに回り込む。そして、背中に強烈なキックを浴びせようと試みる。だが、敵の方が一枚上手だった。久崎は振り向き、衝撃波を僕のみぞおちに食らわせる。
「がはぁぁぁ!」
僕は軽く吐血し、壁に激突する。くそ…この程度…
そうだ。異聖剣があれば。異聖剣があればこの程度の奴…!僕は背中に掛けていた異聖剣を両手に持つ。しかし、異様に軽い。最早持ってると思えないレベルの軽さだった。そんな事を考えていると、いつの間にか衝撃波が飛んできていた。くそ…ここでやられるわけにはいかない。僕は衝撃波を剣で切り裂く。衝撃波は二つに分かれ、壁に激突する。壁にはヒビが入っていた。
「このままだと家が壊れる!早く終わらせないと!」
「わぁってるよ!俺が終わらせる!」
僕は再び剣を振る。こちらも強烈な衝撃波を繰り出す。しかし、久崎の衝撃波で相殺される。
「死ね!死ね!消えろぉ!」
僕はただひたすら、衝撃波を出す。しかし、全て相殺されてしまう。埒が明かない。攻める。僕は瞬間移動で敵の後ろに回り込み、剣を振る。しかし、久崎の戦闘力は高く、あっさり潰される。しかし、僕は連続で瞬間移動を繰り返し、ひたすら剣を振る。久崎は動じることなく衝撃波を消し去る。同じことばかりしててはだめだ。僕は一旦敵から離れると、観念動力で敵の乗っている机をひっくり返す。敵はそれを読み、机から飛び降り、こっちに猛ダッシュしてくる。そこに花音が援護射撃を加える。久崎はあっさりかわし、衝撃波を浴びせようと腕を伸ばす。
「そこだぁぁぁぁぁあああああ!」
僕はその腕めがけて剣を落とす。
「くっ!」
久崎の腕が切り落とされる。腕が床にボトリと鈍い音を立てて落ちた。久崎の体から血しぶきが上がる。思わず目を伏せる。だが、その一瞬の隙も敵は見逃さなかった。
「甘いなぁ!日向紫苑!」
久崎は残っている方の腕を僕に向ける。そして、いつも以上に強烈な衝撃波を繰り出す。反応が遅れる。剣を振り上げる間もなく、僕は吹っ飛ばされる。本棚に激突し、本が大量に僕の頭に落ちてくる。
「くそっ!ってぇぇぇ!」
久崎は座り込んでいる僕を嘲笑するかのように見下し、不気味に笑う。血が大量に垂れていくにも拘らず、痛そうな素振り一つ見せない。狂ってる…そう思った。これもゼノンの力なのか?しかし、何か違和感を感じる。何かがおかしい…
「くそ…引くぞ!花音!」
「え?どこに?」
「二階だ!二階に行くぞ!」
「わ、分かった!」
頭痛に耐えながら、僕は花音の腕を掴み、階段を駆け上がる。久崎は階段に向かって衝撃波を放ち続ける。違和感の正体が分かった。僕の名前を何故敵が知っている。あいつとは会ったことなんか無い。それにXenoArtsに入ったのも最近だ。何故知られている。不気味だ。
僕らは階段を上り終え、適当な部屋に突入し、ドアを思い切り閉め、たんすを観念動力で持ち上げ、ドアの前に置く。ベッドがあるので、どうやら寝室だ。ベッドも持ち上げて、ドアの前に置く。そして、一息つく。
「なんで逃げたの」
「逃げたんじゃない。息を落ち着かせ、作戦を立てるためだ」
僕は激しく波打つゼノンの力を抑える。このままだと頭がおかしくなってしまいそうだ。意味が分からない。怖い。腕を切り落とされて平常でいられる奴が怖い。ゼノンの力はそこまで強大だと言うのか?そんなものが自分の体に流れていると思うと恐ろしい。
足音が近づく。そして、足音が止まると、部屋に激しい音が響く。ドアが激しく揺れ、鈍い音がなる。ベッドとたんす程度ではもたない。僕は観念動力でドアを閉める。しかし、いくらドアを押さえてもドアがもたない。徐々にヒビが入っていく。
「まずいんじゃないの!?」
「ああ、分かってる。だから、僕の作戦を聴け。そして、それに従え」
「え…うん、分かった」
花音は渋々承知し、僕の作戦に耳を貸す。
ドアは粉砕され、片腕の無くなった久崎が突入する。しかし、中に人は見当たらない。辺りを見回す。物音が押入れからする。
ーふん、全然隠れられてないじゃないかー
久崎は押入れに向けて腕を伸ばす。そして、手を青く染める。そこだ。ベッドの下に隠れた僕は僅かな隙間から腕を伸ばし、観念動力を久崎に食らわせる。
「ぐっ!」
敵の体の自由が利かなくなる。そのまま、窓に向けて衝撃波を撃つように試みる。久崎の体の主導権は僕にある。今の僕なら…撃てる!僕は腕を伸ばさせる。そして、敵の腕に最大限に力を込める。
撃った。久崎が撃つのよりは弱いが、窓は余裕で粉砕出来た。そのまま体を浮かせる。久崎の頭が天井に激突する。久崎は低い唸り声を上げた。僕は今使える最大限の力を敵に込める。敵も必死に抵抗しようとするが、無駄だ。
「あああああぁぁぁぁぁ!」
僕は叫び声を上げて、そのまま敵を窓から放り投げた。
「うあああああぁぁぁぁぁ!」
久崎も悲鳴を上げて、落ちていく。そして、鈍い音が響く。作戦成功だ。押入れから花音が出てくる。
「やったの?」
「ああ…多分」
僕はベッドを観念動力で押し上げ、狭い空間から脱出する。そして、そのまま窓へと向かう。窓の下を見た。そこには久崎の姿は無く、どす黒い血の池があるだけだった。
「何だよこれ…どうなってんだ…」
「消えたの…?敵があの一瞬で回収したの?」
「だったら敵にも瞬間移動の能力がある奴がいるのか…厄介だな」
「でも、きっと久崎は死んだ。捕まえれば敵の裏事情も知ることが出来たかもしれないけど…この際はしょうがないね。さ、この家の中、片づけよ。そろそろ氷結能力者が目覚めちゃうから。紫苑くんは寝室でも片づけといて」
そう言って花音は部屋から出ていった。あいつ、目の前で人が死んですぐ立ち直れるのか。恐ろしい女だ。いや、しかし、今までこういうことが何度もあったから慣れてしまったのかも知れない。慣れとは恐ろしいものだ。そう痛感しながら、ベッドとたんすを元の位置に戻す。下からは花音が片づけている物音が聞こえる。手伝ってやるか。そう考え、一階に向かう。
しかし、これからこんなことが何度もあるというのか。流石に気が滅入る。敵は僕を殺しにかかっていた。このままだと、いつ死ぬか分からない。僕の力があるとはいえ、今回も花音がいないとやばかった。僕が死の恐怖に怯えるなんて。初めてだ。そんなことを考えていると鼓動が速くなってきた。まずい。抑えろ…
何とか治まる。くそ、面倒すぎる。少し興奮状態になるだけでゼノンが暴走しそうになる。早くXenoArtsに戻りたい。あそこなら殺されることは無いはずだ。僕は一人で廊下に座り込む。助けてくれ…早くゼノンの呪縛から解かれたい…
XenoArtsに帰還する。片づけは30分程度で終わった。30分の間に僕の精神状態は安定したが、手伝わなかったせいで花音に怒られてしまった。既に午後11時を回っていた。一気に睡魔が襲う。マンションのロビーの円卓を囲み、軽い会議をする。五分程度で終わり、解散となった。目をこすりながら、エレベーターへと向かっていると、誠一が肩を叩いてきた。
「お前、大丈夫だったか?怪我とか」
「ああ…ちょっと血が出たり、頭を打ったりしたけど…それより気になることがあるんだ」
「気になること?」
「ああ…敵は窓から落ちた。だが、大量の血を残して、消滅した。そして…何故か敵は僕の名前を知っていた。わけがわからない。頭がおかしくなりそうだ。変な事ばっかり起きて…」
誠一は腕を組み、唸った。その間に、エレベーターに乗り込んだ。暫く唸った後、誠一は静かに言った。
「消滅したのは俺にも分からんな…でも、お前の名前を敵が知っていたのは…」
「何!?心当たりがあるのか!?」
「まあ…やっぱ気のせいだろうな。やっぱいいわ。うん」
「は?気になるじゃねぇか」
エレベーターが開く。誠一は「じゃあな」と軽く手を振って、さっさと部屋に入っていった。あいつは何か知っているのだろう。だが、余計な詮索をするつもりは無い。僕はそういうのが嫌いだ。僕も部屋に入り、ゼノンスーツを脱いで、異聖剣を置いて、ベッドに飛び込んだ。風呂は朝に入ればいいだろう。ていうか、昨日から全然入ってない。体が汗臭い。だが、もう目はどんどん閉じていく。
夢を見た。ここに来た日の夜に見た夢と同じ、ぐちゃぐちゃした夢だった。何かが動いているのは分かるのだが、それが人なのか動物なのか機械なのか…何も分からない。奇妙な夢だ。どちらにしても見てて心地よい夢では無かった。早くこんな夢から離れたい…これもゼノンのせいなのか…?
夢から醒めると、既に朝になっていた。
戦闘をもう少し臨場感が出るように書きたいです。