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第11話 不明瞭

今回は短いです。

「勝手な事、やってくれたね」

 

 花音だった。勝手な事、とは京也を連れ去り、ゼノンの力と記憶を抜き去った事だろう。


「…ちょっと付き合ってくれない?」


 何だ?怒ってないのか?それだけ言うと、勝手に歩き始める。仕方なく僕も付いていくことにした。一体何を考えているのか。精神感応(テレパシー)で…


 ーゼノンの事、そろそろ話さないとね…ー


 ゼノンの事…一体何だと言うのか。


 花音が向かった先は花音の自室だった。「入って」と、促される。とりあえず入る事にした。中は意外と女の子らしい装飾に囲まれていた。小物も沢山ある。花音も入ると、ドアを閉め、ソファーに座った。僕も座る。しかし、女と二人きりなんて母親以外とだったら初めてだ。異様に緊張する。何でこんな感情になっているんだ。


「いきなりで悪いけど…前の事は…ごめんなさい。謝るよ」


 花音が頭を下げる。何?こいつは頑固な奴じゃなかったのか…あっさり謝られたので、思わず拍子抜けしてしまった。


「何?驚いてるの?私があっさり謝ったことに」


「いや…まぁ…そうだな。僕も謝りたいと…思っていた。すまない」


 僕も頭を下げた。頭を下げる行為なんて本当は嫌いだった。年上ならまだしも、同年代に下げる程屈辱的な事は無かった。でも、花音は下げた。同年代の人に頭を下げさせるのも僕は嫌いだ。だから、僕も下げた。それだけだった。


「じゃ、これで仲直りね。で、色々訊きたい事はあるけど…まずは、この映像を見てほしい」


 花音は真っ白な球体を手に持ち、ボタンを押す。すると、そこからディスプレイが展開された。そして、映像が流れ始めた。そこでは、普通の人間がただひたすら走っていた。そう思えた。だが、違った。一見、森の中を突っ走っているように見えたが、それにしても木の形がおかしい。それで、気付いた。これは草だ。しかも、尋常じゃ無く大きい。そして、巨人が遠くから走ってきた。しかし、姿を子供のもの。


「気付いてると思うけど、こいつは能力者。縮小(ミニマム)の、ね。この能力はうまく利用すれば、潜入捜査にも使える。でも、こいつは中立。別に潜入捜査なんてする機会は無い。それだと、いよいよ使い道が無くなる。だから、縮小したらもう駄目よ」


 花音は無機質に言った。まるで何とも思っていないようだ。相変わらず読めない奴だ。


「つまり…ゼノンは人の立場によって使い道が変わるし、使えるかどうかも変わる。例えばこの縮小なんかいい例よ。そして…前の念写(ソートグラフィー)能力者。普通の人はそんな能力、カメラがあれば必要無い。でも、ああいう犯罪まがいの行為なら使えるわけよ。そして、さっきの男。陸上選手という立場があれば駿足(ファスラナ)は使える」


「何が言いたい」


「そして…あの教師。共感能力(エンパス)なんて、普通の人間にあったら邪魔でしか無い。でも、教師という立場にいれば、最高の使い道となる」


「だが、お前はその最高の使い道を奪った」


「そうね…だから私は分からない。その日から…ゼノンの事が」


 花音は呟き、俯く。こいつはゼノンが発見された初期から携わっている筈だ。それなのに分からないなんて。


「ゼノンが発見されてからまだ二年程度しか経ってない。はっきり言って私達もゼノン初心者でしかない。確かにゼノンは凄い。機械に感情を持たせたり、凄い性能を発揮出来たり。そう、ゼノンは機械にしか本来は与えてはいけない物なのかも知れない。試しに人にやったら特殊能力を使えるようになった。それだけで、ゼノンヒューマンを増やそうと考えた。これが…そもそもの間違いだったのかも知れない」


「つまり…人には適応されないもの…」


 確かにゼノンを取り入れた後は激しい痛みと吐き気に襲われる。これはつまり身体がゼノンを拒絶しているという事になる。


「本当はゼノンヒューマンなんてここから無くしたい…でも、敵もゼノンヒューマンを作って襲ってくる。だから、こちらもゼノンヒューマンを使わざるを得ない。ふっ…間違った事を正すために間違った事をする…皮肉なもんね…」


 花音は頭を押さえる。そして、顔を上げ、僕の目を真っ直ぐ見据え、言った。


「だから…あなたにはここにいて…ゼノンについて考えてほしい。それが…あなたの宿題。分かった?」


「宿題って…んだよそれ…」


 僕は頭を掻く。意味が分からない。僕だって…今の話を聞いて何が正しいのか分からなくなった。僕自身、少し前はゼノンを使って暴れてた。でも、今では正義の為に使っている。これも皮肉なこと…なんだろう。


 花音は「話はこれだけ。じゃあね」とだけ言うと、部屋の奥に入っていった。僕も用が無いので、自分の部屋に戻ることにした。


 部屋に戻ると、水の音が聞こえていた。そういえば、湯船にお湯を入れている途中だった。物凄く水を無駄にしてしまったな…そう思いつつ、お湯を止め、服を脱ぎ、湯船に浸かった。何だか凄く疲れた気がする。今頃、京也は走ってるのだろうか。だとしたら、どんな成績を修めるのだろう。あいつは、ゼノンを手に入れてから練習はしなくなったと言っていた。きっと…ろくな成績では無いだろう。きっと、僕は正しいことをした筈だ。きっと…いや、これも「分からない事」なのだろう。宿題…あいつは新入りの僕に問題提起をした。どういう意図なのか、今は分からない。だが…ここから考えればいい。僕は出された課題をこなせないというのは嫌いだ。考えてやるさ。僕は立ち上がって、風呂を出た。

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