第1話 出会い
西暦2×××年。科学技術が進歩し、ロボットが仕事をするのが当たり前の世界。巨大人型ロボットも開発され、空中道路や超高層ビルは至る所にあった。宇宙にも進出し、太陽系の惑星全てに着陸を成功し、月に移住した者もいる。いわゆる、昔のSF映画に出たような物はほとんど開発され、更にそのSF映画を超える科学技術も生まれていた。
そんな中、人間は働かず、全員遊んで暮らしていた。勉強も自動学習装置が生まれ、義務教育も無くなった。だが、人間の科学力は衰退することは無かった。
ゼノンエナジー。これの発見により、世界は大きく変わった。ゼノンを使うことで、機械の能力は限界突破し、人間並の知能を持ち、科学的に未だに証明されていない特殊能力までも使えるようになる。だが、そのあまりにも有能で強力で危険なゼノンは、一般に流通されることは無く、一般人には存在すら知られていなかった。また、発生方法も分かっておらず、希少価値が非常に高いため、ある組織のみが使用可能という状態になっている。
この物語は、そのゼノンを巡る戦い、その最前線が舞台になる。
夜。事件は起きた。スカイリニアの駅のホームにいた人々が、凄まじい速さで襲い掛かるナイフに切り裂かれ、1人残らず死んだ。一瞬でホームは血に染まった。その後、全世界の電波がジャックされ、全世界のテレビにある1人の男が現れた。黒いコートを着て、フードを被っていて目は見えないが、笑った時に光る歯は不気味だった。
「僕は特殊能力を持つ者だ。僕は人間には持ち得ない能力を手にした神にも等しい存在。貴様らのひ弱な武器では絶対に倒せない。よって、今すぐ降参しろ。僕も出来れば手荒いことはしたくない。今すぐ降参すれば、僕の奴隷として全世界の人間を仕えさせてやる。だが、僕に抗うというのなら…容赦なく貴様らを殺すいいな。返事を待っている」
それだけ言うと、いつものテレビ番組に戻った。
騒然とする街。悲鳴や泣き声も聞こえる。怯えて倒れこむ者もいる。無様だ。人間なんて所詮この程度だ。いくら科学力が進歩しようと自分は強くならない。この程度だったのか人間は。こんなにもちっぽけな者だったのか。全世界屈指の高層ビルの屋上にただ1人立つ男。黒いコートを着て、ポケットに手を突っ込み、フードを被った男。日向紫苑はテレビで見せた笑いを再び見せた後、ポケットから手を取り出し、耳に当てる。
-あの程度のテロ活動はわしらの軍事力で止められるわ。もしも敵が暴れだせば攻撃だ。それまでは無視だ。日本の信用を落とすわけにはいかんからな。ガハハハ。-
日本の首相、安藤の汚い声が聞こえる。それを聞き、紫苑はただ一人、笑い転げた。僕を止めれるものか。日本のひ弱な科学力なんかで。いや、世界中の軍が集まろうと僕には勝てない。無様だ。哀れだ。
そして、笑い顔から一転、紫苑は悪魔の形相へと変貌した。この力があればどんな敵だろうと倒せる。まずは首相を殺すか。そうすれば僕の力を誇示させられる。その後は誰を狙おうか。アメリカの大統領でもいいか。いや、宇宙に飛んでムーンワールドの大統領でもいいか。まあいい、あらゆるトップは全員抹殺する。僕は無敵の超能力を手に入れた。負けることなんて無いんだ。
紫苑は片手を胸に当てる。数秒後、手から青白い光が発せられ、そのまま紫苑の体を飲み込んだ。そして、消えた。
首相官邸。安藤と、その取り巻きが廊下を威張りながら歩く。安藤は余裕そうな笑みを浮かべている。奥ではマスコミ達が騒ぎながら待ち構えている。さて、何と答えてやろうかな。ここで日本の力を全世界に示し、世界の中でも優位な位置に立てれば好都合だ。つい、癖で大笑いをしそうになって寸前で止める。
その時だった。マスコミ達が待ち構えている場所で突然大爆発が起きた。マスコミ達はぐったり倒れこみ、動かない。取り巻き達が騒ぐ。
「ええい、黙れ黙れ!…これは一体…」
更に、後ろから高速でナイフが飛んできて、取り巻きは全員切り裂かれた。あっという間に官邸は血の海だ。
「これは…一体…」
呆然としている安藤の目の前に、紫苑が突然現れる。声にならない悲鳴を上げ、安藤は倒れた。腰を抜かして立てないようだ。
「さて、どうしてくれよーかねぇ。腰抜けじいさんよぉ」
「あ…あ…い、命だけわぁ」
怯えた表情でこちらを見る安藤。偉そうなことをいいながらただの腑抜けじゃないか。なぜこんな男が首相に選ばれたのか理解に苦しむ。
「貴様がこの国のトップにいる限り、この国は堕落するまでだ。貴様は消える必要がある」
「や、やめてくれぇ!」
僕は年老いた男の哀れな姿を嘲笑した。そして、手に青白い光を纏うと、床に落ちていたナイフが浮かび上がる。観念動力の能力だ。僕の持つ能力の1つだ。僕は他にも瞬間移動、精神感応も使える。この3つの能力だけで、僕は世界最強の人間になれた。
ナイフを自在に操作し、安藤の首に突きつける。少し血が出ている。今にも安藤は気を失いそうだった。このまま首を切り裂くのもいいが、この哀れな姿を見るのも面白い。僕の低い笑いは、いつの間にか甲高い笑い声へと変わっていった。楽しい。楽しすぎる。国のトップを僕は怯えさせている。それだけでも快感だった。だが、僕の野望の中ではこの程度の男を消すのは序盤の序盤。さっさと殺してしまおう。
そして、宙に浮かんだナイフは安藤の首を切り落とした。
用は済んだ。僕は次の目的地へと瞬間移動した。
次の目的地は新宿だ。ここには溢れんばかりの人が集まっている。ここにいる奴らを全員殺してしまえば、いよいよ僕の力を示すことが出来る。さあ、どうしてくれようか。まず精神感応で、奴らを怯えさせようか。僕は青白い光を纏った手を口に当て、心の中で送りたい言葉を話す。そうすれば、精神感応の送信が出来る。範囲は新宿全域の人間。
途端に、街から大量の悲鳴や怯え声が聞こえだした。そして、慌てて走って逃げようとし、転んだり圧し潰される人が続出した。滑稽だ。だが、これだけで終わらせる気は無い。僕は手に光を宿すと、地面に向かって観念動力を送った。すると、地面が大きく揺れ、その後、地面が大きく割れた。人々は悲鳴を上げながら奈落の底へ落ちていく。僕は声を上げて笑いながら、更に地割れの範囲を広げた。人がどんどん落ちていく様は愉快だった。僕が人を殺している。この快感は何物にも変えられなかった。僕は狂った化け物のように破壊の限りを尽くした。地面を一通り壊すと、今度はビルに向かって観念動力を送る。ビルは粉砕し、倒れる。僕の周りにあるビルは次々に粉砕された。
「ククク…ハハ…アハハハハハハハハ!死ね!死ね!皆いなくなっちまえよぉ!」
そう叫んだ時だった。突然遥か遠くから、青い閃光が凄まじいスピードで飛んできた。
「!?」
僕は間一髪、観念動力で閃光の軌道を曲げ、衝突を防いだ。一体、何が…
すると、今度は黒い物が飛んでくるのが見えた。そして、ある程度近づいた時、それが何なのか分かった。ロボットだ。真っ黒のボディに、血管のような青白い線が所々に浮いている人型のロボット。右手にはボディと同じ配色の巨大な剣を持っていた。そして、そのロボットからは妙な波動を感じた。体に強い衝撃が走るほどの強い波動。
いつの間にか、僕は笑っていた。面白そうじゃねぇか。やってやる。ロボットは剣をこちらに向けて振りかざす。僕は瞬間移動でかわし、ロボットの頭上に降り立つ。しかし、敵は物凄い速度で空に向かって飛ぶ。物凄いGだ。僕は再び瞬間移動で地面の割れていない部分に降りる。敵は天空から威圧的な恰好でこちらを見る。夜の空とボディが同化して、その中で不気味に光る青白い線。
そして、敵は隕石のように大量のレーザーを降らせる。僕は瞬間移動で間一髪、攻撃をかわす。しかし、回避しても回避してもレーザーは降り注ぐ。このままでは埒が明かない。
だったら、これはどうだ。ロボットなんだから操縦席に誰かが搭乗しているはず。だったら内部に侵入してそいつを殺せばいい。僕はレーザーを瞬間移動で回避し、そのままロボット内部に入り込む。
ここはどこだ。確かにロボット内部に入り込んだはず。しかし、操縦席は無く、何もない妙な空間に降り立った。天井からは青白い光が降り注ぐ。ここは操縦席では無いのか?そう考え、また瞬間移動をしようとした時だった。
-パンッ
体に衝撃が走る。慌てて背中を見ると、矢のような物が刺さっていた。矢にはカプセルのような物が付いており、中にある青い液体が体に注入されていく。猛烈な吐き気に襲われ、体から力が抜けていくのが分かった。僕は地面に倒れる。まだ意識はある。
「誰だ…出て来いよ!くそぉ!」
声を絞り出す。過呼吸のような状態だ。苦しい。こんな所で死ぬのかよ…そう思っていた時だ。どこからか女の声が聞こえる。
「安心して。それはゼノンの力を抑制する薬よ。死にはしない。それに今あなたを死なせるわけにはいかない。悪いけど、一緒にXenoArtsに来てくれないかしら。あなたは重要なゼノンヒューマンなんだから」
僕は瞬間移動を試みる。だが、体が言う事を利かない。どうやらゼノンとやらを抑制されたようだ。しかし、ゼノンとは一体何なのか。それが僕の特殊能力に何か関係があるというのか。それにXenoArtsとはなんだ。聞いたことも無い。
やがて、意識も朦朧としてきた。そして、最後に見えたのはロボットのボディと同じ配色の銃を持つ女だった。
次回・・・謎に包まれた『XenoArts』に突入!