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終わらない物語  作者: 華百合
9/10

新たな恋の訪れ

 皮肉なことに、それから2人がヨリを戻すまでは、それほど時間がかからなかった。きっと、もとから結ばれる運命の2人だったということなんだと思う。

課長が倒れた時、皿池は周りの目も気にせず走っていった。そして、激しく混乱しながら「大斗さん!」と何度も課長の名前を叫んだ。その光景を見ていて、俺ははっきりとわかったんだ。

…皿池は、課長のことがずーっと好きだったんだってことを。たとえ裏切られても(実際は誤解だったんだけど)、それでも思い続けてしまうぐらいの強い愛情。なんだか、どこまでもまっすぐな彼女らしい愛だと思った。


 課長が倒れる事件があったあと、しばらく社内はその噂で持ちきりだった。

企画部の面々はほとんどが前から気づいてたから、取り立てて騒ぐということはほとんどなかったけれど。2人がヨリを戻してからは、企画部にも以前のような平和で穏やかな雰囲気が漂うようになっていた。企画部飲みのときは2人とも気が緩むのか、間違えて名前で呼んでしまうハプニングもちょくちょくあったけど、みんな笑って受け流すような人ばかりだ。だからこそ、愛を育んでいけたのかもしれないな。

課長と皿池の噂はあっという間に広まり、課長を好きな女性社員から皿池が嫌がらせされないか気がかりだったけど、特に心配いらなかったようだ。だって、皿池もじゅうぶん魅力的なやつだから。万が一何かあったとしても、きっと課長が守ってくれることだろう。

――こうして、俺のナイト生活は終わりを告げたのだった。


 「じゃあ、『皿池凛を見守る会』円満解体を祝して!」

「かんぱーい!!」

皿池と課長の結婚式が無事に終わり、2次会にも参加した後。俺は同期の沖田と2人、ラスト集会と称して小さなバーに来ていた。

「いやー、ほんっと良かったよねえ。2人ともすっごい幸せそうだったなー」

沖田がスマホで写真を見ながら、うっとりとした様子で言う。

「そうだなー…。なんか、俺も結婚したくなった」

「あはは!そんな相手いるの?」

「いないけど。いいんだよ、これから探すから」

「凛以上の相手を?」

「…え?」

…俺が皿池のこと好きだったって、知ってたのか?

沖田は優しく微笑みながら続ける。

「最初から気づいてたよ。っていうか、だいたい、好きでもない相手のために『見守る会』なんて作らないでしょ。自分のことを後回しにしてでも、凛を守りたかったんだよね?自分が自分がっていう人が多い中で、そういう考え持てるって…すごいことだと思うよ。阪本くんらしい」

「いや、俺はただ、未練ったらしかっただけだよ。皿池のこと、すっぱり諦めきれなくて。課長との仲だって、引き裂こうとしたこととか、正直憎いと思ったこともある。でも…、今日のあいつの顔見たら、なんかもう…そういう感情、どうでもよくなった。きっと今まで通り、同期の友達として仲良くやっていけるような気がしてるよ」

ウィスキーを流し込むと、なんだか心にじわりと沁み込んでいくような気がして心地よかった。

俺はようやく、1つの恋に終止符をつけられたのだ。

「…凛を影ながら支える阪本くんを、さらにその影から見てた人がいるって知ったら…どう思う?」

「え?」

なんのことかわからず、隣に座る沖田のほうを見ると…、彼女は静かに俯いていた。

「あたし…、前の彼氏とつきあってる間も、阪本くんとこうやって話すこと多かったじゃない?それで、なんとなく比べちゃうことが多くて…、気づけば、阪本くんの比重のほうが大きくなってた」

たしか、営業部の先輩と別れたって話はずいぶん前に聞いた。ただなんとなく合わなくなっただけとは言ってたけど。

…ちょっと待て。この話の流れって、つまり……。

「ずっと前から、阪本くんのことが好きだった」

「……」

「あたし、最低だよね。友達の話題利用して、好きな人に会う口実にしてたんだもん」

ますます下を向く沖田の手に、俺は自分の手を重ねた。はっきりした理由はわからないけど、なんとなく沖田には上を向いていてほしかったんだ。

「…あいつなら、きっと許してくれるよ」

「うん…。そうだね」

もしもこの感情が恋に発展することがあるならば…、俺は俺の運命に身を委ねてみようと、静かに思うのだった。

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