恋敵との対立
皿池はその翌日からも、俺と今まで通りに接してくれた。少しがっかりしたような、ほっとしたような気持ちだけど、これは彼女の優しさなんだと思う。
そんな俺たちを、課長がかなり気にしているということには気づいていたけど…、俺は見せつけるように皿池と仲良くした。皿池を傷つけた男なんて、ずっと後悔し続ければいいんだ。
だけど、皿池の課長に対する気持ちが全く変わっていないことにも…俺は気づいていた。
「あ…」
「……お疲れ様です」
梅雨真っ只中のジメジメした日。1人、カフェスペースにココアを買いに来たら、偶然課長に出くわしてしまった。皿池のことがあってから、俺は課長と2人ではほとんど話さなくなっていた。
こうやって間近で見ると、やっぱこの人やつれたな…。
特に話すことも思い浮かばなくて、黙ってココアを買ってそのままオフィスに戻ろうとしたが…、
「あ、待って」
課長に声をかけられ、足を止める。俺は極めて冷静を装って、ゆっくりと課長に向き直った。
「なんですか?」
「その…、皿池さん、何か言ってなかった?」
課長は、恐る恐るといった様子で切り出した。
「何かって、なんですか」
「……いや、言ってないならいいんだ。引き止めてごめん」
そんな煮え切らない態度に、俺の怒りはどんどん増していく。
この缶が空っぽだったら、きっと握りつぶしてしまっていただろう。
「…皿池は、恋には興味ないみたいですよ。課長のことも、特に何とも思ってないと思いますけど」
俺がそう冷たく言い放つと、課長は明らかに傷ついた顔をした。…こんなに素直に顔に出る人が、本当に二股なんてしたんだろうか。
前々から、少し信じられない部分はあった。とにかく人望があって、俺も課長の人柄の良さは知ってる。そんな人が、まわりから批判されることなんてするのかな。まあ、すべてを知っているわけじゃないし、課長にだって腹黒い部分がないとも限らない。虫も殺さないような顔して、サスペンスホラーが好きな人だっているだろうし。
森山さんだけじゃ飽き足らず、皿池に近づいたのか…。それとも、皿池があまりに可愛すぎて放っておけなかったか。たぶんそのどちらかだろう。
「…阪本君は、皿池さんが好きなの?」
「そんなこと、どうして課長に教えなきゃいけないんですか。課長こそ…、あいつのこと、どう思ってるんですか」
課長の返事次第では、俺は2人の仲を取り持とうと協力したかもしれない。けれど、課長の口から出たのは…
「…それこそ、どうして君に教える必要があるのかな」
挑発的な言葉だった。きっと、彼女と必要以上に行動を共にする俺への怒りが込められていることだろう。
そうか。そっちがそういう態度なら、絶対協力なんてしてやらない。
俺は課長を置き去りにして、1人でオフィスへ戻っていった。