衝動
その夜、同期3人で飲んだ後、別方向へ行く沖田と別れて駅へ向かう。…皿池と2人きりだ。
オフィスや研修所なんかの、みんながいるところで2人で話すのはよくあったけど、こうして外で2人きりっていうのはたぶん初めてだ。たかが2人分の足音でも、友達や会社の人とは全く感じ方が違って…、隣を歩くだけでも緊張してしまう。
だけど、緊張してる場合じゃない。今夜、言うって決めたんだから。
「…なあ、皿池」
「んー?」
皿池はあまり飲んでないはずだけど、極端に酒に弱いからな…。なんだかふわふわ歩いていて、俺の神妙な口調にも気づいていないようだった。
「俺とつきあってよ」
「……え?」
皿池の大きな目が一気に見開かれ…。そして、頬はほんのり赤く染まった。
俺が立ち止まると、それに合わせて皿池も止まる。
「俺なら、お前を裏切るような真似はしない。絶対課長より大事にする」
「で、でも、阪本くん彼女いるんでしょ…?すっごい美人の」
慌てた様子で俺を見る皿池。
きっと、混乱させてしまっているだろう。けれど、もう止められなかった。
「あいつとはとっくに別れてる。それからずっと、お前のことが好きだった」
「えっ…、そんな、急に言われても……」
俺はほぼ無意識のうちに皿池の肩を引き寄せ、強く抱きしめた。ずっと、触れたくても触れられなかった…。好きな気持ちを押し殺して、友達としてそばにいたけど…、もう、これ以上は黙っていられなかった。
「お前が課長といい感じなの、ほんとは前から知ってたんだ。それで…ずっと、嫉妬してた。返事は急がないから。課長のことを忘れるために俺を利用してくれたっていい。そのあとに、俺だけを見てさえくれれば。…だから、真剣に考えてくれないか」
「……うん…」
皿池が抵抗しないのをいいことに、俺はさらに力を込めて体を密着させた。
こいつって、こんなに小さかったんだな…。それなのに、いつも笑顔で気を張って、精一杯生きている。守ってあげたいと感じるのも、そのせいかもしれない。
困らせてごめん。気持ちを隠せなくてごめん。でも…皿池が傷ついて、寂しそうにしてるとこなんて、見たくなかったんだ。
「…阪本くん」
「ん…?」
「痛い…」
「…あっ!ごめん!」
つい、力をこめすぎてしまったみたいだ。
俺は皿池からぱっと離れる。でも俺が告白したとき、皿池はどう思ったのかがわからないから、なんとなく顔を上げ辛かった。だから、
「帰ろっか!」
そう言って皿池がにこっと笑ってくれたとき、俺は心の底から救われたんだ。